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7-25

 クラーラが使える魔術や魔法を全部知っている訳じゃないけれど、これはヤバい。

 二度と使わせちゃ駄目だとあたしに決心させるほどの現象を、頭上に巻き起こした。

 空間が、まるで紙を握りつぶすようにくしゃくしゃになっていく。

 その周りを、遠近感がわからないほど大きい雷を纏った青白いリングが囲っている。

 その中心には、今まで見たことがないくらい真っ黒な球体……いえ、穴と呼ぶ方が良いかしら。

 それが、目に見える範囲の空気や地面、木々を食らうようにはぎ取っている。


「ねえ、クラーラ」

「何ですか? 心配しなくても、あの魔法は爆発したりしません。制御をミスっても精々、この星が丸ごと飲み込まれるだけです」

「いや、普通に大事(おおごと)だよね? 致命的だよね? それも心配なんだけどさ。クラーラ、もしかして興奮してる? 鼻息が荒いし、その、においがするのね? ここまで言えば、続きは言わなくてもわかるでしょ?」

「ああ、そのことですか。はい。お恥ずかしい限りですが、あの光景を見て濡れてしまいました」

「あ~、やっぱそうか……って、うぉい! せっかく遠回しに言ったのに、どうしてストレートに言っちゃうのさ!」

「だって、濡れてしまったのですから仕方がないではないですか。あ、ちなみに現在進行形です。初めて知ったのですが、ぶっちゃけ、吹き気味です」

「ちょっ……! クラーラ!?」

 

 思わず振り返ったら、クラーラは冷静な口調とは裏腹に顔は蕩けまくり、涎まで垂らしていた。

 いえ、垂らしているのは涎だけじゃないわね。

 両手で弄っている股座から放出しているとしか思えない液体が、足を伝ってポタポタと落ちている。


「そういうの、あたしの役割だったよね!? あたしのキャラだったよね!?」

「あ、ちょっと待ってくださいもう少しで、凄いのが来そうですから」

「やめて! やめなさいクラーラ! それ、来ちゃ駄目なヤツだから! それでイっちゃったら、魔法の制御をミスりかねないから!」

「だ、大丈夫です。たかが性的快楽に、こ……ん、はぁ……わたしは屈したり……しま、しま……」

「しかけてるよね!? 寸前だよね!」


 あたしはクラーラを止めようとわたわたしているけれど、ふと、クラリス・クラーラも同じ動きをしてるんじゃないかと頭の片隅で現実逃避してしまった。

 それくらい、今のクラーラはキャラ崩壊を起こしている。

 でも、止める手段が思う浮かばない。

 ジワジワと迫ってくる恐怖を感じるほどの快楽から逃れる術を、あたしは知らない。

 魔法の制御がかかっているから、ぶん殴って気絶させることもできない。

 

「お、おぉ……」

「駄目! 止まってクラーラ! それ以上は本当に駄目!」


 本人は意識していないんでしょうけど、すでにオホ声になりかけている。

 このままじゃあ、この星が丸ごとあの黒い穴に飲み込まれてしまう。

 こうなったら一か八か、暴走しないことを祈ってクラーラを気絶させようとしたんだけど……。

 不意に、ソドム以上に世界の終わりを感じさせる光景を作り出していた魔法が、嘘のように消滅した。

 黒い穴と青白いリングが空間を切り取ったように忽然と消えて、巻き上げられていた地面や木々が雨のように落下した。

 その原因は明白。

 五体満足どころか傷一つ見当たらない、サン・サインが何かやったんでしょう。


「は?」

「……っ!?」


 クラーラが何か言ったと思ったら、今だかつて感じたことのないほど強烈な殺意を背中に感じた。

 あたしを恋敵として憎んでいたスズカでさえ、ここまでの殺気は発していなかった。

 あたしはただその余波に触れているだけなのに、本気で死を覚悟するほどビビってしまった。


「あ、あのぉ……。クラーラ……さん?」

「……広域殲滅魔法(ソドム)

「へ?」

「ソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドムソドム……」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょぉ!?」


 クラーラがソドムと言った回数だけ上空に魔法陣が現れて、巨大な火球を雨のように降らし始めた。

 魔法が不発で終わらされたからか、それとも絶頂寸前で水を差されたからかはわからないけれど、ぶちギレてるのはわかる。

 その結果がソドムの連発?

 クラリス・クラーラに乗ってなかったらあたしですら干からびそうなほどの魔力を使って、一発でもこの辺一帯を更地にできる魔法を二十発以上連発するなんてキレすぎでしょ。

  

「って、言うかどうすんの!? これ、あたしらも巻き込まれない!?」 

「知ったことじゃありません! あの腐れ転生者は、わたしの魔法を良いところで邪魔したのですよ!? あのまま重力による圧縮が続けば、シュワルトシルト半径を形成して時間も光も閉じ込める時空領域が観測できていたかもしれませんのに!」

「何言ってるかまったくわかんないんだけどさ、それって今よりヤバいの? あたしらまで死にかねない今の状態よりヤバかったんじゃない!? だったらあたしはあの転生者を褒めるよ! お礼も言うよ! 本当にありがとうございました!」


 クラーラがどんな光景を見たかったのかはわからないけれど、少なくとも今より酷いことになってたことだけはわかる。

 それを阻止してくれたサン・サインの中身の転生者には本当に感謝だよ。

 感謝ついでにこの状況もどうにかしてほしいよ。

 と、頭の中で叫んでいたら、本当にどうにかしてくれた。

 数百もの火球が、何の前触れもなく消えたの。

 霞のようにとか、溶けるようにとか、そんなわかりやすい消え方じゃない。

 パッと消えたの。

 まるでそれまでの現象が嘘だったと言わんばかりに、空間を切り取ったように忽然と消えた。

 でも、無駄じゃなかったみたい。

 飛んでいるとさっきみたいにとんでもない攻撃をされると思ったからか、サン・サインは地上に降りて来た。


「おのれ……。またしてもチートで消しましたね? わたしの魔法を、そのいかがわしい謎の力で消しましたね? 万死に値します!」

「万死でも何でもいいんだけどさ、どうすんの? あたしが全力で殴っても、クラーラの魔法でも傷一つつかないんだよ? 攻撃が効かないんだよ?」

「効いていないわけではありません。おそらく、復元、もしくは時間を巻き戻しているのです。それは損傷だけではなく、消費したエネルギーも含まれると考えられます。そうであるならば、あれだけ強力な攻撃の出力を維持したまま攻撃し続けることができた理由にも納得できます」

「そんなことできるの? どうやって?」

「チートの原理など考えるだけ無駄です。ですが、そう仮定すれば攻略は簡単。復元も巻き戻しもできないよう、それを司っている部位を真っ先に破壊すれば良いのです」

「それ、どこ?」

「胸部の正十二角形です。合体前に、あれが回転して雑魚どもの傷を癒していたのを見ました」

「じゃあ、そこからぶっ壊す!」


 と、言うなりサン・サインの懐に飛び込もうとしたんだけど、あたしの意に反してクラリス・クラーラは左足を一歩前に踏み込んだだけで、それ以上は前に進まなかった。 

 いや、意に反しているのはクラリス・クラーラだけじゃない。

 あたしの体もだ。

 左足を踏み込んだ代わりに、左手をガイドにでもするように上体を開いて、折り畳まれた右手は何かを握り込んでいる。

 不快感はなく、まるでダンスの手解きをされているように、あたしは槍投げでもするような体勢を取っていた。

 クラーラが何かしたんだとすぐに分かったあたしは、あたしの体を導く何かに身を委ねた。

 そして……。


対光神用魔法(ミスティル・テイン)」 


 クラーラが魔法名を唱えると同時にあたしはクラリス・クラーラに、光の槍を投擲させた。

 

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