表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第五章 その依頼、クラリスと…… /クラーラが引き受けました
39/166

5-12

 クラーラの上から飛びのくまで気づかなかったけれど、跳躍中にふと後ろを見てみると、クラーラの戦闘が終わっているように見えた。

 クラーラもヨシツネもたいした傷を負ってないから、戦闘の最中に和解でもしたのかもしれない。

 と、言うことは、あたしとベンケイオジサンはもう、戦う必要はないってことになる。

 でも、あたしは辞めるつもりがない。


「あたしの好みドストライクの男を前にして、辞められるか!」


 今のあたしは、ベンケイオジサンとの初体験しか考えていない。

 だからあたしは、飛んだ勢いのまま右拳を引き、左手は逆に開いて前へと突き出して……。

 

「救世崩天! 天馬乱舞(ペガサス・ラッシュ)!」


 手当たり次第に、拳に乗せた魔力を打ち出す対乱戦用の技の一つ。天馬乱舞を撃った。

 ただしこの技、射程は大して長くないし、繰り出した拳の数に応じた量の魔力を放出してしまうから消耗も激しい。

 魔力量だけ見ればアリシアさんに匹敵するお爺ちゃんでさえ、一度の戦闘で一回、百発くらいまでしか撃てない。

 だけど、クラーラにかなりの量の魔力を使われてなお、お爺ちゃんよりもはるかに多い魔力を持つあたしなら……。


「千発だって余裕!」


 とは言ったものの、あたしが着地までに放ったのは数百発。

 その数百発で、ベンケイオジサンの周りは流星群でも落ちて来たかのようにクレーターだらけになった。

 でも、ベンケイオジサンは無傷。例のギフトで、数百発発の魔力弾に耐え切った。

 だけど今の一合……あたしの手数を考えたら一合と言って良いかは微妙だけど、ベンケイオジサンのギフトの攻略法を思い付いた。


「大きなため息ついちゃって、どうしたの? もしかしてしなくても、ギフトを使ってる間は息を止めてるんじゃない?」

「……気のせいでござる」

「あら、愛するあたしに、嘘をつくの?」

「いやいや、拙僧と貴女は、まだそういう仲では……」

「照れちゃって可~愛い♪ でも、手加減はしないからね!」


 茶化して誤魔化したけど、ベンケイオジサンはギフトを使い終わった途端に大きく息を吐いて、同じくらい大きく吸い込んでいた。

 だから、ギフトの使用中は呼吸してない可能性が濃厚。もしかしたら、心臓まで止めている可能性もある。

 いえ、上位ドラゴン以上の防御力を考えると、心臓どころかすべての生命活動を止めている可能性すらある。

 その仮定が合っているのなら……。


「息もつかせぬコンボで、限界までギフトを使わせ……きゃあ! ちょっと! 今考え中!」

「戦闘中に、呑気に考え事をしてる貴女が悪い!」

「薙刀で何度も斬りつけるばかりか、木槌で殴ろうとするなんて酷いんじゃない? あ、もしかして優しいのは人前だけで、家ではちょっと気に食わないことがあるとキレて暴力をふるう人なのかしら。でもおあいにく様! あたしは亭主の暴力には暴力で対抗するたくましい女房よ!」

「何の話でござるか!?」

「二人の将来の話よ! 救世崩天! 局所金剛(ピンポイント・バリア)!」


 薙刀による突きを右に身体を開いてやり過ごしたあたしは脳天への追撃の木槌を、魔力を一点に集中して防御力を爆上げさせる局所金剛法で頭を強化し、受け止めるついでに砕いた。

 ちなみにこの技、使い方としては今のでも正しいんだけど、本来は男性特有のウィークポイントを守るために考えられた技よ。


「とんでもない石頭でござるな!」

「他は柔らかくてモチモチしてるから心配しない……でっと!」

「他も固いでござるが!?」


 失礼な。それは今、ゴールデン・クラリス状態だからよ。

 あたしは毎日のスキンケアを欠かさないし、使ってない時はさっき自己申告した通り、本当にモチモチのスベスベよ。は、置いといて。

 ギフトの弱点はわかったけれど、どう攻めよう。

 ベンケイオジサンの攻撃は、あたしの防御を貫けない。あたしの攻撃も、ベンケイオジサンのギフトに阻まれる。さっき思い付いた通り、息もつかせぬコンボでギフトの使用限界まで殴り続けるのが、現状で最も有効かつ唯一の方法。

 でも、ベンケイオジサンがそうさせてくない。

 今も要所要所でギフトを使ってあたしの攻撃を防ぎつつ、背中に背負った七種類の武器を駆使して、コンボを繋げるのを妨害している。


「じゃあ、こういうのはどう?」

「ちょっ……! どうして服を……!」

「どうして服を脱ぐのか。それは、ダーリンを興奮させるためよ!」

「は、はしたないからやめるでござる!」


 あたしは、下着だけを残して他を全て脱ぎ捨てた。

 あたしの下着は、去年の夏にブリタニカ王国で流行っていたビキニと呼ばれる水着と同じくらいの面積しかないけれど、ここは浜辺だから水着と言い張れば問題なし。

 女の裸を見慣れてる男なら大して油断は誘えないだろうけど……。


「童貞のダーリンには、効果覿面みたいね!」


 顔は今までで最も赤くなっているし、戦闘中なのに両手で顔をおおってまであたしを見ないようにしている。

 それプラス、腰が引けている。

 そんな状態じゃあ、ギフトなんて使えるはずもないし、あたしの接近も防げない。


「救世崩天、奥伝の壱……」


 お爺ちゃんが創始した救世崩天法の技は、魔力が全て。

 魔力を自分の手足のように扱う術さえ覚えれば、習得している武術がどんな流派でも関係ない。極端な話、剣術でも槍術でも良いの。

 あたしがこれから繰り出す技は、相手を抱擁して自分ごと魔力で包み、圧縮し、自分か相手のどちらかが降参、または死ぬまで続ける、救世崩天法の中で最もシンプルかつ、始まりの技。理念を形にした技の一つ。

 その名も……。

 

抱愛之信(ピュア・ラヴァー)

「こ、これはまさか、自爆技では……!」

「あたしも痛いから、自爆技と問われればそうだと答えるわ」


 あたしはこの技を使うなと、お爺ちゃんに厳命されている。

 その理由は簡単。あたしが女で、しかも小柄で腕力も弱いから。

 だから抱きついたところで、魔力の圧縮によるダメージしか相手に与えられない。腕力で締め上げて追加ダメージを与えることができない。

 つまり、あたしとベンケイオジサンが負っているダメージは同じ。だから当然、体が丈夫な方がより長く耐えられる。


「は、離すでござる! このままでは、拙僧よりも貴女の方が先に……!」

「そんなこと、百も承知よ!」


 いくら自前の魔力とは言え、一度体外に出したもので自分の周囲を圧縮する関係で、あたしもダメージを受けて皮膚はあちこち裂け、骨も何本か折れてた。

 対してベンケイオジサンは、服や皮膚は裂けているけれど、それ以上のダメージはなさそうに見える。

 このままだと、あたしの方が先にダウンしてしまう。

 それでも、あたしはやめない。

 服が破けてあらわになったベンケイオジサンの胸筋と腹筋に頬ずりしているだけで、痛みを忘れるほど興奮できるから、まだ堪えられる。


「わ、わかった! 拙僧の負けでござる!」

「え? もう降参するの?」

「するでござる! だから、早く技を解いて手当を!」


 先に根負けしたのは、ベンケイオジサンだった。

 このまま放っておけばあたしは勝手に自滅するのに、あたしの身を按じてく降参してくれたんだと思う。

 そうに違いないと思い込んだあたしは、たった一度の体だけの関係で終わらせるのが惜しくなった。

 技を解いて体を一度離したけれど……首が折れそうなほど上に頭を傾けて、鼻血まで流して固まってしまったベンケイオジサンを見たら、人の目が合っても良いから抱かれたいと思ってしまった。


「は、早く手当とその……服を……」

「ダーリン!? え? これってまさか、立ったまま気絶してる?」


 その気になってる女を目の前にして、まさかの気絶。

 少しがっかりした……と、言うより恥をかかされた気分になったけれど、自分の恰好を見て納得した。

 ベンケイオジサンの服がズタズタになったように、あたしの下着もズタズタになっていて、大事なところが丸見えになっていた。

 下着だけでも動けなくなるくらい女慣れしてないベンケイオジサンだから、全裸に近いあたしを直視してしたら気絶くらいするでしょう。

 そんなベンケイオジサンを見ていたら思わず……。


「そういうところも、可愛いんだけどね」


 と、呟きながら、再度抱き着いてしまった。

 このまま、気絶したままのベンケイオジサンを逆レイプするのもいいなと考えていたら、首根っこを掴まれて引き離された。


「お馬鹿なことを言ってないで、さっさと服を着なさい」


 あたしの初体験のチャンスを邪魔したのは、先のセリフからもわかる通りクラーラ。

 クラーラは投げ捨ててあったあたしの服を、引き離すと同時に押し付けた。


「あら、クラーラじゃない。そっちはもう良いの?」

「こっちは、とっくの昔に終わっていました」


 それは知ってた。

 と、思いながら、あたしはクラーラから渡された服を着て、ついでに治癒魔術をかけてもらっていると、ヨシツネが呆れ顔のまま近づいてきた。

 

「まったく、我が側近ながら情けない……」

「そう言わないであげてよ。あなたが女を根こそぎ取っちゃうから、ダーリンは童貞なんでしょ?」

「取ってはおらぬ。ただまあ、某に仕えているせいでベンケイが女日照りなのは……否定できん」

「あ、モテてる自覚はあるんだ」

「あからさまに言い寄られれば、ラブコメの主人公でもない限り気づくさ」

「ラブコメの主人公って何? タムマロにしてもそうだけど、オオヤシマ人ってたまに訳わかんないことを言うわよね」

「オオヤシマ人と言うよりは、転生者特有のスラングのようなものだ」

「へぇ、そうな……」


 ん? それって、タムマロも転生者ってことにならないかしら。と、疑問に思って聞こうと思うなり、クラーラが「ではヨシツネさん。約束は、守っていただきますよ」と、言って話題を変えてしまった。


「わかっている。某らは、このまま引き上げる」

「引き上げる? それってつまり、帰るってこと?」


 と、疑問を口にするなり、ヨシツネが開けた空間の穴の先に船の甲板が広がり、兵士の皆さんが気絶したベンケイオジサンをかついで運び始めた。

 

「ちょっと待って! あたしの戦利品を持っていかないでよ!」

「……戦利品? いえ、言わなくても結構。だいたい想像がつきました。さあ、ヨシツネさん、この変態がその殿方に襲い掛かる前に、早くお行きください」

「絶対に駄目! あたしとダーリンの仲を引き裂こうってんなら、クラーラだって容赦しないよ!」

「容赦してくれなくて結構。ささ、お早く」


 あたしがあたしのために考えるあたしにとって最高の初体験。

 その相手が、目の前で連れ去られようとしている。

 あたしの理想的な初体験の相手を奪うなら、ここにいる全員をぶっ倒してベンケイオジサンを奪い返すのもやぶさかじゃない。

 頭ではそう考えているのに、体が重いし魔力も出せない。

 クラーラが魔力を吸っているのかもと思ったけれど、首輪ではあたしが動けなくなるほどの魔力は吸えないはず。

 でも、クラーラが何かしたのは間違いないから、あたしは睨んだ。

 するとクラーラは、悪びれもせずにあっけらかんと……。


「こんなこともあろうかと、治療の際にヒミコから頂いた護符を背中に張っておきました。それと傷は治しましたが、体力は回復していないはずですから、無理に動かない方が良いですよ」

「そん……な」


 あたしがやりそうなことを見越していたクラーラが、すでに対策をしていた。

 さすがにこの状態じゃあ、クラーラやヨシツネを相手にベンケイオジサンを奪い返すのは不可能だわ。


「按ずるな娘。そのうち、今度は侵略ではなく別の形でオオヤシマを訪れる。その時に、ベンケイと逢瀬を重ねるがよい」


 あたしを少しでも落ち着かせようとヨシツネはそう言ったんだろうけど、あたしは今、過去に例がないほど現在進行形で猛っている。

 今まで経験したことがないほど発情してるの。今すぐ、人目を避けるのも省略したいくらいヤリたいの。

 それなのにヨシツネは、ベンケイオジサンと一緒に、空間の裂け目の奥へと消えてしまった。

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ