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7-29

 場面が劇場に戻ると、まず最初に舞台上のシーラが目についた。

 接客用の佇まい。

 接客用の微笑み。

 語り部であるシーラの立場を考えると当然の立ち居振る舞いだが、ことシーラに限って言えば、それは当てはまらない。

 

「少々長くなってしまいましたが、本日のお話はいかがだったでしょうか」


 見る者すべてを魅了するような接客用の笑顔に、芸術の域に達しているとさえ思わされる優雅な接客用の仕草。

 客商売なら当たり前のそれらが違和感となってシーラに纏わりついて、あふれ出しそうな感情を包み隠しているよう感じさせる。


「フローリストが息を引き取ったあと、亡骸を集落まで運んで火葬した二人は、次の目的地へ……とは、いきませんでした。幼少期の記憶が蘇ってしまったせいで、クラーラは気持ちの整理ができずに混乱し、何もできなくなってしまったのです。それでも何とか、クラリスたちはアイチ県まで移動したのですが……。ここから先は、次回に語ることにいたしましょう」


 だから、今日は帰れ。

 と、シーラは言ってもいないのに、言われたような雰囲気が観客席を包んだ。

 はっきり「帰れ」と言われるよりも、明確な拒絶。

 営業用の笑顔と仕草で隠している感情を爆発させるために、シーラは一人になりたいのだろう。

 

「それでは、本日はこれにて閉幕とさせていただきます。お客様方のまたのご来場を、お待ちしております」


 それを証明するかのように、シーラが言い終えるなり劇場内が暗く始めた。

 



 

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