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クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第6章 きっと魔王にだって負けないよ/神にだって負けません
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6-12

 クラリス (ついでにマタタビも)救出作戦。

 作戦と大げさに銘打ってありますが、わたしとハチロウちゃんが囮として正面から堂々と攻め、その隙にタムマロ様が潜入してクラリスとマタタビを救出するだけなので、内容は単純です。

 わたし監修の改良型ヤマタノオロチの頭部に乗って屋敷を攻撃し始めてそろそろ十分ほど経ちますが、タムマロ様は無事に潜入できたのでしょうか。

 

「ハチロウちゃん、もっと激しく動いても大丈夫です」

「うん! わかったよお姉ちゃん!」


 改良型ヤマタノオロチはドラゴンの頭を模した頭部を持つ巨人で、両肩、両腕、両ひざ、そして尻尾にそれぞれ、攻撃用の術式を刻み込んだドラゴンの顔を有しています。

 さらに、アストラル・バディの術式を参考にして全高を十八メートルまで縮小し、植物の密度を高めて骨格、筋肉を構成し、岩石を装甲として纏っています。

 それゆえに、改良前ではできなかった高機動、高速戦闘を可能とし、建物からの砲撃を難なく回避し続けています。

 オオヤシマの古典で有名な一節、「当たらなければどうと言うことはない」と、いうヤツですね。


「そう、そこ、もっと右へ。そして速く。それを何度も繰り返してください」

「あの勇者が、金髪のお姉ちゃんを助けるまでだね!」

「ええ、そうです。なので、できるだけ長く奴らの目をわたしたちに向けさせます」


 本当なら、わたし自らクラリスを助けに行きたかった。

 クラリスが捕まってしまったのはわたしが迂闊だったからですし、もっと言えば、魔力を大量に消費させたせいなので、責任を取る意味でもわたしが行きたかったのですが、タムマロ様ではこのような目立つ囮はできないそうなので、泣く泣くわたしが引き受けました。

 


『このままじゃあ、らちが明かんのぉ、テナヅチや』

『そうじゃのぉアシナヅチ。相手のサイズも丁度ええし、アレを試さんか?』

『アレをか? じゃが、まだあの娘の魔力に耐えるための改修が済んでおらんぞ?』

『相手は所詮、アストラル・ボディの出来損ない。有線でも余裕じゃろう』


 二人の会話がスピーカーを通じて外に響くと、砲撃が止まりました。

 その会話で、わたしたちに老人どもの意識を完全に向けさせられたと確信しましたが、同時に不安も覚えました。

 確かに老人たちが言った通り、わたしが改良を加えて手解きをしたとは言え、ハチロウちゃんのヤマタノオロチ改はアストラル・ボディには遠く及びません。

 ハチロウちゃんがもっと魔術の勉強をし、魔力の扱い方を身に着ければ、後々アストラル・ボディに匹敵するほどのモノになるでしょうが、今は老人たちが言った通り出来損ない。そこは認めますし、不安もありました。

 ですが、先ほど抱いた不安の元は、「サイズが丁度いい」という台詞。

 その台詞が、わたしにしたくもない予想をさせました。


「……まったく、旧世界のカガクとやらは、とんでもないですね」


 そしてその予想は、当たってしまいました。

 長者屋敷の正面の地面が左右に割れ、そこから直立したままゆっくりと上がって来たのは全高二十メートルほどの、大鷲を想起させる頭部と羽を持ち、騎士甲冑のような装甲に覆われた銀色の巨人。

 ですがアストラル・ボディではなく、全てが金属で構成されているように見えます。


「装甲には対魔力障壁。背中から伸びた羽を見るに飛行も可能そうですが、伝説級相当の魔力を腰部の管で常時補給しているようなので飛ばれる心配はありませんね。ですが、目に見えるだけの武装だけでも脅威。右手の大剣は近づかなければ良さそうに思えますが、刀身には遠近問わず敵を両断する術式が刻まれていますし、各部には、屋敷の迎撃兵装以上の威力がありそうな砲身が目立たないようにいくつも。並のアストラル・バディが相手ならば、束になっても敵いそうにありませんね」

『ほう? 低能の割には正確な分析じゃな。のぉ? テナヅチ』

『さすがに、見える範囲でしか分析できていないがのぉ。エネルギー源にも言及しておったら及第点をくれてやったわい。のぉ? アシナヅチ』

「言うまでもないと思って言わなかったのですが……。魔力はどうせ、地下にある霊子力タービンを回しているハチロウちゃんのご兄弟から搾取しているのしょう?」

『アレらは霊子力タービンを動かすための貴重な家畜じゃ。この、対魔王用人型決戦兵器『スサノオ』を動かすための霊子力は……』


 そこでアシナヅチが台詞を一旦止めると、スサノオの前の空間が四角く切り取られたように真っ黒に染まり、次いで、円筒状の機会の中で苦痛に顔を歪めたクラリスを映し出しました。


『お前は低能で無能じゃが、連れは優秀じゃなぁ。改修が間に合わなかったばかりに、この小娘をスサノオに搭載できなかったのが残念でしょうがない。のぉ? テナヅチ』

『なぁに、現状でもなんら問題はない。もし、このスサノオに勝てる者がおるとすれば、それは魔王か神くらいのものじゃろうからなぁ』


 老人たちが何か言っているようですが、私の耳には一切、入って来ませんでした。

 宙に映し出されたクラリスに、釘付けになってしまったからです。

 そんなわたしの口から零れ出たのは、クラリスを利用されたことに対する怒りや侮辱されたことへの反論でもなく……。


「ふ、ふふふ……」


 嗤いでした。


「あは、あはははははははは!」


 わたしは、腹を抱えて笑いました。

 アシナヅチとテナヅチが黙り込んでしまうほど何の脈絡もなく笑い出し、嗤い続けています。


「これは傑作です! 散々好き勝手して、嫌だと言うわたしにもいっぱい迷惑をかけた性欲魔人が、機械に凌辱されるなんて傑作じゃないですか! ざまぁみろ。いえ、おめでとうと言ってあげますよ!」


 腹を抱えていた両手を天へと掲げて叫んだわたしの頬をつたって、何かが流れました。それを自覚すると同時に両肩から力が抜けて腕が下がり、首からもちからが抜けて、わたしの視線はヤマタノオロチ改の装甲に縫い付けられました。

 そんなわたしの頭は、嫉妬にも似た感情に支配されました。

 あれはわたしのだ。あれはわたしのものだ。

 クラリスの魔力は私のためにある。クラリスの魔力はわたしだけのもの。

 クラリスを使っていいのはわたしだけ。クラリスを好きにして良いのはわたしだけだ。と、思いつく限りの言い訳を頭に思い浮かべて感情の昂ぶりを制御しようと思いましたが、無理でした。

 感情が理性に圧し潰されてしまったわたしは…・・。


「よくも……」


 と、呟きました。

 それを皮切りに……。


「よくも、よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも……!」


 両手で頭を抱え、振り回しながら同じセリフを絞り出し続けました。

 そして最後に、それまで感じたこともない怒りに身も心も震わせながら、わたしは叫びました。

 何の打算もなく、魂から湧き出てきているような激情に流されるまま……。


「よくも! わたしのクラリスを!」


 と、叫んでいました。

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


ぜひよろしくお願いします!

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