5-10
何度も何度も、首輪で吸える限界まで魔力を吸われた続けているあたしが、何をしてるんだろうと思って後ろを見てみると、クラーラが近接戦をしている光景が目に飛び込んできた。
「アレはたしか、トクシマで使った魔術……」
「ご友人は、大したものでござるな。剣技だけなら、ヨシツネ様を上回っておられる」
「ええ、そうだったみたい」
クラーラの見た目の変化は、モーニングスターが剣に変わってることくらいだけど、運動能力の上昇が半端じゃない。
スピードではあたしにかなり分があるけれど、単純な膂力では負けそうな気がする。
それ以上に異常なのが、あの剣術。
状況に応じて剣の大きさや長さ、形まで変えて戦うあの剣術は、手にした武器の大きさや形が基本的に変わらないと半ば思い込んでいる大多数の人にとっては、厄介極まりないはず。
いわゆる、初見殺しってやつね。
だけどヨシツネは、あたしでも防戦一方になりそうなクラーラの剣術に対応し、反撃までしている。
「表情が優れぬが、ご友人が心配でござるか?」
「心配は心配だけど……それとこれは別かな」
あたしが心配なのは、、クラーラじゃなくてあたし自身。吸われ続けている魔力の量が、異常だからよ。
修業時代にタムマロに魔力の封印を解かれ、クラーラに別の封印を施されたあたしは、それまでとは比べ物にならないほどの魔力を得た。
魔術師から見れば、正に無限と言える量だそうよ。
でも実際は、そう言われているだけで有限。
生み出される魔力の量が規格外に多いから、魔術師が数十人、数百人がかりでようやく使える神話級魔法を連発できるだけの魔力を得られているだけで、一日に生み出される魔力には限界がある。
それなのにクラーラは、首輪で吸える限界量の魔力をずぅ~~~っと、吸い続けている。
それだけの魔力が、今使ってる魔術を維持したり要所要所で攻撃魔術や拘束魔術を使うのに必要なんだと理解できるけど、吸われてる身としてはたまったものじゃない。
このペースで吸われ続けたら、ベンケイオジサンとの戦いに支障が出かねない。
「心配なさらずとも、ヨシツネ様はご友人を殺めたりいたしませぬ」
「……オジサン、やっぱ優しいね。でもあたしたち、オジサンの部下をいっぱい死なせちゃったよ?」
「ご心配なさらずとも、魔法を察知するなりヨシツネ様が逃したので、死人は出ておりませぬ」
「そうなの!? え? でも、そんなことができるんなら、船を使わなくても楽に上陸できたんじゃない?」
「無論、可能でござった。しかし、十万もの兵を能力で移動させると、ヨシツネ様と言えどもさすがに消耗するでござる」
「それで、船で来たのか。じゃあさ、どうしてヨシツネが、クラーラを殺さないって断言できるの? それにオジサンだって、あたしに手を出さないよね?」
現状、クラーラとヨシツネの戦いは互角に見える。
でも、クラーラが押され始めているのは、魔力を吸い取る間隔が不規則になっていることからも、位置関係を気にして動きが単調になっていることからも、クラーラの弱点を知っているあたしから見れば明白。
おそらくヨシツネは、クラーラがあたしと一定以上の距離を開けないことで、離れすぎると魔術が使えないようになると気づいたんだと思う。
それを察したクラーラは、余計にでもあたしとの距離を気にして、魔術の制御にも支障が出始めているんだわ。
「うら若き乙女を攻撃するのに、抵抗があるからでござる。それに、貴女たちは悪人ではござらぬ。拙僧もヨシツネ様も、善人は斬れぬ」
「そっか。甘いと思うけど、その考え方は嫌いじゃないわ。でもさ。オジサンって、さっきからあたしの足をチラチラ見てるよね? あたしを動けなくして、自分の女にしちゃおうとか考えないの?」
「せ、拙僧はこれでも僧でござる! そのような下劣は考えは……!」
「ない? 本当に? あたし、オッパイは小さいけどスタイルには自信があるんだよ? ほら、お尻も良い形してるでしょ?」
と、言いながら、あたしは腰を浮かべて裾をめくって下着を見せつけた。
するとベンケイオジサンは、顔を真っ赤にして顔をそらした。
後ろで遠巻きに見ている兵たちからは、「おおっ!」っと、短い歓声があがっているわ。
「お、おやめなされ! 嫁入り前の娘が、そのようにはしたないことをするものではござらぬ!」
「お固いなぁ。でも、そっちは固くなったりしてるんじゃない?」
「なっておらぬ! あまり拙僧を愚弄すると、さすがに怒りますぞ!」
おっと、さすがにイジメすぎたかな? と、反省しつつも、あたしは怒りと照れが入り混じったベンケイオジサンの表情が可愛いと思い、性欲が三割増しになった。
クラーラも気になるけれど、やっぱり今はベンケイオジサン。
あたしは今日、理想の雄を手に入れて女になると決めた。
「じゃあさ。勝負しようよ」
「勝負で……ござるか?」
「そう、勝負。あたしが勝ったら。オジサンの童貞を貰う。あたしが負けたら、あたしの処女をあげるわ」
「いやいや、意味がわからないでござる!」
「そう? 要は、戦争の続きをしましょうって言ってるのよ。あたしが勝てばヒミコさんの依頼を達成できるし、オジサンが勝てば侵略を続けられる。ね? とってもシンプルでしょ? 処女と童貞は、戦利品ってやつかな」
だから、勝負を挑んだ。
でもけっして、欲望に頭が支配されたからじゃない。
あたしはお爺ちゃんに言われた通り、馬鹿になろうと努力してきた。だけど、どうも上手くいかない。
どうしても、頭の方が先に動いてしまう。
だから、あたしの中で最も大きい性欲に身を任せちゃえば良いと考え、性欲のおもむくまま全力で戦おうとしているの。
「拙僧、ヨシツネ様ほどではありませんが、強いでござるぞ?」
「上等よ。弱い男なんて、こっちから願い下げだわ」
あたしが頭に思い浮かべたプランは、ベンケイオジサンを倒して縛ってクラーラに加勢する。
それだけ……じゃ、なかった。
戦う前はやっぱり、ちゃんと名乗らないとね。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我が名はクラリス! 溢れる魔力を拳に乗せて、龍すら屠る無敵美少女! 夢は憧れのお姉さまと、くんづほぐれつのいちゃLOVE生活! だから負けない! 負けられない! 邪魔する奴は、問答無用でぶん殴る! 救世崩天法皆伝! 異種超級二等武神、クラリス・コーラパール! さあ! 拳で語り合いましょう!」
タイミングと脈絡は考えなかったけれど、あたしそれっぽい動きとポーズを決めて名乗った。
だけど、やっぱりタイミングも脈絡も大切だったんみたい。だってベンケイオジサンを含め兵の皆さんがポカーンとしているもの。
その雰囲気に堪えられなかったあたしは……。
「ちょっと、恥ずかしいかも」
と、照れながら呟いてしまった。
その呟きが聞こえたからというわけじゃないんだろうけど、ベンケイオジサンは武器を構えて、兵たちを下がらせた。
そして……。
「ゲン軍副司令、ヨシツネ四天王最後の一人、ムサシボウ・ベンケイ。お相手仕る」
と、静かに名乗って、あたしの口上に応えてくれた。
読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
ぜひよろしくお願いします!




