5-13
縋るようなクラリスの視界が暗転すると、場面が劇場に戻った。
だが、いつもなら二人の醜態に眉をひそめ、嫌悪感を丸出しにしているはずのシーラの表情が曇っている。
呆れていると言うよりは、怒っている。
悲しんでいると言うよりは、哀れんでいる。
本人ですら処理できない複雑な感情が、シーラの表情を曇らせているように見える。
「ああ、気にしないで。趣味は悪いけれど、惹かれた相手と二度と会えないあの子をほんの少し、本当にちょっぴり、可哀そうだと思っただけだから」
二度と会えない。と、言ったあたりで、シーラは両拳を握り込んだ。瞳も、ここにはいない誰かを睨んでいる。
そして、「ったく、何をやってんだか……」と、誰にともなく呟いたシーラは、表情とたたずまいを正して、観客席へと語りかけた。
「失礼いたしました。本日のお話は、ここまででございます。二人はその後、ヒミコが用意した船に乗ってホンシュウに……あ、また難破するのね」
二人が船に乗ると難破。この物語において、それは半ばお約束となっているらしい。
その事実にシーラは溜息をつきつつも、営業用の顔と姿勢は保って締めの挨拶を始めた。
「さて、難破はしたものの、次回はついに、二人は当初の目的地だったトットリ県……の、隣のシマネ県に上陸いたします。そこで二人はかつてない試練と遭遇し、クラリスは、大事なモノを失ってしまいます。逆にクラーラは、後の旅に……いえ、その心に多大な影響を与える、あの世界では神具に迫るほどの宝物を手に入れます。ですがシマネ県での一幕は、ある意味で旅のターニングポイントになるのでございます」
そこまで言って、シーラは右から左へゆっくりと観客席を見渡した。
その顔は微笑んでいるように見えるが、目だけは怒りに燃えているようにギラギラしている。
「できることなら、次の話はお客様にお聞かせしたくありません。あの二人にとっては大切なエピソードですが、同じ女として、あの子があんな目に遇う様を騙りたくはないのです」
以前とは違う意味で、シーラは嫌がっている。
それでも職務を全うしようと考えたのか、シーラは優雅にお辞儀をして「それでは、本日はここまでとさせていただきます」と、言い、次いで、「お客様方の股のお越しを、このシーラ、心よりお待ちしています」と、心にもないことを言って、締めくくった。
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