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クラーラ曰く、オオクニヌシの甦り神話が残るヨナゴで得られたのは、死者蘇生魔法と同系統の魔法だった。
違ったのは術者が二人必要で、魔力を共鳴させることで上級魔術相当の魔力でもアスクレーピオス並みの奇跡を起こせること。
それでも、遺体が残っていないと意味がないのは同じ。
要は、無駄足に終わったの。
あたしたちは、ヨナゴでの探索を切り上げて、ゲンの件でクラーラがタムマロから得ていた情報を頼りにしてキョウトを目指すことにしたんだけど、その前に。ヨナゴの娼館で得た情報が通り道だったから、ヒョウゴ県に伝わる人が木の精の子供を産んだ伝説、『おりゅう柳』を調べてみることにした。
したんだけど……。
「ねえ、クラーラ。ここ、どこ?」
「地図によると……ヒメジですね」
「いや逆じゃん。あたしらが目指してたタジマは北だよ? 二ホン海側だよ? こっちはセトウチ側だよ?」
「わたしに言われても知りません」
「いやいや、地図を見てたのはクラーラだったよね?」
「確かに、地図を見ていたのはわたしです。ですが、こっちの方が近道とか、あっちに行ったら早く山を下りれそうじゃない? とか言って、わたしたちを強引に引っ張りまわしたのは誰でしたっけ?」
「そ、それは……」
「あなたです。シマネでの一件以来、あなたは妙に落ち着いたと言いますか大人っぽくなったと言いますか、とにかく頼りがいが出てきたので、わたしはあなたが明らかに違う道を行こうとしても止めませんでした。ええ、あなたを信頼していたからです。その結果がこれですよ。木の精が女性を孕ませられるのなら、死後に間違いなく女神になっているであろう聖女様に孕ませていただけるかもしれないと調査をしに行こうとしたら、着いた先は反対とも言っていいヒメジです。おっと、誤解をしないでくださいね? わたしは別に、あなたを責めている訳ではありません。悪いのは全て、あなたの間違いを指摘することができなかったわたしです。マタタビとハチロウちゃんもごめんなさいね。わたしが。わ・た・しが! クラリスの間違いを指摘しなかったせいで、目的地とはまっっっっっったく! 違う場所についてしまいました」
クラーラの口撃は、あたしの胸を容赦なくえぐった。
それはもう、クラーラが言葉を発するたびに「うっ……!」とか「ぐふっ……!」などと呻きながら身もだえてしまうほど深く、的確に。
「で、でもほら。ここにはヒメジ城って言う名前の古代遺跡もあるし、お酒も料理も美味しいし……」
「なるほど。つまりあなたは、聖女様と添い遂げるより食い気を優先した。そういうことですね?」
「い、いや、そういうわけでは……」
「ええ、わたしもないと信じています。ですがあなた、最近はタムマロ様と仲良くしていますよね? あれだけ大嫌いと公言していたタムマロ様と、です。もしかしてあなた、タムマロ様と何かありました? いえ、遠回しな言い方はやめましょう。ヤりました? タムマロ様と、男女の関係になったのではないですか? さあ、どうなんですか?」
「と、途中から趣旨変わってない?」
「変わっていません。で? どうなんですか? ヤったんですか? まぐわったんじゃないんですか? 男を知ったのですか?」
すでに、結論ありきで質問責めにしているけど、それも仕方がないのかな。と、思ってしまった。
だってクラーラもお年頃。
ハチロウとの授乳プレイで今は満足できているようだけど、最終的な目標はお姉さまに犯されること。
男を受け入れるとどうなるのか。とか、痛いだけなのか。とか、初めてでも気持ちよくなれるのか等々、お姉さまとの初夜に供えて知識だけでも得ておきたいんでしょう。
でも、いようがいまいが関係なく「大嫌い」と公言していたタムマロと一線を越えただけじゃなく、会うたびにヤってることを知られたくなかったあたしは、「し、してない……」と、クラーラから視線を逸らしながら嘘をついた。
「本当ですか? シマネでの一件で、タムマロ様とヤったたのでは?」
「ヤってないってば! 本当よ! そ、それよりさ! これからどうする? あたし的には、せっかくヒメジまで来たんだからヒメジ城も見てみたいし、お酒も飲んでみたいんだけど……」
「構いませんが、あなたの奢りですよね?」
「いやいやいやいや、どうしてそうな……」
「ああ、そうですよね。わたしがあなたを、わ・た・し・が! あなたを注意しなかったのが、反対側に来てしまった原因ですものね。わかりました。わたしが……」
「ごめん! わかった! 好きな物を好きなだけ食べて良いから、勘弁して!」
これで、シマネの時の仕返しは終わりかな? と、財布を開いて「うぅ……あたしのお小遣い……」と、言いなって涙目になりながらも思った。




