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7-6

 オオヤシマ国はほんの二十数年前まで、いくつもの国が乱立していました。

 大きなものだけで言えば、一つ目はフクオカ県を中心にキュウシュウ全土を支配した呪術大国『ヤマタイ国』。女王はもちろん、わたしたちにゲン軍の迎撃を依頼したヒミコです。

 二つ目はシマネ県を中心に、チュウゴク地方を支配した『イズモ国』。クラリスが処女を失い、わたしが片翼の腕輪と対神用決戦大魔術ハーロット・オブ・バビロンを手に入れた国です。

 そして三つ目は、フクハラで得た情報を頼りに足を踏み入れたキョウト府を中心に、キンキからカントウまでを支配した『ヤマト国』。

 そしてトウホクの『オウウ国』と、ホッカイ道の『カムイコタン国』。

 この五国は、オオヤシマ統一以前は五大国と呼ばれ、統一された今でも、政治の中心であるトウキョー都の政策には従うものの、独自の支配体系を曲がりなりにも維持しています。


「ねえ、ヤナギちゃん。ここって、昔はオオヤシマの中心だったんでしょ?」

「うん、『華の都』とも呼ばれたここ、キョウトは、ミカド様が住むオオヤシマの中心だったの」


 情報収集と宿目当てで、『ゴジョウラクエン』を目指して街道を歩いていたクラリスのふとした問いに、わたしが改良して伝授したことで小人サイズまで縮み、自前の魔力だけで体を具現化できるようになってクラリスの左肩に乗ったヤナギが答えました。


「ミカドさんは、今はトーキョーにいるんだっけ?」

「うん。転生者たちが、トーキョーにコウキョって場所を作って、半ば監禁してるらしいよ」

「それでよく反乱とか起こらないね。転生者がやったことって、この国に昔から住んでる人たちからしたら侵略じゃない」

「転生者たちが持つ力が、強大だからじゃないかな。実際、五大国はたった数十人の転生者に負けたって話だし」


 クラリスの指摘通り、彼の地に古くから住んでいる者たちからすれば、転生者たちは害悪でしかありませんでした。

 故に、五大国を筆頭にオオヤシマの国々は団結し、転生者たちに戦争を仕掛けたのですが……ヤナギも言った通り、転生者が持つ転生特典(チート)は強力無比。

 抵抗むなしく、オオヤシマは転生者たちによって支配されてしまったのです。


「でもさ、ヨシツネさんみたいに、五大国側についた転生者もいたんでしょ?」

「いたけど、少数だったみたい。有名どころだとだと、さっきクラリスちゃんが言ったミナモト・ヨシツネとか、クスノキ・マサシゲとトモエ・ゴゼン。それと、キョウトの守護鬼神って呼ばれてたシュテンとイバラキとか、トウホクのスクナやツチグモかな」

「タムマロは?」

「タムマロ? タムマロって誰?」

「サカノーエ・タムマロ。魔王を倒した勇者だけど、ヤナギちゃんは知らないの?」

「サカノーエ? 勇者? う~ん……わっち、10年以上城に引きこもってたから……あ! それってもしかして、サカノウエ・タムラマルのこと?」

「そうそう、それ。やっぱり、そっちが本名なの?」

「そのはずだよ? たぶん、ブリタニカ語だと発音しにくかったからそうなったんじゃない?」


 真偽のほどは定かではありませんが、ヤナギが言った通りだと思います。

 タムマロ様が訂正しないのは、しても無駄だと思っているか面倒くさいかのどちらかでしょう。

 

「少し前から気になっていたのですが、クラリスとタムマロ様って、やっぱり交際なりしてます?」

「な、何よいきなり。あたしとタムマロはそんな関係じゃないから」

「あ、そうなのですね。先ほどタムマロ様の話をしている間、あなたが妙にニヤケていたのでてっきり……」

「ないない! あるわけない! だってタムマロだよ!? 素人童貞なんて、いくらお金を積まれたってお断りだよ!」

「ふぅん。そうですか」


 わたしはあっさりと引き下がりましたが、表情を見るか限り、クラリスは内心、穏やかではないようですね。

 べつにクラリスがタムマロ様とねんごろになっても知ったことではありませんし、興味もありませんが、わかりやすすぎる嘘で誤魔化そうとするクラリスを観察するのは面白いです。


「まあ、そうですよね。タムマロ様って顔が良くてお金を持ってるだけで、頼りないですし」

「い。いや、その……。そ、そんなことはないよ。ほら、シマネの時も助けに来てくれたし……」

「あら、弁護するとは意外でした。会うたびに、三流勇者とか素人童貞などと言って馬鹿にしているのに」

「三流勇者なのは確かだよ。うん、お姉さまを助けてくれなかったアイツは三流勇者。それは、間違いない。でも、アイツはもう素人童貞じゃ……あ」


 お馬鹿なクラリスは、追及したわけでも詮索したわけでもないのに、口を滑らせました。

 さきほどの擁護を聞けば、二人が肉体関係にまで発展していることは火を見るよりも明らかです。


「あれ? クラーラ? 、もしかして、怒ってる?」


 と、クラリス自身、どうしてそんなことを言ったのかわからないような顔をして言いました。

 言われたわたしも、クラリスの台詞が理解できません。

 だから咄嗟に、「いえ、べつに……」と、答えました。

 それを聞くなり、クラリスすねました。少なくともわたしには、そう見えました。

 見ようによっては、動揺を隠すために怒ろうとしているようにも、見えました。

 

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