6-11
建物が揺れ続け、戦闘音らしきものがかれこれ三十分は鳴り続けている。
音が近寄ったり遠ざかったりを繰り返しているのを聴いて、まるで時間稼ぎでもしているような違和感を覚えた。
「マタタビちゃん、外の様子がわかる?」
「さすがに、ここからじゃわからないニャ。それよりもお姉さま。さっきから、凄く辛そうなんニャけど……」
「ああ、大丈夫、大丈夫。ちょっと、お腹が空いただけだから」
「ほ、本当ニャ?」
「ホントホント! でもこの格好で居続けるのは少し恥ずかしいから、そこのボタンを適当に押して出してくれないかな?」
「わ、わかったニャ!」
マタタビちゃんの不安を少しでも和らげようと、あたしは表情筋を駆使して笑顔を作った。
でも、それが限界だったみたい。
マタタビちゃんが、あたしが閉じ込められている円筒上の機械の操作台と格闘を始めたのを確認するなり、ゆがんでしまった。
「これ……ヤバイかも」
魔力が涌き出る端から吸いとられる苦痛は、空腹と感じが似ている。
今はまだ、我慢できているけれど、これ以上の量を吸いとられ始めると本当にヤバい。
そうなる前に、ここから出たいんだけど……。
「う~……。わかんないニャ。これかニャ? それともこれ?」
マタタビちゃんじゃあ、この機械を操作するのは無理みたい。
クラーラがここまで来てくれるのかと最初は期待していたけれど、一度戦闘音が止み、再び鳴り出したのを鑑みると、戦闘は次の段階に入ったみたいだからそれは無理そう。
だったら一か八か、残りの魔力を使ってこの機械をぶっ壊そうと考え、そうしようとしたんだけど……。
「うわぁ……。よりにもよって、アンタが来るとは……」
「そんなに嫌そうな顔をしないでくれよ。これでも、急いで来たんだよ?」
背中にデカい荷物と、右手に見慣れない剣を提げたタムマロが現れた。しかも扉を開けず、あたしがうつむいていた一瞬で、突然現れた。
「随分と、魅力的な格好だね。機械凌辱が好みだったっけ?」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさとここから出して。マジでしんどいんだから」
「わかった、わかった。じゃあマタタビちゃん。そこを代わってくれるかな?」
マタタビと交代するなり、タムマロは操作盤をちょちょいと操作して、あたしを包んでいた液体を抜いて、次いで蓋を開けた。
支えがなくなったせいで倒れそうになったけど、手際よく抱き抱えて床に寝かせてくれた。
「……これ、抜いて。自分じゃ怖くて抜けない」
「僕がやって、良いのかい?」
「アンタなら、あたしよりも上手くできるでしょ?」
あたしは、挿管された三本のチューブを抜いてくれと、タムマロから目をそらしながらお願いした。
怖くて抜けないのは本当だけど、実際はそれらを抜く体力も残ってなかったからよ。
「わかった。じゃあマタタビちゃんは、一足先に脱出しなさい。経路はこの紙に書いてある。二人の荷物も、僕が回収しておくから」
「でも、お姉さまが……」
「クラリスは君に、情けないところを見せたくないんだ。だから、早く」
「わかった……ニャ」
説得されたマタタビちゃんは、名残惜しそうに何度もあたしの方を振り返って、タムマロが開けた扉から外に出た。
そして、マタタビが遠ざかったのを確認したタムマロは扉を閉め、体を起こせないあたしの前に膝をついた。
「本当に、僕がやって良いんだね?」
「良いから……やって。お腹が中から冷えてきてるから、本当に早く抜いて」
「わかった。できるだけ見ないようにするから」
「見ても良いから、確実に抜いて。あ、できるだけ、優しくしてね」
「はいはい、わかったよ」
タムマロは言われた通りできるだけ優しく、傷つけないように慎重に、三本のチューブを抜いてくれた。
尿道に挿管された物を抜かれた時は「ん……」と、声が出そうになるのを我慢したけれど、お尻に挿管された物を抜かれた時はたまらず、「あ、ちょっ……!」と、何かを言いかけて慌てて口を両手で塞いだ。
その順番が良かったのか、その真ん中に挿管された物のときはすんなりと抜けた。
「うっ……ぐすっ。無理矢理二つの処女を奪われるし、タムマロなんかに全部見られちゃうし。今日は人生で、二番目に最悪な日だわ」
「ちなみに、一番は?」
「お姉さまが死んじゃった時に決まってるじゃない。言わせないでよ、馬鹿」
「ごめん」
それからしばらく、無言が続いた。
タムマロが差し出したマントにくるまって寝ころび続けるあたしと、そんなあたしから背を向けて胡坐をかいたタムマロは、規則的な機械音と不規則な戦闘音が奏でる無骨なメロディーを楽しんでいるかのように、無言でい続けた。
「ねえ、タムマロ」
「なんだい?」
「アンタなら、言わなくてもわかってるんでしょ?」
「まあ……ね」
その静寂を、あたしは破った。
あたしは考えたの。
何度も「いや、タムマロはない」と脳内で否定し、「いやいや、あんな機械よりは絶対にマシ」だと何度も考え直した末に、タムマロに抱いてもらおうと。
機械に凌辱された記憶を、血の通った人間に凌辱された記憶に書き換えようと考えたの。
けっして好きではなく、むしろこの世の誰よりも大嫌いなタムマロに抱かれれば、機械に凌辱された記憶よりも鮮明に、確実に記憶に残ると考えたの。
「お願い……します。滅茶苦茶にしてください。何も考えられないくらい、あたしを壊して……」
嗚咽交じりの懇願に、タムマロは応えてくれた。
滅茶苦茶にしてくれと頼まれたのに繊細に、何も考えられないくらいにと頼まれたのに丁寧に、あたしを抱いてくれた。
そんなタムマロに不満を抱きながらも、あたしは身を任せ続けた。
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