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クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第6章 きっと魔王にだって負けないよ/神にだって負けません
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6-6

 わたしに起きた異変。

 それを最初は、ヤマタノオロチから出てきた少年のギフトなのではないかと疑いました。

 当然でしょう?

 わたしはクラリスと違って男性しか愛しませんが、幼い頃に生きる希望を与えてくれた聖女様を愛し、愛するが故に、男性へと性転換させて犯してもらうことを目的に旅をしているのです。

 そのわたしが、美少年だからと言って胸をときめかせ、欲情し、あまつさえお姉ちゃんと呼べと叫ぶなど、天地がひっくり返るほどの異常事態です。


「さあ、クラリス。わたしをボク君のところへ運んでください」

「い、一応聞くんだけどさ。ボク君って誰のこと?」

「あの子のことに決まっているでしょう? 名前を知らないから、便宜上そう呼んでいるだけです。あ、言っておきますが、ボク君にイタズラをしたらぶっ殺します。それはもう念入りに。塵一つ残さず消滅させますので、覚悟しておいてください」

「好みじゃないからしない」

「あなたの好みはデカい猿ですものね。ですが信用できませんので、縛っておいて良いですか?」

「良いわけないじゃん。それに縛られたら、クラーラを下に運べないよ? 良いの?」

「……良くありませんので、下に降りてから縛ります。さあ、早くわたしを担いで飛び降りてくだ……ちょ、クラリス? どうしてわたしを、両手で頭上に持ち上げたのですか? まさかとは思いますが……」

「その、まさかよ。ご注文通り、おろしてあげるわよ! このショタコン!」


 わたしの物言いに腹を立てたのか、クラリスはわたしを持ち上げてボク君へと投げつけました。

 マジカル・パッケージを使っていますから、風を切るような速度で地面に叩きつけても大丈夫と思ったからそうしたのでしょうが、音の壁を超えそうなほどの速度で投げられたら、さすがに無事ではすみません。

ですが、地面に激突することはありませんでした。


「た、助かりました。ありがとう。ボク君」

「ど、どういたしまして……」


 わたしは、ボク君が咄嗟にクモの巣のように張り巡らせた蔦によって、地面に激突する寸前に助けられました。

 それ自体は良いのですが、蔦が身体に巻き付いて吊るし、聖女様に堪能していただくために育てているわたしの豊満な身体を、これでもかと強調しています。

 少し苦しいですが、ボク君が顔を真っ赤にして目をそらす様子を見て。結果オーライだと思うことにしました。


「あらあら、あらあらあらら♪ もっと見て良いのですよ? なんなら、もっと強く縛りますか? 胸の鎧が邪魔なら、外しても良いのですよ? いえ、むしろ外してください! 残念ながら、ヴァージンは聖女様に捧げると決めていますのであげられませんが、逆に、それ以外ならOKです! 具体的に言うとおし……」

「それ以上言うな! どうしちゃったのよクラーラ! 今のクラーラって、あたしとキャラが被ってるよ!?」


 ボク君の表情が照れから何故か恐怖に変わり、これまた何故か、顔色が赤から青に変わった頃に、文字通り飛んできたクラリスがわたしに待ったをかけました。

 ですが、普段とは立場が逆なせいか、クラリスはボク君の前に立ってツッコむのが精一杯のようです。


「邪魔をしないでください! わたしは今、真剣に、この子を甘やかしたいのです! ええ、それはもう隅から隅まで念入りに撫で回し、舐め回し、上の世話から下の世話まで全てやってあげてわたしに依存しきらせたいのです!」

「倒錯しすぎだよ! って言うか、下の世話はわかるけど上の世話って何よ!?」

「食事に決まっているでしょう! もちろん、与えるのは三食、わたしの母乳です!」

「出ないでしょ! いや、出ないよね? 魔術でどうにかするとか、そういうことじゃないよね?」

「魔術に頼らずとも、母乳を出すくらい余裕です。自慢ではありませんが、わたしは聖女様への想いが強すぎて、定期的に想像妊娠していますから」

「嘘でしょ!? クラーラって、あたし以上の変態じゃない!」


 クラーラの全てを知っている訳じゃなかったけれど、まさかあたし以上の変態趣味を内に秘めていたとは想像すらしていなかった。

 だってあたしが知るクラーラは、知識欲とお姉さまへの愛が異常者レベルで高い以外は、冷静で貞淑な子。敵には容赦しないし、魔術や魔法を試すためなら一般人でも平気で虐殺するほど残虐だけれど、逆に言えばそれ以外の場合で、常識はずれな言動はしない子。

 今の今までそう思っていたのに、それらが些細な事に思えてしまうくらい、今のクラーラは異常だし、気持ち悪い。


「ちょっと少年! これって君のギフトなんじゃないの!? だったら早く解いて!」

「ギフト? ええ、確かに彼は、常日頃からあなたの悪逆非道に身も心も疲れさせているわたしに、天が与えたもうたギフ……」

「キャラ崩壊させてるド阿呆は黙ってて! で、どうなの? クラーラがこうなっちゃったのって、君のギフトのせいなの!?」

「え、違……。僕のギフトは植物と話せるだけで……」

「クラリス! ボク君が怖がってますので、そんな剣幕で詰問しないでください!」

「クラーラに恐怖してんのよ!」

「ああ、すっかり怯えてしまって可哀想に……。すぐにお姉ちゃんが、そこのまな板暴飲暴食性欲魔人をぶっ殺してあげますからね」

「上等よ! やれるもんならやって……!」


 みろ。と、あたしは続けて、ボンレスハム状態のクラーラを殴って正気に戻させようとした。でも、そのさらに後ろ、さっきまであたしたちがいた建物の玄関から出てきたクシナダさんの格好と行動を見たらできなくなった。

あたしはクシナダさんが何をしようとしているか察して、クラーラの後ろにまわって両手の平のクシナダへと向けた。

そして……。


「救世崩天! 波紋平傘(アンブレラ・シールド)! 五枚!」


 手の平を向けた方向へ傘状の障壁を張る波紋平傘を、五枚出した。

 この技は、一枚でも上級魔術の直撃に耐えられる強度を持っているけれど、全身を青いラインが走る紺色のピッチリスーツ姿になったクシナダさんが、筒状に変形させた右手に妙な恐怖を感じたから、過剰なほど障壁を張ってしまった。

 でも、その判断は正しかったみたい。


「よ、四枚も貫通……。嘘でしょ?」


 クシナダさんの右手から放たれた魔力の塊は障壁を四枚も貫通し、五枚目に達したとろこで大爆発を起こした。

 その事実に、あたしは目を真ん丸に見開いて驚いているけれど、吊るされたまま器用にこっちを向いたクラーラは違うみたい。

 

「魔力を収束して放出……ですか。威力は伝説級相当ですが、使用された魔力は精々中級魔術程度。クラリスの使い方よりも効率が良いですね」

「分析する余裕があるなら、とっとと降りてきなさいよ。彼女、あたしと似たようなことができるんだよ? 守る余裕なんかないからね」

「仕方ありませんね……」


 怒鳴り気味に言うと、クラーラは『土斧魔術(ソイル・アックス)』で蔦を切り払って降りた。

 そして、わかりやすい驚異であるクシナダさんではなく、その後ろの建物へ……。


「灼け。燃やせ。万象全てを、灰燼に帰せ。獄炎顕現魔術(ヘル・フレイム)


 あたしが知る中で、最も破壊力がある上級魔術を撃った。

 だけど放たれた赤黒い炎の塊は、建物を包むように発生した光の壁によって、まるで初めからなかったかのように跡形もなく消えてしまった。


「ふむふむ。対魔術用と言うよりは、対魔力用の障壁ですね。ヘル・フレイムの術式を無効化したのではなく、込められた魔力を霧散させたのでしょう。単純に思えますが、すでに起こってしまった物理的な事象すらキャンセルするとは驚きです。悔しいですが、術式を解析して逆算し、無効化するわたしの術式無効化魔術マジック・キャンセラーよりも効率的で高性能です。ではもう一つ。集え。塊となり、圧し潰せ。塵塊投擲魔術(ダスト・キャノン)


 さらにクラーラは、空気中の埃や塵を集めて巨大な塊をいくつも作って砲撃した。

 さっきみたいになるかな? と思って見ていたら、今度は屋敷のあちこちからいくつもの筒が出て来て、そこから放たれた魔力弾に撃ち落された。


「なるほど、あの筒……形も大きさも違いますが、魔道砲と原理が似ていますね。ですが、似ているだけで威力と命中率は桁違い。まさか、ドレッド・ノートと互角に打ち合ったアレが全て撃ち落されるとは思いませんでした」

「あのさ。あたしまだ、魔力が回復しきってないんだから、検証で上級魔術をぶっ放さないでよ」

「はいはい、わかりました。わかりましたから……」


 クシナダさんの相手をしてくれ。と、クラーラは続けようとしたんだと思うけど、あたしを無視してクラーラの真横に移動したクシナダさんのせいで、それが出来なくなった。

 

「させるかぁぁぁぁ!」


 クラーラと違ってクシナダさんの動きを見逃さなかったあたしは、魔力を纏わせた左足刀をクシナダさんの左枠バラに叩き込んで蹴り飛ばした。


「ふむ。移動速度が速すぎますね。もしかすると、ゴールデン・クラリス状態のクラリス並。もしかしたらそれ以上。左手が剣に変わっていましたが、わたしを刺すつもりだったのでしょうか。でも、どうしてわたしを? いえ、そもそも、どうして味方であるはずのわたしたちを攻撃したのでしょうか。射線上にわたしたちがいたから? いいえ、違う。あの人形の狙いはわたし。わたしを狙って、クラリスの隙を生み、捕えるつもりなのだと予想します。と、言う訳でクラリス。あの人形はぶっ壊して構いません」

「言われなくたってぇぇぇぇ!」


 敵ならば、容赦なく叩き潰す。

 あたしはゴールデン・クラリスを発動し、再度クラーラを刺そうと突進してきたクシナダさんを殴り飛ばした。

 

「うぇ、手加減なしで殴ったのに、どうして無傷なの? 下手なドラゴンより硬いんだけど」


 人が発しているとは思えない、ギギギギという怪音を関節から鳴らして、これまた人には不可能な方向へ手足を曲げながら起き上がるクシナダさんから目を離さずに、あたしは誰にともなく愚痴った。


「おそらくですが、あの人形には建物と同じ対魔力障壁が備わっているのでしょう。ですが、建物ほどの性能はないようですから、ゴリ押ししていればその内、倒せるはずです」


 あたしの愚痴に、クラーラが嬉しそうに頬を歪めて返してきた。

 どうせ、敵になったんだから、クシナダさんの中にある霊子力バッテリーとやらを遠慮なく抜き出せるとか考えてるんだと思う。

 でも、あたしはそこまで短絡的に考えられない。

 だって、クラーラのダスト・キャノンを全て撃ち落してもなお放たれた建物からの砲撃の射線上には、クシナダさんもいたんだから。

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


ぜひよろしくお願いします!

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