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場面が劇場に戻ると、まず最初に舞台上のシーラが目についた。
接客用の佇まい。
接客用の微笑み。
語り部であるシーラの立場を考えると当然の立ち居振る舞いだが、ことシーラに限って言えば、それは当てはまらない。
「少々長くなってしまいましたが、本日のお話はいかがだったでしょうか」
見る者すべてを魅了するような接客用の笑顔に、芸術の域に達しているとさえ思わされる優雅な接客用の仕草。
客商売なら当たり前のそれらが違和感となってシーラに纏わりついて、あふれ出しそうな感情を包み隠しているよう感じさせる。
「フローリストが息を引き取ったあと、亡骸を集落まで運んで火葬した二人は、次の目的地へ……とは、いきませんでした。幼少期の記憶が蘇ってしまったせいで、クラーラは気持ちの整理ができずに混乱し、何もできなくなってしまったのです。それでも何とか、クラリスたちはアイチ県まで移動したのですが……。ここから先は、次回に語ることにいたしましょう」
だから、今日は帰れ。
と、シーラは言ってもいないのに、言われたような雰囲気が観客席を包んだ。
はっきり「帰れ」と言われるよりも、明確な拒絶。
営業用の笑顔と仕草で隠している感情を爆発させるために、シーラは一人になりたいのだろう。
「それでは、本日はこれにて閉幕とさせていただきます。お客様方のまたのご来場を、お待ちしております」
それを証明するかのように、シーラが言い終えるなり劇場内が暗く始めた。




