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1ー5

 クラリスの名乗り口上はどうでもいいですが、ドラゴンの名には覚えがあります。

 ブリタニカ王国立魔術院の禁書庫。そこに古の神の名を冠し、オオヤシマを守護している八大龍王に関する書物があったからです。

 現実離れした与太話の類にしか思えない記述ばかりだったと記憶していますが、その記述を信じるのなら、八大龍王の内訳は日龍王に始まり、月龍王、知龍王、地龍王、風龍王、雷龍王、炎龍王。そしてあのドラゴン。海龍王 ワダツミです。

 あの書物を与太話ではなく真実だと仮定するなら、魔力総量の30%ほどしか扱えない今のクラリスでは、勝てません。

 わたしが伝説級魔法を使って支援したとしても、手傷を負わせるのが精一杯でしょう。

 何故ならあのドラゴンは、守護する領域が八大龍王の中で最も広いため、彼らを産み出した旧世界のカガクシャと呼ばれる人たちによって、最も強く設定してあるそうですから。


「救世崩天! 巨神踏歩(ギガント・ステップ)!」


 それを知らないクラリスは、頭よりも高く掲げた左足から黄金の魔力を放出し、大きく一歩踏み出すように、地面を踏みつけました。

 ですが放出された魔力はクラリスの足元ではなく、ワダツミの頭上に堕ちて、地面を大きく窪ませました。


「か~ら~のぉぉぉぉ! 救世崩天! 天馬乱舞(ペガサス・ラッシュ)!」


 間髪入れず、クラリスは目にも見えない速度で、突き出した右拳から何十、何百もの魔力の塊を発射しました。

 わたしの少し後ろで「ペガサス流星拳みたいだ」と、訳の分からないことを言っているタムマロ様は無視します。


「妙ですね。クラリスらしくありません」


 性分か、それとも武闘家の性なのかはわかりませんが、クラリスは中、遠距離攻撃を好みません。

 牽制で使うことはあっても、初手で必ずと言って良いほど使う巨神踏歩の次は、これまた必ずと言っても過言ではないほど、直に殴ります。

 それなのに、クラリスは天馬乱舞を打ち終えるなり「光翼斬掌(スラッシュ・ウィング)!」と、叫びながら両手を真横に大きく広げて魔力の刃を投げつけました。そして、開いていた両手を畳んで左腰のあたりで、まるで動物の顎のような形にして構えると、両手の平から放出した魔力を中心で収束させ始めました。

 そして両手を突き出すと同時に……。

「救世……崩天! 極光波動砲アルティメット・キャノン!」

 

 と、叫びながら放ちました。

 これは、素直に驚きました。

 両手の平を突き出すと同時に放たれた魔力は、神話級魔法数発分。それを魔力のまま放っているため効率は悪いですが、単に魔力を放出しただけで神話級魔法に匹敵するほどの破壊を引き起こしました。

 それだけの魔力を使いながら、クラリスには余裕があります。魔力の過剰使用による意識喪失や虚脱症状も確認できません。

 ブリタニカ王国で一級を冠されている魔術師の魔力を全て足しても届かないほどの魔力を放出したのに、クラリスは涼しい顔をしています。

 あんなものを見せられたら、魔術を学ぶことが愚かな行為に思えてしまいます。

 何故なら破壊に限定すれば、使い切れない量の魔力があるのなら術式を組んで効率的に……いえ、魔力を節約する必要がないのですから。

 あ、ちなみに、「まるっきり、かめはめ波じゃないか。老師に話した覚えはないんだけどなぁ……」と、これまた訳のわからないことを言っているタムマロ様は再度無視します。


「ドラゴンって力でゴリ押ししてくるって印象だったけど、実際は違うのね。受け主体とは、驚いたわ」

「西洋の龍のことは知らぬが、オオヤシマではこれが普通だ。力に溺れて研鑽を怠る者など、八大龍王には一柱もおらぬ」


 東のドラゴンは、随分と勤勉なのですね。

 西で名の知れたドラゴンも人間並みかそれ以上の知能を持っていますが、研鑽などしません。強大な力をただ垂れ流して蹂躙するだけです。

 だからこそ、かつての魔王軍の一翼、魔竜軍に名を連ねた有名なドラゴンたちは、策を弄する人間に討伐されたのです。


「両腕に巻き付いてるその水で、あたしの攻撃を全部受け流した。で、合ってる」

「合っておる。これこそが、八大龍王が一角、海龍王ワダツミ自慢の海流双掌舞。今だ破られたことがない、最強の拳だ」

「へえ……。最強とは、大きく出たわね」


 ワダツミの技はクラリスが言った通り、実際に目の当たりにしても信じられませんが、魔力で精製した……わたし自身信じきれないので頭の中でもう一度言いますが、魔力で産み出した水を回転させ、それを纏わせた両手で受け流しがし、そこからのカウンターで相手を仕留める、後の先を取る闘法なのでしょう。

 クラリスが使う救世崩天法とは、真逆と言って良いかもしれません。


「ときに小娘。その技、誰に習った? まさか、自己流ではあるまい?」

「お爺ちゃん……じゃ、ないや。クォン・フェイ・フォンって知ってる? お隣の大陸出身の人なんだけど……」

「ほう! ほう、ほう、ほうっ! 貴様はあの小僧の弟子だったのか! うむ! これで合点がいった。昔受けた奴の技を昇華させたような技だと思ってはいたが、腑に落ちた!」 

「お爺ちゃんのこと、知ってるの?」

「もちろん、知っておる。と、言うより、忘れられぬ。あれは百年ほど前か? 九十? 八十年前だったか? とにかくそのくらい前に、武者修行のために大陸から渡って来た奴と、一度だけ戦った」


 聞き取れた単語を頭の中でつないで、会話の内容をなんとか予想しましたが……百年前って、本当でしょうか。

 ワダツミはドラゴンなので不思議ではありませんが、クォン様は人間です。 

 ヨボヨボではなく、ワダツミと同じくらいムキムキでゴツイですが、ツルッパゲで鳩尾まで届きそうなくらい顎髭を伸ばしてる、正真正銘の人間の老人。百歳以上かと言われると、少し疑問です。


「結果は……って、聞くだけ野暮ね」

「うむ! 我の圧勝だった! まあ、それも仕方なかろう。当時の奴は十代の若造。魔王の技を真似ただけの未熟者だったからな」

「魔王の技を真似た? 何それ、初耳なんだけど」

「なんだ。知らなかったのか? 奴の技は、目の当たりにした魔王の戦い方を奴なりに再現したものだ」

「へぇ、そうだったんだ」


 細部まではわかりませんでしたが、ワダツミはとんでもないことをシレっと言いました。ワダツミが口走ったことだけでも、魔王について研究している人からすれば大発見です。

 件の魔王とは、およそ八年前にタムマロ様が倒した魔王のこと。

 百年前に突如としてこの世界にあらわれた魔王は黄金の魔力を纏い、既知、未知に関わらず全ての魔術、魔法を使って暴虐の限りを尽くした暴力の化身。としか、知られていません。

 クラリスと似た技を使っていたことはもちろん、種族も、性別も、名前すら知られていないのです。

 知っている人がいるとするのなら、それは直接魔王と対峙し、倒したタムマロ様だけです。


「さて、そろそろ、再開せんか?」

「そうね。そうしましょう……か!」


 クラリスは言い終えるなり足の裏から魔力を放出し、一瞬でワダツミの懐へ飛び込んで右拳を突き上げました。

 ですが、クラリスの一撃は水流をまとったワダツミの左手に軌道を変えられて空を斬り、代わりにワダツミの右膝が、ガラ空きになったクラリスのお腹にめり込みました。

 クラリスの戦いを見るのは初めてではありませんが、ここまでの高速戦闘は始めてですね。

 『動体視力強化魔術(スローモーション)』を使っていなかったら、わたしも他の野次馬と同じく、間抜けな顔を晒していたでしょう。


「勝ち目は、なさそうですね」


 クラリスは砂埃などでワダツミの姿を見失わないためか大味な技の使用を避けて、魔力を纏わせた拳と蹴りだけで戦っています。

 ですがクラリスの攻撃は全て受け流され、カウンターを貰い続けています。

 『衝撃計測魔術ショック・メジャメント』の結果を見るに、ワダツミの一撃はすべて上級魔術並みの威力。黄金聖女状態のクラリスでも、かなりのダメージを負っているはずです。

 

「なんだ。こんなものか?」

「まだまだ。これからよ」


 間合いを開けたクラリスは両手を腰に当て、胸を張って答えましたが、負け惜しみですね。ダメージは軽くはないはずです。さらに現状、打つ手もありません。

 ならば、合図はありませんが、伝説級の詠唱を……あら? クラリスが纏っている魔力が、妙な動きを始めました。

 ただ垂れ流していただけの魔力に流れが生じ、クラリスの両腕に、蛇のように絡まろうとしています。


「こう……かな。うん、合ってる」

「貴様、それは我の……」

「そうよ。これはアンタが散々見せてくれた、海流双掌舞よ。もっとも、あたしは水を操れないし魔力を水にも変えられないから、魔力を回転させてるだけだけどね」

「いいや、見事だ。謙遜することはない。真似たにしては、良い出来だ。まさか、それは天恵によるものか? いや、貴様の天恵は、その魔力のはずだ」

「これはギフトと関係ないよ。何度も見て、食らって、覚えただけ」


 相変わらず、普段はお馬鹿な言動ばかりしているくせに、学習能力は高いですね。

 クラリスは娼館育ちの割に、学があります。

 女将さんに躾けられたらしく文字の読み書きもできますし、四則計算もできます。ブリタニカ王国の識字率や算術の普及率を鑑みると、クラリスはかなり高度な教育を施されています。

 それだけでも驚くに値するのですが、クラリスの学習能力は目や耳だけでなく、備わる感覚器全てを刺激されると、ギフトと呼べるレベルまで加速されます。

 クォン様の救世崩天法も、ワダツミの海龍双掌舞も、痛みを伴うほどの刺激があったからこそ、短期間で習得できたのです。

 わたしはそれを、クラリス本人すら自覚していないその才能を第二のギフト、『痛みの代価(モンキー・ミミッ)』と呼んでいます。


「ならば、採点してやる。かかって来い、小娘」

「言われなくても!」


 挑発に似たワダツミのセリフにクラリスは意気込んで、ワダツミへの攻撃を再開しました。

 ですが、同じ技を使っているだけでは、勝ち目はないまま。

 実際、今もお互いに攻防を繰り返していますが、ワダツミの攻撃もクラリスの攻撃も、まとも入りません。

 さらに、ワダツミには余裕があります。

 救世崩天法の動きもミックスしているのに、クラリスの拳と蹴りは容易く受け流されています。クラリスが、全力なのにもかかわらずです。

 それはワダツミがドラゴン、しかも上位ドラゴンゆえに、数百年は軽く生きているため。長すぎる年月で培った研鑽が、クラリスをはるかに上回るからでしょう。

 

「うむ、九十点をくれてやろう。だが、このままでは千日手だぞ? どうする、小娘」

「残りの十点はどこに行った……は、どうでも良いか」


 クラリスが、再びワダツミから距離を取りました。

 おそらく、ニヤリと笑ったワダツミの表情から、海龍双掌舞以外に自分を倒せる必殺技的なモノがあると、察したからでしょう。

 それは十中八九、ドラゴン最大最強の武器であるブレス攻撃。ワダツミは見るからに水属性なので、水ブレスでしょう。

 港の惨状を見るに、それは大地を切り裂くほどの大剣と同義。規模は小さいですが、水に高圧をかけて刃のようにする魔術がありますので、容易に想像できました。

 それに対抗する手段は、クラリスにはありません。

 ワダツミがブレスを使えば、今のクラリスでは纏っている魔力ごと真っ二つにされるでしょう。

 対抗手段があるとするなら、それは……。


「クラーラ! お願い!」


 そうなりますよね。

 わたしが知るクラリスの技で、最も大量の魔力を放つ極光波動砲が効かなかったのですから、それ以外に解決策を求めるのは当然です。


「我が手にするは、《What I have in》木の如く盾を斬り、《my hand is an》鎧を斬り、《undefeated sword that slashes》剣を斬り裂く《shields slashes armor》無敗の剣。《 and slashes swords like wood》我を勝利へ導く、《Leading me to victory the》湖の乙女が鍛えし《invincible holy sword forged》無敵の聖剣なり《by the Maiden of the Lake》」


 わたしが詠唱を終えると、クラリスの足元に魔方陣が描かれました。

 その魔方陣はクラリスの身体をなぞるように上昇し、掲げた右手で止まって、剣の柄へと変わりました。


「ほう? 伝説級魔法まで使うとは、恐れ入った」

「勘違いしないで。この魔法を使ってるのはあたしじゃなくて、クラーラよ」


 通常、わたしとクラリスが身につけてる搾取の首輪で吸える量の魔力で発動できるのは、現代魔術まで。それ以上の神話級魔法は、肌と肌を触れあわせて直接魔力を受け渡しする必要があります。

 ですが、伝説級魔法はそのどちらとも違います。

 わたしは首輪で吸える程度の魔力を使って術式を構築し、クラリスの身体に刻み込んで維持するだけ。そうすると、クラリスの魔力は術式に自然と流れ込み、クラリスの合図と共に魔法が発動するのです。

 その一つが、これです。

 伝説に語られる英雄の武器を現代に再現する、伝説級魔法です。


「防御無視の万物切断魔法。エクス! カリバーぁぁぁぁ!」


 クラリスが魔法名を唱えて発動すると、掲げた右手に握られた柄から、魔力で形成された白銀色の刃が伸びました。そして柄に左手を添えて、切っ先をワダツミへ向けて構えました。

 術式の維持で忙しいので、「おお、サンライズ立ちだ」とか言っているタムマロ様は再々度無視します。


「アンタの奥の手と、あたしとクラーラの聖剣。どっちの切れ味が上か、勝負といこうじゃない」

「面白い。その勝負、乗ったぞ小娘!」


 言うなり、ワダツミは上体を反らし気味に上を向き、胸部を大きく膨れ上がらせました。

 大上段からの斬り下ろし。と、言った感じでしょう。

 そして、対するクラリスも……。


「よぉぉし! いっくぞぉぉぉ!!」


 クラリスは再度天に掲げた聖剣に、さらに神話級数発分に相当する魔力を上乗せしました。すると、白銀の刃は形を保てず溶解し、天まで届く黄金の光に変わりました。

 まったく、無茶な使い方をしてくれますね。設定以上の魔力が術式に流れ込んだせいで、危うく暴発するとこでした。

 わたしじゃなかったら、術式を修正できずに港全体を更地にするほどの大爆発を起こしていましたよ。


「くぅぅらぁぁぁえぇぇぇぇぇ!」


 クラリスが叫びながら聖剣を振り下ろすのと、ワダツミがブレスを吐くのは同時でした。

 ですがこの時点で……いえ、クラリスがエクスカリバーを発動した時点で、勝負は決しています。

 その剣は詠唱にもある通り、全てを切り裂きます。

 鎧も、盾も、剣も、その刃を遮ろうとする全てを切り裂きます。防御という概念そのものを、切断する魔法なのです。

 なので、同規模の刃を同時に振り下ろそうと、鍔迫り合いにはなりません。

 あの聖剣は、ブレスごとワダツミを切り裂きます。

 

「うむ! 見事だ!」

「う~ん……残念。仕留め損ねたか」


 結果は、ほぼ予想通りの形になりました。

 予想と違ったのは、クラリスが斬れたのがワダツミのブレスと左腕、そして後ろの海だけで終わってしまったことくらいです。


「タムラマル。この小娘どもが、お前の新しい仲間か?」

「違うよ。僕は弟子みたいに思ってるけど、嫌われちゃってるから」


 さりげなく、わたしまで弟子に含めないでいただきたい。

 と、内心憤慨しながら、「タムラマル? タムマロでは?」と、疑問を零してしまいました。

 クラリスは気にも留めていないようで、なぜか肩の根元から先がなくなったワダツミの傷口を、心配そうに見ています。


「ねえ。その腕、大丈夫?」

「これくらい、ほっとけば生える」

「そう? なら、良いんだけど……」

「変な娘だな」


 ワダツミが何と言ったのか聞き取れませんでしたが、言わんとしたことはなんとなくわかります。それがわたしも、本当に不思議です。

 どうしてクラリスは、敵であるワダツミの心配をしているのでしょう。


「変? だって、勝負はついたでしょ? あたしの勝ちなんだから、負け犬の心配をするのは当然じゃない?」

「おい、タムラマル。この娘は挑発しておるのか?」

「オオヤシマ語に不慣れなんです。だから、大目に見てあげてください」


 ワダツミはともかく、クラリスとタムマロ様くらいはブリタニカ語で話してくれないでしょうか。

 わかりませんし、面倒くさいんですよ。

 聞き取れた単語を脳内で翻訳してつなぎ、さらに表情や仕草を観察することでどうにか会話の内容は予想はできますが、詳細はわかりません。疎外感すら、胸の奥に渦巻いています。


「ん? んん~?」

「どうしたんだい? クラリス」

「いや、なんかクラーラが、妬ましそうにこっちを睨んでるから気にな……って! 気安く名前を呼ばないでよ! 不愉快だわ!」


 クラリスにオオヤシマ語で怒鳴られたタムマロ様は、ワダツミに「ほらね?」とでも言いたげな視線を向けて両肩を竦めました。

 それはどうでもいいのですが、クラリスのセリフの中に、わたしの名前が出ていたような気がします。


「クラリス。タムマロ様と、何を話していたのですか?」


 気になったので、素直に聞くことにしました。

 クラリスは「え? 聞いてなかったの?」と、言わんばかりに不思議そうな顔をして小首を傾げましたが、すぐに自分がオオヤシマ語で会話していたことを思い出したらしく、ブリタニカ語で「あ、ごめん。クラーラがオオヤシマ語が分からないの、忘れてた」と言って、ウィンクしながら舌を出しました。「テヘペロ♪」と、妙な擬音が聴こえた気もします。


「あ、それでか! だからクラーラは、拗ねてたんだ!」

「す、拗ね!? わたしが? そ、そんなわけないじゃないじゃないですか!」

「いいや、拗ねてた。この場でオオヤシマ語がわからないのって、クラーラだけでしょ? 仲間外れにされたようで、寂しかったんじゃない?」

「ち、違います!」


 と、口では否定できましたが、表情までは取り繕えませんでした。

 あからさまにクラリスから目をそらしてしまいましたし、顔も火照っています。


「クラリス。クラーラに、オオヤシマ語を教えてなかったのかい?」

「だって、クラーラには魔術があるもん。オオヤシマ語がわからなくても、魔術でなんとかしちゃうと思ってたから……ってぇ! 気安く呼ぶなって、何度言ったらわかるのよ!」


 タムマロ様も察してくれたらしく、ブリタニカ語でクラリスに話しかけました。それにつられたのか、クラリスもブリタニカ語で反論しました。

 なるほど。魔術でどうにかなると高をくくって学ばなかったわたしにも問題はありますが、クラリスはある意味、わたしを信頼していたから、わたしにオオヤシマ語を教えなかったのですね。


「おい、タムラマル。今度は我が、蚊帳の外なのだが?」

「あ、ごめん、ワダツミさん」


 わたしたちがブリタニカ語で会話を始めたからか、今度はワダツミが拗ねたような顔をして、オオヤシマ語でタムマロ様にクレームを入れたようです。

 

「クラリス。二人の話は、長くなりそうですか?」

「う~ん、どうだろ。タムマロがワダツミさんを慰めてるっぽいけど、段々と昔話に会話がシフトしてる」

「では、長くなりますね」


 オオヤシマにいた頃のタムマロ様のエピソードは、少しだけ気になります。

 なりますが、オオヤシマ語を理解できていないわたしが聞いても時間の無駄。クラリスに通訳してもらおうと一瞬考えましたが、クラリスはタムマロ様を嫌っているのでまともに通訳してくれないでしょう。


「ならば、先を急ぎましょう。タカマツの娼館街は、ここから近いのですよね?」

「うん、近いよ。歩いて一時間くらいかな。行く?」

「ええ、行きましょう。幸いなことに、ワダツミの相手はタムマロ様がしてくださるようですから」


 わたしはクラリスの手を引いて、荷物を回収するために酒場へと戻ろうとしました。

 ですがクラリスは、この場を離れたくなかったようです。

 理由はわかりませんし、ほんの一瞬、ほんの少し抵抗しただけなのですが、クラリスは間違いなく、この場に残りたがったのです。

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


ぜひよろしくお願いします!

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