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タムマロ様に引っ張られる形で、地面や建物に鋭い切れ込みがいくつも入った港に着くと、先ほどまで大暴れしていたと思われる大きなドラゴンが、わたしとクラリスを睨みつけました。
あのドラゴンたちを眷属と言うだけあって、かなりの大きさですね。海から出ている胴の太さも長さも、眷属の三倍は優にあります。
とっても太くて長いです。
でも、不可解です。あの目を見る限り、わたしたちを完全に敵として認識しているのに、攻撃してきません。もしかして、何かしらの要求をするつもりなのでしょうか。
「お前たちか。我の可愛い眷属たちを無残に虐殺した罪人は」
オオヤシマ語なので細部まで理解できませんでしたが、大雑把には予想できました。
ならばここは、酒場のときと同じくクラリスに罪を擦り付けるとしましょう。
「あたしは違うよ。アンタの眷属を殺したのは、この無駄にオッパイがデカい破天荒シスター」
わたしはオオヤシマ語を話せませんので、首を横に振りつつクラリスを指さそうとしました。
ですがオオヤシマ語がわかる分、クラリスの方が早く反応し、先手を打たれました。
何と言ったか聞き取れませんでしたが、指を指されていることから、酒場の時と同じく罪を擦り付けられたようです。
「クラリス。わたしたち、旅のパートナーですよね?」
「うん。だから、あたしのために死んで? 心配しなくても、お姉さまはあたしがちゃんと蘇らせるから」
「まあ、面白い冗談ですね。どうしてわたしが、恋敵とも言えるあなたの代わりに死ななければならないのですか? 馬鹿ですか? あんまり調子ぶっこいてると、あのデカい蛇の前に消し炭にしますよ?」
表情筋を駆使して笑顔を作り、「オホホホ」と嗤っても見せましたが、マジです。私はマジで怒っています。額に青筋が浮かんでいるのが、自分でもわかります。
わたしを差し出して自分だけ助かろうとしているクラリスへの怒りが、爆発寸前です。
「ほう? 食いでがありそうなメスではないか。よろしい。その娘を生け贄として差し出すなら、眷属たちの件は不問にしてやる」
「眷属らの命、軽いわね。でもまあ、そういうことなら……」
ドラゴンと何を話したのかはわかりませんが、クラリスは呆れ顔で、わたしを振り返りました。そして……。
「ちょ、ちょっと! どうしてわたしを両手で軽々と持ち上げて、まるで投げるかのように振りかぶっているのですか? まさか……」
この行動で、クラリスがドラゴンと何を話していたのか、察しがつきました。
「わたしをドラゴンの餌にして、自分だけ助かるつもりですね! だったら、マジで消し炭にすんぞ! この、エンゲル係数300%超えの異次元胃袋貧乳娘!」
おっと、わたしとしたことが怒りのあまり、清楚な見た目からは想像できないような暴言を吐いてしまいました。
が、この場でブリタニカ語が聞き取れるのは、クラリスとタムマロ様くらいですから、もし他にいたとしても、この港町ごとクラリスと吹き飛ばすと決めたのでまったく問題ありません。
「待て、待て。まずは服や装備を外せ。でないと、食いにくいであろうが」
「あ、それもそうね。じゃあクラーラ、ちょっとそこに立って、じっとしててね」
クラリスがわたしを持ち上げている今は、古代魔法を使える量の魔力を吸う絶好の機会。だからそうしようとしたのですが、その前に降ろされてしまいました。
クラリスは何をするつもりなのでしょう。
わたしが港町ごとクラリスを吹き飛ばす魔法をチョイスしている間に、また何かドラゴンと交渉をしたのでしょうか。
「って、は? どうして、わたしの装備を外すのですか!? と言うか、いつ外したのですか!?」
まったく見えませんでした。それどころか、装備を外された感触すらありませんでした。
わたしはあっと言う間に胸当てとガントレット、グリーブ、さらに上着を脱がされて、タイツだけにされてしまったのです。
別のベクトルの怒りと羞恥に頭が支配されましたが、その片隅で少しだけ、ほんの少しだけ感心してしまいました。
きっと目をつぶっていたら、脱がされたと気づけないと思えるほど何も感じなかったのです……じゃ、ないですね。このままだと、最後の砦であるタイツまで脱がされてしまいます。
「やめなさい! ちょっ、本当にやめて! これ以上は本当に駄目です!」
「え~? 良いじゃんべつに。減るもんでもないし、野次馬の皆さんも期待の眼差しを向けて「おおっ!」とか言いながら、ガッツポーズしてるよ? だから、はい。脱ごう。思いきってすっぽんぽんになろ?」
「なるわけないでしょう! どうしてわたしが、有象無象どもの面前で全裸にならないといけないのですか!」
わたしの身体は全て、崇拝する聖女様に捧げる供物です。
だからどれだけ暑かろうと、わたしは頑なにいつもの服装をして、他者の視線からすらこの身体を守っているのです。
それはそうと、クラリスは興奮していませんか? していますよね?
わたしを全裸にしようと右手でタイツを引っ張りながらも、不自然な内股になってモジモジしていますし、欲情していると丸わかりな顔をしています。
「ほらほらぁ~。あたしの腕力には敵わないんだから、抵抗なんてやめなよぉ。大丈夫、痛くしないから。女将さん仕込みの性技で気持ち良くしてあげるからさぁ」
「趣旨、変わっていませんか?」
「変わってない。あたしは真剣に、本気でクラーラを剥いてめちゃくちゃヨガらせたいの」
「変わっていますよね!?」
おそらく、ドラゴンが食いにくいと言ったからわたしを丸裸にしようとしたのでしょう。ですがわたしを脱がす過程で欲情し、本能に負けて場所もわきまえずに犯そうとしているのです。
実際、クラリスは自分の身体に空いている左手を這わせています。
「この、教養はあるくせに短絡思考で気に入った女の子を力ずくで犯すのが好きな強姦魔で大食漢! オマケとばかりに、視線で犯されるのも好きな露出狂の処女ビッチめ! キャラ盛り過ぎでしょ!」
クラリスの行動で堪忍袋の緒が切れたわたしは、発作的に怒鳴りつけていました。
ですが、発情したクラリスにはまったく効果がないようです。
「クラーラ、あたしもう……我慢できない」
「我慢しなさい! と言うか、わたしに欲情しないでくれません!?」
「無理だよ。だってクラーラの大きなオッパイも、それに負けないくらい大きなお尻も魅力的過ぎるんだよ? あたし、見たい揉みたい吸い付きたい。ついでに穴にも突っ込みたいって欲望を押さえ付けて、クラーラと旅してるの。だから、こんなチャンスは逃せない。ほら、代わりにあたしの処女をあげるし」
「いりませんよそんなもの! と、言うか訂正してください! わたしのお尻は大きくありません!」
「良いじゃん! 絶対に満足させるから! おかしくなるまでイかせて、アへ顔ダブルピースさせてみせるから!」
「アへ顔ダブルピースって何!? わたしの話、聞いてますか!?」
聞いていない。と、言うよりは聴こえていないようですね。だったら、わたしの貞操を護るためにも実力行使です。
「こんの……いい加減にしろ! 『水鎖拘束魔術』!」
「うわっ! ちょっ……何すんのさ!」
わたしはウォーター・チェインで、クラリスを大の字になるよう吊し上げました。
クラリスが相手では数分ももたないでしょうが、とりあえずは魔の手からは逃れられ、リベンジもできますので良しとしましょう。
「この……変態!」
「ぐえっ……!」
そしてわたしは杖 (クラリスは「いや、それってモーニングスターだよね?」と、言って譲りませんが)を、クラリスのお腹に打ち付けました。
クラリスは魔力が多いせいで、無意識に発散している魔力も多く、黄金聖女状態ではなくても、下手な戦士よりも防御力が高い。ですが、トゲ付きの鉄球部分を力一杯叩き込めば、それなりに痛めつけられます。
「ク、クラーラ。あたし、そういう趣味わぁぶらっ!」
「誰が喋って良いと言いました? 次また許可なく喋ったら、今度は右頬ではなく鼻っ柱に当てますよ?」
と、言いつつ、わたしはクラリスの全身を余すとところなく打って、打って、打って打って打って打ちまくりました。
「ああ、気持ち良い」
好き放題してくれたクラリスが、涙目になって「や、やめて! 本当に痛い! 謝るからやめて!」と、言いながら許しを乞う姿を見て、恥ずかしながら興奮してしまいました。顔も歪んでいる気がします。
「次はどこを打たれたいですか? 肩? それとも太腿? なんなら、中途半端な膨らみがあるその胸を整地して差し上げましょうか?」
「されてたまるか! って言うか。マジでやめてよ! あたしじゃなきゃ五~六回は死んでるよ! ほら、周りの人たちもドン引きしてるでしょ!」
「あなたの変態行為にドン引きしているのです! 責任転嫁はおやめなさい!」
ドン引きしているのは、確かなようですね。
ですがそれは、先に言った通りクラリスのせい。だから、折檻を再開しましたのですが、その回数が三十を越えた頃、わたしたちの周囲が薄暗くなっていることに気づきました。
オマケに、妙に粘っこい雨がシトシトと体を濡らしています。
「もう、そのままで構わん」
なるほど、待ちくたびれたドラゴンが、わたしたちを丸飲みにしようと大きな口を開いて迫っていたようです。
クラリスを叩くのが気持ち良くて……もとい。熱中し過ぎて、ドラゴンの接近に気付くのが遅れたのです。
ですがこの程度なら、慌てる必要はありません。
「殺っちゃう?」
「ええ、殺っちゃいましょう」
わたしたちはお互いの意思を確認だけして、行動に移しました。