6-17
「凄かったニャ! こう……ピカーっとなってドカーってなって、それでシュパーンって感じだったニャ!」
「ごめんマタタビちゃん。ちょっと何言ってるかわかんない」
どうやら、クラリス・クラーラから放たれた|超長距離極光波動砲《The End of Optics》がルナⅡを破壊する光景を見た感想みたいだけど、両手を広げてピョンピョンと跳び跳ねながら語るマタタビちゃんが可愛すぎて、ぜんぜん耳に入ってこない。
「でも、本当に凄かったです! 僕、あんなに綺麗な空は、今まで見たことがありませんでし……っぷ!」
「まあ♪ まあ♪ もっと誉めて良いのですよ? お返しに、たぁ~っぷりと甘やかして差し上げますから♪」
あたしと違って、全裸少年改めハチロウくんに手放しで誉められたクラーラは、「綺麗な空?」と、ボソッと呟いてたけどすぐに気持ち悪いくらいかを歪めて、ハチロウくんの頭を胸の谷間で包んだ。
見ようによっては、食べているようにも見えるわね。
「ところで、アレはどうするんだい? 中にある霊子力バッテリーだけ取り出すかい?」
「ちょっとタムマロ、アレ呼ばわりは失礼じゃない?」
「ああ、ごめん。じゃあ、クシナダの処遇はどうするんだい? って、言い直そう」
霊子力タービンを回すために、地下に拉致されていたハチロウくんの兄弟たちを救出して来たタムマロが親指で指し示した先にいたのは、頭部を破壊されて土下座でもするように両膝を突いたスサノオの下で、それを見上げているクシナダさんだった。
相変わらずの無表情だけど、何故か泣いているように見える。
「ねえ、クシナダさん」
あたしは、クシナダさんに声をかけた。
恐る恐るではなく、まるで久しぶりに会った友人に声をかけるように陽気に、馴れ馴れしく、何の遺恨も抱いていないと言わんばかりに、親し気に話しかけた。
「あたしたちと、一緒に行かない?」
「一緒に? どういう意味ですか?」
「言葉通りだよ。あたしたちの仲間にならない?」
「正気ですか? 当機は、あなたに酷いことを……」
「されたけど、それはあのお爺ちゃんとお婆ちゃんの命令だったんでしょ? だったら、あたしは恨まないし怒らない。それに、報いは当人たちに受けてもらったし」
あたしの申し出を聞いて、ハチロウくんが窒息寸前になっているのにも関わらず胸で愛撫し続けているクラーラは、「まさか、人形にまで欲情したんじゃ……」と、失礼な疑いを抱き、マタタビちゃんは「ラ、ライバル出現ニャ?」と、謎の対抗心を燃やし始めた。
そんな二人をよそに、クシナダさんが出した答えは……。
「当機は、行けません」
「理由を聞いても、良いかな?」
「当機は、彼から離れたくないのです」
NOだった。
けれど残念には思わず、むしろ、安心してしまった。
「そっか。じゃあこれからは、彼とここで暮らすんだね?」
「はい、両博士が残したデータを元に、彼を可能な限り復元したいと考えています」
「さっすが、何年も待っただけあって彼にゾッコンだね」
「ぞっこん? それは、どういう意味ですか?」
「彼のことしか考えられない。彼なしじゃ生きていけないって感じ……かな?」
言ったあたし自身、意味が合ってるか自信がなかったから視線でタムマロに「合ってるよね?」と、確認した。
タムマロは、「だいたい合ってる」と首肯することで答え、次いでクシナダに視線を移して質問した。
「魔力……霊子力はどうやって補給するつもりだい? スサノオを動かしたせいで、君の霊子力バッテリーは空に近いだろう? オロチ兄弟を解放した今、補給する術はないはずだ」
「それは……」
「あ、そういえばそうだ」
失念していたけれど、タムマロが言った通り、オロチ兄弟が解放された今、クシナダさんには魔力を補給する手立てがない。
だったらせめて、今回だけでも魔力を補給してあげようと提案しようとしたけれど、タムマロが話を進めてしまった。
「そこで、僕から提案がある。イチロウ君にはここへ来るまでに交渉したんだけど、オロチ一族とその集落の住民をここに住まわせてくれるなら、定期的に霊子力を提供してくれるそうだ」
「この霊子力研究所に……ですか?」
「そう。ここは一見、住みづらそうに見えるけど、研究所の中には3Dプリンターや各種工作機械も揃ってるし、植物プラントまである。狩猟採集が主な生活基盤である彼らからすれば、喉から手が出るほどの好環境だ」
「だから、ここに集落を作ると?」
「そういうこと。ただし、機械の操作方法を彼らは知らないから、それをレクチャーする必要もある。それでも、君は人と敵対せずに霊子力を補給する手段を得られる。良い交換条件だと、僕は思うけど?」
「それは確かに」
タムマロは交渉の体を装っているけれど、これは半ば脅迫だ。
機械の操作方法なんて、その気になればタムマロが教えられるはず。
それなのに、わざわざクシナダさんにそうしろと提案したのは、その手間を省くためだと思う。
「じゃあ、交渉成立だね。いやー、良かった良かった」
勝手に話をまとめたタムマロを横目で見ながら、交渉と言う名の脅迫だと気づいたあたしは「どこが勇者だ極悪人」と、聞こえないように呟いてしまった。
でも、不思議だわ。
以前のあたしなら、先の台詞を聞こえるように言いながら殴るくらいはしたのに、今はそうする気になれない。
むしろ、タムマロの行為を微笑ましく思っている。
「さて、茶番も終わったことですし、そろそろヨナゴへ向けて出発しませんか?」
「それは構わないけど、ハチロウくんはどうするの? 連れて行くつもり?」
「逆に聞きますが、連れて行かないのですか? ハチロウちゃんはそこの猫より頼りになりますし、何より可愛い。わたし的には、連れて行かない理由がありません」
本人や兄弟たちの了承を得たのか、とか。クラーラの胸に食われているハチロウくんが死にかけているなどなど、色々とツッコミどころはあるけれど、タムマロが無駄ににこやかなのを見て、すでに根回し済みなんだと察して、クラーラの言葉にショックを受けて泣いてしまったマタタビちゃんを慰め始めた。
そして、マタタビちゃんが泣き止むのを待って……。
「じゃあ、行こうかクラーラ。新しい仲間と一緒に」
「ええ、行きましょう、クラリス。ハチロウちゃんも外の世界を見たがって……あら? ハチロウちゃん? ハチロウちゃん!? どうしたのでしょう。ハチロウちゃんが窒息しています!」
「そりゃあそうでしょ」
などと軽い問答をしながら、クシナダさんとオロチ兄弟に見送られてヨナゴへ向けて歩き出した。
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