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7-10

「あらあら、たった二晩で随分とやつれましたね。タムマロ様」

「いや、まあ……」


 クラリスとスズカの争いが一応は決着し、下山していたマタタビとヤナギに合流してこの宿に到着するなり、クラリスはマタタビの治療をわたしに押し付けて、スズカと一緒にタムマロ様を隣の部屋に連れ込んで丸二晩籠ってしまいました。

 そこで三人が何をしていたかは、ハチロウちゃんの教育に悪いので遮音魔術サウンド・プルーフィングを使って中の音が聴こえないようにしていたので想像するしかありませんが……まあ、想像するまでもありませんね。

 ヤってたのでしょう。


「で、二人はどうしているのですか?」

「まだ寝てるよ。スズカにはもう君たちに手を出すなと言っておいたから、襲ってくることはもうないはずだ」

「そう願いたいですね。彼女のおかげで路銀が尽きるどころか、借金まで抱えてしまいましたから」


 いや、いっそスズカに押し付けるのも有なのでは?

 と、凄惨な殺し合いをしたはずの二人が仲良く全裸で寝ているであろう隣の部屋を横目で見ながら考えていると、ふと思ってしまいました。


「タムマロ様って、聖女様一筋なのですよね? それなのにどうして、簡単に肉体関係を結べるのですか? しかも昨日は3P。男の性ですか? オオヤシマで言うところの、据え膳食わねばなんとやら。ですか?」

「クラリスとスズカの二人に迫られて、逃げられると思う?」

「タムマロ様なら余裕では?」

「余裕なわけないじゃないか。ナビだって、逃げるより抱いた方が得策だって言っていたし」

「そりゃあそうでしょう。だってタムマロ様には、得しかないじゃないですか。正に得策です」

こんな(・・・)になってるのに?」

そんな(・・・)になるまで、気持ち良い思いをしたのでしょう? まあ、わたしは経験がありませんから本当に気持ち良いのかどうかは知りませんが」

「妙につっかかるね。虫の居所でも悪いのかい?」

「どちらかと言うと、悪いです」

「クラリスが僕に抱かれたから? それとも、君も僕に……」

「|彼の者は剣の虜囚《He is a prisoner of the sword.》……」

「ごめん。謝るから、詠唱をやめてくれ」

「謝るくらいなら、最初から馬鹿なことを言わなければ良いのです。また同じことを言おうとしたら、次は広域殲滅魔法(ソドム)です。絶対にソドります」


 わたしの機嫌が悪いのは、クラリスがタムマロ様とまぐわっていたからでも、クラリスというものがありながらスズカにまで手を出したからでもありません。

 単に、この人のやり方が気に食わないからです。


「そろそろ、役に立たない情報でわたしたちを振り回すのはやめていただけません?」

「役に立たないとは酷いな。以前、ゲン軍と戦った後に教えた『アマノイワト』は役に立つと思うよ?」

「オオヤシマの太陽神が、弟神の狼藉から逃れるために籠った場所でしたっけ? そんな場所に行って、何が得られると?」

「太陽神がアマノイワトに籠った神話を『イワト隠れ』って言うんだけど、実はこの時、太陽神は隠れたんじゃなくて、死んだとする説があるんだ」

「死んだ? ツシマを発つ前にタムマロ様が教えてくださったお話では、神々がイワトの前でどんちゃん騒ぎをして、それが気になった太陽神がイワトを開いたところを引っ張り出し……いや、まさか、神々がしたのはどんちゃん騒ぎではなく蘇生、もしくは再生の儀式? そこに行けば、その手の魔法が手に入るかもしれないと?」

「そういうこと。アマノイワトはここからそう遠くないから、観光がてら行ってくると良い」


 神々が集団で行うほどの儀式。

 もし、それが本当なら、人が扱える魔法とは比べ物にならないほどの奇跡が起こせるかもしれないので、行くのはやぶさかではありません。

 ですが、わたしはタムマロ様を信用していません。

 実際、タムマロ様はウスミドリを入手するために、わたしたちを利用しました。

 だから今回も、裏の目論見があるのではないかと疑ってしまうのです。


「観光するほど暇ではないのですが……。路銀も稼がなくてはいけませんし……」

「じゃあ、こういうのはどうだろう。そこからもう少し行ったところにあるオオエ山のどこかに、落ちのびた魔王軍の残党が住み着いてしまったらしいんだ。その調査依頼を受けているんだけど、代わりにやらないか? これはAランククエストだから、報酬はかなりの額が出るよ」

「わたしたちはFランクです。なのでAランククエストは受けられませんし、依頼の譲渡(替え玉受注)はギルド規定違反です。バレたら、わたしたちもタムマロ様も、登録を抹消されてしまいます」


 と、冷静に返しながらも、それが本当の目的か。と、確信しました。

 ですがわたしは、「この腹黒勇者が」と胸の内で文句を言いながらも、お金が必要なのも確かなので、「バレなきゃ大丈夫さ。最悪バレても、どうとでもなる」と、軽い口調で返して来たタムマロ様の提案に乗ることにしました。

 他の人が同じことを言ったのなら、わたしは断っていたでしょう。

 でもこの人なら、ギルド規定違反程度なら勇者の威光で本当にどうにかしてしまうと、想像できるからです。




 

 

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