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7-26

 わたしが新たにクラリス・クラーラに組み込んだ疑似剣聖再現魔術ラーサーズ・ブートキャンプでクラリスの動きを誘導し、クラリス・クラーラに投げさせた対光神用魔法(ミスティル・テイン)は、数ある伝説級魔法の中でも特に異質な効果を秘めています。

 対光神用と銘打たれていますが、それは単に、かつて光の神に対して使われたとしか伝わっていないからです。

 その真なる効果は、攻撃対象ですら把握していない弱点への特攻。

 伝わっている伝説によると、この魔法は唯一使われた光の神すら知らなかった弱点、ヤドリギの木でできた槍になってその命を奪ったとされています。

 ですが、欠点もあります。

 この魔法は対象に触れない限り効果を発揮せず、触れたとしてもどういう効果をもたらすかわかりません。

 そもそも、対象の弱点が生死を分かつほど致命的なモノでない場合もあります。


「んん? なんか槍がアイツの盾に当たった途端に、でっかいアボガドに変ったんだけど……」

「それが、彼の弱点だったのでしょう」

「いや、アボガドだよ? 当たって弾けて果肉をぶちまけただけで終わったよ? アイツもどうしていいかわかんないって感じで、ドロドロになった体を見回してるよ?」

「……もしかしたら、彼はアボガドアレルギーだったのかもしれません」

「アボガドアレルギー? アボガドはわかるけど、アレルギーって何?」

「簡単に言うと、特定のモノに対して起きる免疫の異常反応です。技術院の医療部門でもまだ研究途中だったはずですが、代表的なモノだと目が痒くなったりくしゃみが止まらなくなったりします。最悪の場合はアナフィラキシーショックを起こし、死に至る場合もあるとかないとか。そのアレルギー源として挙げられていたモノの中に、アボガドもありました」

「でもアイツ、そうなってないよ?」

「サン・サインの中にいるからでしょうね。もしも生身だったら、それなりに効果があったでしょう」


 これを伝説級と呼ぶのはカテゴリーエラーでは? と、疑ってしまうほど効果は期待外れでしたが、確認はできました。

 サン・サインの全身にこびり付いたアボガドが消える前に胸部の正十二角形、合体前にリクゴウと呼ばれていたものが回転していたのです。

 

「ちょ、ええ? また体が勝手に動き始めたんだけど……」

「ラーサー様の戦闘技術をあなたの体で疑似的に再現しているだけです。下手に抵抗をすると、手足が変な方向に折れてしまいますからご注意ください」

「怖っ! そんな怖い魔術、いつの間にあたしに使ったの!?」


 ミスティル・テインを発動する前です。

 とは言わずに、ハーロット・オブ・バビロンの時点で搭載されていた魔法を発動しました。


宝物庫顕現魔法(ミニュアース)


 魔法名を唱えるなりクラリス・クラーラの背後に出現した扉は、現存する全ての伝説級魔法が内包されている蔵へと続く扉です。

 その中には私ですら初見の魔法が数多く存在し、全貌を把握しきれていません。

 わたしがこの魔法をチョイスした理由は、疑似的なリメンバー・ラーサー状態になっているクラリス・クラーラの性能をたしかめるためでもありますが、保険でもあります。

 通常のリメンバー・ラーサーは、武具錬成魔術(ブラック・スミス)で具現化された何の効果も付与されていない武器を振るうだけですが、この魔法を併用すれば多種多様な効果が付与されている武器を振るうことができます。

 それこそが、アリシア様はもちろんわたしですら実現できないリメンバー・ラーサーの完成系。

 チートに届く能力が宿った千差万別の武器を卓越した技量で振るうことができたなら、敵など存在しないと思えてしまいます。


「クラーラ! 武器! 武器! 何でも良いから武器ちょうだい! なんかしようとしてる! 剣なり槍なり、振ろうとしてる!」

「わかっています。では、初手はこれでいきましょう」

「これ!? これってどれ!?」

「あなたも使ったことがあるでしょう? 防御概念切断魔法(エクスカリバー)です」


 オオヤシマ固有の剣術、ケンドーで言うところの逆袈裟の動作をしていたクラリス・クラーラに、わたしはエクスカリバーを握らせました。

 ちなみにこれはミニュアースから取り出したものではなく、別に発動したものです。

 ミニュアースに内包されていた各伝説級は、クラリス・クラーラがエクスカリバーを振り上げてサン・サインの左手を玄武ごと繰り飛ばしたころには射出され、周りを取り囲むように地面に突き刺さりました。

 もちろん、クラリス・クラーラに合わせた大きさで。

 その光景を目の当たりにしたサン・サイン……いえ、中にいるアベノ・セイメイは「まるで、アンリミテッドブレイドワークスだな」と、左手の切断面を右手で押さえながら忌々しそうに呟きました。


「クラリス! 畳みかけてください!」

「それはあたしじゃなくて、あたしにかけた魔術に言って!」


 言われてみれば確かに。

 今のクラリスは、自分の意志で動けません。

 ですが今のところたいした問題はなく、地面に突き立った伝説級魔法を次々に使い捨てにしながら、サン・サインに復元の隙を与えず斬り結んでいます。

 不満があるとすれば、ラーサー様の戦闘パターンをただ真似ているだけのラーサーズ・ブートキャンプでは、各伝説級魔法の効果を把握してチョイスすることができていないところですね。

 例えば、サン・サインの炎に対して木属性の剣を使ったり、水に対して火属性の槍を使ったりしています。


「なるほど、剣ってこう使うのか。槍は……なるほど。斧の使い方も、だいたいわかった。でも、あそこであれはなくない? あっちの方がよかったんじゃ……」

「クラリス? さっきから、何をブツブツ言っているのですか?」

「いや、何て言うか、この魔術ってポンコツなのかなっ思って」


 わたしが作った魔術をポンコツ呼ばわりされては若干腹は立ちましたが、どうやら、クラリスもラーサーズ・ブートキャンプの欠陥に気付いたようです。

 ですが、現状はコレが限界。

 ラーサーズ・ブートキャンプはリメンバー・ラーサーを参考にしてわたしが組み上げた術式ですが、最も重要な部分であるラーサー様の戦闘パターンは術式と言うよりは概念に近い物なので、わたしのギフトでも解析不可能。

 故に、行動を予測して適切な魔法を指定することができず、目標として設定したリクゴウを斬り裂くなり貫くなりしてくれるのを待つことしかできません。

 一応、その解決策はあるのですが、まともに武器を扱ったことがないクラリスを通さなければならない今は現実的ではありません。

 なかったのですが……。

 

「クラーラ。あたしにかけてる魔術を切って」

「は? いや、それは構いませんが……」

「まともに武器を扱えるのか。でしょ? 大丈夫。完璧じゃないけど、だいたい分かったから」


 ある意味でネックだったクラリス自らが、解決策を提示しました。

 だいたい分かったと言っていましたが、本当でしょうか?

 クラリスが、例えば格闘技などの体を使うことに関しては並外れた学習能力を持っているのは知っていました。ですが、クラリスはラーサーズ・ブートキャンプに身を任せていただけ。それだけで、しかも高々数分の短い時間で、武器の扱いを習得できたとはとても思えません。

 思えませんでしたが、わたしはラーサーズ・ブートキャンプを解除しました。

 何も言わずに解除したので、クラリスは「お?」と、少しだけ戸惑いましたが、すぐに「クラーラ!」と、右手を振りかぶりながらわたしに催促をしました。


神炎再現魔法(レーヴァテイン)


 魔法名を唱えると、地面に刺さっていた剣の内の一本が一度消え、クラリス・クラーラの右手に再出現しました。

 対するサン・サインは、復元した左手の玄武の上から水の盾を発生させました。

 ですが、それは悪手です。

 サン・サインが操る各属性は上級魔術以上の威力がありますが単なる物理現象でしかなく、その程度では世界を滅ぼしかねない炎を発すると伝えられているこの魔法の前では無意味。

 実際に、水の盾はレーヴァテインと接触する前から蒸発し始め、玄武に食い込む頃には水蒸気爆発を起こしてサン・サインを吹き飛ばし、後方の土壁へとめり込ませました。

 ですが、これで終わりではありません。

 クラリスも、終わらせるつもりがありません。


海洋召喚魔法(トリアイナ)。……からの、神雷再現魔法(ケラウノス)


 三又の矛の形をしたトリアイナを手にしたクラリス・クラーラがサン・サインを切り上げると同時に、海水による巨大な水柱が発生して巻き上げました。

 そこにすかさず、クラリスはその場から飛び退きながら、雷そのものとも伝えられるケラウノスを投げつけました。

 水柱の内外をドラゴンのように駆け巡る雷を見て、思わず「普通なら、完全にオーバーキルなのですが……」と、呟いてしまいましたが、手は緩めません。

 クラリス・クラーラに搭載している神話級魔法の一つ、万物氷結魔法(ニヴルヘイム)で水柱ごとサン・サインを氷漬けにしたわたしは、次いで「自動追尾必中魔法(グングニール)」と唱え、クラリス・クラーラに巨大な槍を握らせました。

 それで察してくれたクラリスはミスティル・テインを投擲したときよりもさらに力強く振りかぶり、大地を割るほど踏みしめて、「ぶちぬけぇぇぇぇ!」と、叫びながら投擲しました。


 

 

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