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あの人形の価値は、計り知れません。
ジジイとババアが霊子力バッテリーと呼んでいた、魔石よりもはるかに多くの魔力を蓄積できる未知の装置を内蔵していますし、感情の起伏はないですが、人と遜色のない立ち居振る舞いができます。
もし、アレの構造を解析し、量産できたなら、それだけで末代まで遊んで暮らせるほどの富をもたらしてくれるでしょうし、その過程でわたしの知識も深まります。
「クラーラ、援護よろしく! ただし、中級魔術までにとどめてよ! 本っ当ぉぉぉぉに、ガス欠寸前だから!」
「はいはい、わかりましたから、さっさとお行きなさい」
なので、五体満足のまま、霊子力バッテリーだけ摘出するのが最適なのですが……。
大雑把で殴る蹴るしかできないクラリスでは無理でしょうし、建物ほどではないにしろ、対魔力障壁があるせいで魔術で摘出するのも困難。
ならば、霊子力バッテリーが収まっていると予想できる胴体。次点で頭部を残して他を破壊するしかないのですが……。
「ちょっ……! どうしてクラーラを狙うの!? 目の前にはあたしがいるのよ!?」
「当機の目標はあなたで間違いないのですが、あの二人を人質にした方が効率的だと判断しました」
クラリスとクシナダは激しい格闘戦の真っ最中。
クラリスの放つ拳と蹴りをクシナダは時に受け、時に捌きつつ、隙を見て右手から魔力弾をわたしとボク君へ撃ってきます。
それ自体は、マジカル・パッケージに設定した自動回避機能が回避してくれているのですが、回避頻度が高く、しかもおんぶしたボク君が力強くしがみ付いているので興奮してしまい、集中できないので他の魔術を使えません。
なので、クラリスにこの状況をどうにかしてもらうしかないのですが……。
「だったら、救世崩天! 巨神体現!」
クラリスはいつも以上に魔力を放出し、巨人の上半身を模ったような形の魔力を纏いました。
初めて見る技なので予想するしかありませんが、あれは自身の五倍近くまで膨らませた魔力で直接殴る技なのでしょう。
実際、クラリスの動きに合わせて巨人が動き、クシナダを攻撃しています。
メリットを挙げるなら、射程の延長でしょうか。
表面積が相応に拡大していますので、クラリスの後ろにいる限り、クシナダの攻撃は魔力でつくられたクラリスの身体に阻まれて届きません。
デメリットは、魔力消費量の増加。
クラリスは普段、インパクトの瞬間だけ魔力放出量を増やしています。節約のためというよりは、それが救世崩天法の基礎なのでしょう。
ですがあの技は、その基礎を無視しています。
つまり、あの技の使用中は全力で魔力を放出し続けているのです。
ただでさえ、前日の神話級魔法に始まった諸々の魔力消費から回復しきっていないクラリスの魔力残量は少ないのに、あの技は自殺行為に等しいはずです。
ですがその甲斐はあり、わたしは回避をやめてボク君を背中からおろし、魔術を使う余裕ができました。
それを待っていたかのようなタイミングで、クラリスは私の名を呼びました。
「クラーラ!」
「わかっています! 土よ、風よ、木々たちよ、彼の者を拘束しなさい! 上級複合拘束魔術!」
上級とは言え、拘束魔術で捕らえられるかどうか少し不安でしたが、クシナダを三種の鎖で地面に縫い付けることができました。
この時点で、わたしたちの勝ち。
それは慢心ではなく、現状とわたし達の戦力を元に導き出した純然たる事実。
あの老人どもはクラリスを欲しがっていますし、オーバーテクノロジーの塊であるクシナダもこちらの手の内なので、あの建物にどれほど強力な攻撃手段があろうと、クラリスとクシナダを巻き込むような攻撃をしてくるはずがありません。
「ねえ、クラーラ。あれ、何? 屋上にでっかい傘が出てきたんだけど……」
「傘? 何をお馬鹿なことを……」
クラリスの視線を追うと、たしかに傘のような物が出現していました。しかもそれは、鎌首をもたげるように、わたしたちの方へ向いています。
あれはまさか、武器ですか? ですが何故? 仮にアレが何かしら、例えば魔力を光線状に放出する兵器だとするなら、クラリスとクシナダも巻き込んでしまいます。
そんなことをしますか?
計り知れない価値を持つクラリスとクシナダを巻き込みかねない攻撃をするなど、わたしには思えないのですが……。
「や、ヤバい……。アレ、マジでヤバい!」
クラリスは攻撃されると思ったらしく、さらに前へ出て、クシナダとわたしたちを背にして両手を前に突き出して……。
「救世崩天! 最大出力波紋平傘! 十六枚!」
先に使った波紋平傘よりも巨大な障壁を、前方へ展開しました。
それとほぼ同時に、屋上の傘から極太の魔力光線が放たれました。
その威力は、控え目に見積もってもクラリスが以前使ったアルティメット・バスターの数倍から十数倍。
いまは防げていますが、あのまま魔力の照射が続くのならば、いずれ障壁は全て貫かれます。
「クラー……ラ」
傘が四枚貫かれた時、クラリスはわたしの名を呼びました。
どうにかしろ。と、言いたいのでしょうか。
「待ってる……からね」
傘が十枚貫かれると同時に、クラリスはそう言いました。
クラリスは暗に、わたしに逃げろ、そして折を見て助けに来いと言っているのです。
ですがわたしは、動こうとしません。
迫る光の槍に怯えて、動けないのではありません。
「早……く、行ってぇぇぇぇ!」
わたしは、は悔しいのです。
あの老人二人がクラリスを狙っているとわかっていながら、自分の勝手な決めつけでそれを許そうとしている事実が、わたしのプライドをかつてないほど傷つけました。
唇を嚙み切るほど歯を食いしばらなければ動けないほど、体を震えが襲いました。
それでもわたしは怒りを押さえつけ、普段からクラリスの魔力を貯めていた魔石を五つ取り出してボク君をしっかりと抱き抱えて……。
「必ず、助けに戻ります」
と、言い残してマジカル・パッケージを発動し、光に包まれたクラリスを置いてその場を去りました。
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