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劇場の雰囲気が、いつもと違う。
劇場自体は何も変わっていないが、舞台上に立つシーラの機嫌がいつもと違う。
「何よ、また来たの? 今日は仕事する気分じゃないんだけど」
あからさまに不機嫌。
腕組みをして仁王立ちし、観客席を破壊しかねないほどの眼力で睨んでいる。
「不機嫌にもなるわよ。たかが本を堕としちゃっただけで、なんで私が叱られなきゃいけないのよ。そりゃあね? 勝手に持ち出したのは認めるし、堕としたことも認めるわよ。でもさ、私は悪くなくない? 私でも持ち出せるようなところに置いとくのが悪いのよ。ちょっと放っただけで下まで堕ちちゃうようなここの造りが悪いのよ。だから私は悪くない。全部あのクソジジイが悪いの。そうでしょ? そう思うわよね?」
シーラは捲し立てるように持論を展開し、観客席に同意を求めた。
「しかもさ、今回の話って初っ端から痴話喧嘩よ? どうでも良くない? スケコマシになった三流勇者の痴情なんてどうでも良いでしょ! どうして私が、アイツの色恋沙汰を話さなきゃいけないのよ! おかしいでしょ!」
機嫌が悪い理由を口に出して止まらなくなったのか、怒りの矛先が仮称クソジジイからタムマロに向いた。
向いただけならともかく、そのせいでシーラの怒りの炎は激しさを増したらしく、舞台の床を踏み抜かんばかりに地団駄を踏み始めた。
「ったく、本は堕ちるのにどうして私の蹴りはアイツに届かないのよ。届け! この! 天罰よ、天罰! あの女ったらしのクソ勇者、今度会ったら股間を力いっぱい蹴り上げて潰してやる! 絶対に潰す! 二度と使えなくしてやるんだから!」
どうやら仮称クソジジイに叱られたことよりも、今回の話で勇者がやる所業に腹を立てていたようだ。
しかもそれは、女性絡み。
シーラを激怒させるほどのことを、タムマロはやらかしてしまうのだろう。
「何よ、気になるの? アンタも物好きね。じゃあ、はい。いってらっしゃい。タイトルは『人間はクソだ/あなたも人間ですが?』。ポロリはあるけれど、胸糞悪い話よ」
シーラが追い払うようにタイトルを告げると、劇場が暗くなり始めた。
完全に暗くなる前に見えたシーラは舞台の床に、いつも腰かけている揺り椅子を叩きつけようとしていた。




