表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/159

7-12

 いつもの夢。

 目の前に広がる景色を見て、わたしは夢の中なのに嘆息しました。

 以前は、大量にクラリスの魔力を吸収した時だけでした。

 それが片翼の腕輪バングル・オブ・フレークスを手に入れてからと言うもの、腕輪にクラリスの魔力を使わずに貯めているせいか、頻繁に見るようになりました。

 さて、今回の夢の場所はどこかの城。たぶん、魔王城のベランダでしょう。

 眼下には、千人は楽に運動できそうなほどの広場。その向こうには壁が広がり、真ん中には正門と思われる巨大な門があります。

 そのさらに向こうには雪と氷に彩られた大地が続き、朝日に照らされ始めた地平線だけが、黒く染まっています。

 

「魔王様。最後のお別れに参りました」

「もう、そんな時間か」

「はい、あたいは今日、予定通り死ぬでしょう」


 その景色を見つめる魔王の後ろから、ハスキーな声をした女性が声をかけました。

 わたしが入っている魔王が振り返ってくれないので姿は見れませんが、おそらくは四天王の一人、紅い瞳のフローリストだと思います。

 そして二人の台詞からこの日は、魔王軍と連合軍の決戦の初日、その朝だとわかりました。


「よくもまあ、あんなに集めたものね。何人くらいいるんだっけ?」

「あたいが放った子蜘蛛たちの調べによると、ざっと二十万人です」

「二十万……か。人間ってホント、無駄なことをするわね。あんな数じゃあぜんぜん足りないってのに。いっそ、広域殲滅魔法(ソドム)でもぶち込んでやろうかって気分になるわ。フローリストもそう思わない?」

「はい。ですがそれは、魔王様が御自身の情報をひた隠しにしてきた成果でもあります。御名すら漏らさぬ情報統制のおかげか、人間の中には魔王様の存在を疑問視する者までいますから」


 魔王は、人間には悪行として、魔族たちには善行として広まっている数々の所業の割に、魔王個人に関する情報が非常に少ない。

 ハチロウちゃんに確認したところ、彼女を崇拝する魔族たちですら、性別はおろか名前すら知らないそうです。

 黄金の魔力を持ち、全ての武道と魔道を極めた女好きとしか伝わっていないため、夢で魔王の性別を知ったわたしと、直接会ったことがあるタムマロ様以外の人間は魔王を男だと思っているほどです。

 彼女が徹底して自身の情報を隠蔽していた成果ではありますが、その理由がはいまだにわかりません。


「避難は問題なさそう?」

「はい。四軍から選出した決死隊一万を除いた全てで、一般市民を『アルカディア』へ移送しています」

「理想郷とは、名ばかりだけどね」

「牧畜には適しています。それに、あの地方の有力者も協力的ですので、悪いことにはならないかと」

「チーンギ・スハン。だったっけ? 何度聞いても、呼びにくい名前ね」

「ですが、人間ではありますが信用に足る人物です」


 まさか、ここでその名前が出てくるとは予想していませんでした。

 その名前が出てくるとは言うことは、アルカディアとは今で言うゲン国。ならば、ツシマまで攻めて来たゲン軍の兵士たちの中には、魔王軍の生き残りたちがいた可能性も高いですね。


「あと何回……いえ、いつまで続くのかしら」

「彼女が気づいてくれたなら、あるいは……」

「そうね。それに賭けるしかない……か」


 そう言って魔王は視線を、右手の平に乗った青い宝石に落としました。

 それは、わたしにとって信じられない物でした。


「どうして、魔王がアレを……」

「ん? 起きたの? クラーラ」


 寝覚めとともに疑問を口にすると、日課である朝のトレーニングをしていたクラリスに声をかけられました。

 いつものわたしなら「朝っぱらから暑苦しい」と苦言の一つも言うのですが、今日はそういう気分にはなれません。

 

「クラーラにしては早起きじゃない。悪い夢でも見た?」

「ええ、まあ。悪夢と言えば、悪夢ですね」


 身を起こしたわたしはクラリスの嫌味兼朝の挨拶に適当に答えながら、先程まで見ていた夢の内容を吟味しました。

 そして吟味し続け、マタタビが朝食の仕度を済ませる頃には、信じたくない結論に至っていました。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ