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クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第五章 その依頼、クラリスと…… /クラーラが引き受けました
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5-3

 今の状況は、わたし的には予定通り。

 明らかに面倒事を持って来たとわかる集団の魔の手から逃れるためにクラリスの名を騙ったのも、背負っていた荷物の下敷きになり、人前なのに魔描族であるマタタビに助けてもらったのも全て、わたしが瞬時に導き出したあの状況から逃れるための最適解。

 と、頭の中で必死に自己弁護しましたが、単に首輪の有効範囲を忘れていただけです。

 ですが、クラリスと離れ離れにされたのは本当に予定通りでした。


「マタタビ。もう大丈夫ですから、そろそろ隠れなさい。頭巾で耳を隠していても、見る人が見れば魔描族だとわかります」

「でも、荷物はどうするニャ? クラーラお姉さまじゃ運べないニャ」

「心配はいりません。ちょうど良い荷物持ちが、近くにいるはずですから」


 あの集団はタムマロ様を知り、さらに以前、クラリスの魔力が暴走していた際に見た封印の護符と同じ物を所持し、それはヒメミコ様とやらのお手製で門外不出とまで言っていました。

 それらの情報から、わたしはタムマロ様とヒメミコ様とやらが知り合いだと瞬時に推察しました。

さらに、オオヤシマに来て日が短いわたしの外見的特徴を彼らに教えたのはタムマロ様だと、クラリスを連れ去った人は言っていました。

 つまりタムマロ様は、ここでわたしとクラリスを引き離したかった。


「わたしに話があるのでしょう? タムマロ様」

「ご明察。アリシアの教え通り、頭を使うようになったじゃないか」


 わたしが問いかけるなり、背負っていた荷物を片手でヒョイっと持ち上げて、使い古した軽鎧に身を包んだタムマロ様が姿を現しました。


「普段から使っています。凡人にはわたしの頭の回転が速すぎて、考えもなしに動いているように見えるだけです」

「そういう事にしておくよ」


 服についた土を払いながら立ったわたしを、わざとらしく肩をすくめて見下ろすタムマロ様の態度が癇に障りましたが、わたしは勤めて冷静に……「で? わたしに何の御用ですか?」と、返しました。


「まずは、場所を変えないかい? その方が、君も都合が良いだろう?」


 大根役者。と、言う言葉が、オオヤシマにはありましたね。今のタムマロ様の態度が、正にそうです。

 わたしはタムマロ様の計略を、以下のように推理しました。

 タムマロ様はヒメミコ様とやらに、魔術に精通した者はいないかとでも聞かれた。だから、わたしの情報を与えた。

 ですが、わたしはクラリスがいないと何もできません。それなのに、彼らはわたしだけ連れ去ろうとしました。

 つまり、タムマロ様はクラリスの存在と役割を教えていなかったのです。

 先ほどのような状況になれば、クラリス抜きで自分に何かを伝えるはずだと考えたわたしが、クラリスと離れることになったとしても一人になると予想して。


「宿を取っているから、そこで話そう」

「あら、勇者様から宿に誘われるなんて、なんとも魅力的なお誘いですね。ですがわたし、聖女様以外に興味はありません」


 ブリタニカ王国で男性が女性を宿に誘うのには、そういう意味合いがあります。

 だからわたしは茶化したのですが、タムマロ様は両肩をすくめて「心配しなくても、何もしないよ。後が怖いからね」と答え、わたしとマタタビを宿へエスコートしました。


「かなり、上等な宿ですね。勇者って、そんなに儲かる職業なのですか?」

「勇者は職業じゃなくて、称号みたいなものだよ。まあ、そのおかげで金に困っていないのは確かだけどね」


 名乗るだけでお金が稼げるとか? と疑問に思いつつ、わたしは、「パっと見で、一晩で一人四~五万円は払わされそうな高級旅館。そんなこの部屋を取れるタムマロ様の財力の源が気にはなりますが、取りあえずは、お金に困ったらこの人に頼めばどうとでもなるとわかったから良しとしましょう」と、タムマロ様に聞こえないように早口で呟きました。

 それに気づいているのか、それともすっとぼけているのか、タムマロ様は素知らぬ顔をして……。


「先に、シャワーでも浴びてきなよ」


 ヤり慣れた男が言いそうなセリフを、テーブルの前に腰を下ろしながら言いました。

 他意はないのでしょうが、クラリスが聞いたら「素人童貞が一丁前に何言ってんのよ」と、呆れながら言いそうです。


「後ほどゆっくりと浸からせて頂きますので、今はけっこうです。それより、わたしとクラリスを引き離した理由を教えてください」


 クラリスは、どんな状況でも力づくでどうにかできます。

 ですがわたしは、基本的にクラリスがいないと初級魔術すら使えません。

 念のために、常日頃から手持ちの魔石にクラリスの魔力を貯めていますが、数が心許ない。

 さっさと理由を聞いてクラリスを合流しなければ、わたしは安心して温泉にも浸かれません。


「わかった。じゃあ、とりあえず座って話そう。マタタビちゃん。お茶を人数分、淹れてもらえるかな?」

 

 タムマロ様は、わたしの背中に隠れて恨めしそうにタムマロ様を睨んでいたマタタビに指示しました。

 マタタビは、魔猫族が迫害される原因と言えなくもないタムマロ様の言うことを聞きたくないようですが、話を進めるために「淹れなさい」と、命じると、渋々ながらお茶を淹れ始めました。


「さて、君とクラリスを離した理由だけど、君には、彼女と会う前に予め知っておいてほしいことがあったからなんだ」

「彼女とは?」

「元ヤマタイ国の女王で、現フクオカ県知事の『ヒミコ』さ。彼女は君を、ツシマへ送るつもりだ」

「ツシマ? たしかキュウシュウの北西に浮かぶ島ですよね? どうしてそのような所にわたしを?」

「この国に迫る他国からの脅威を、排除するためさ。」


 他国からの脅威を排除。

 それを聞いて最初に思い出したのは、『チュウカ』と呼ばれている西の大陸の国を侵略しようとしていると噂の、『ゲン』と呼ばれている北方の新興国。

 その国は魔族を主とした多民族国家で、数年前から近隣の国々を侵略し始めました。

 ブリタニカ王国を始めとした西方の国々は、魔王軍に代わる新たな脅威であるゲンに対抗するために、合同で防衛線を張っているほどです。

 タムマロ様の話を信じるなら、その魔の手がこの国にも迫っていると予想できます。

 故にヒミコなる人は、地理的に最前線になるツシマに手練れを集めようとしているのでしょう。ですが、疑問が残ります。


「この国に、軍隊はないのですか?」

「あるよ。だけど、軍は動かせない」

「何故です? わかりやすい脅威が、迫っているのでしょう?」

「この国の方針のせいさ。専守防衛と言って、簡単に言うと殴られるまで殴り返さない」

「殴られるまで? この国のトップは、馬鹿なのですか?」

「転生者が持ち込んだ思想のせいさ。この国は戦争を起こさないし、起こさせない。中には、酒を酌み交わせば侵略者とも分かり合えるとのたまう人までいる」

「はぁ……。それはなんとも……」


 幸せな思考回路ですね。が、率直な感想です。

 そんな思想など、侵略する側からすれば関係ありせん。

 戦争を仕掛けられれば迎撃くらいはするのでしょうが、仕掛ける側からすれば、殴られるまで抵抗すらしない相手などカモ。

 もし、わたしが侵略する側なら、初手で政治の中心都市に神話級魔法を撃ち込んで、指揮系統の混乱させることから始めます。


「転生者の平和ボケに毒されたのさ。魔王が健在だった頃でさえ、この国は僕を追放というかたちで派遣する以外のことはしなかったくらいだからね」

「滅ぼされていないのが、不思議に思える国ですね」

「八大龍王の守護があるのと、各県知事がまともだからだよ。だから今回も、ヒミコさんは先手を打とうとしている」

「軍は動かせない。だから、異国の冒険者であるわたしたちに、ゲンを迎撃させようとしている。ですか?」

「その通り。君、アワジで神話級魔法を使っただろ? それが、ヒミコさんの耳にも届いていたらしくてさ。彼女を久しぶりに訪ねるなり、君のことを聞かれたよ」


 たしかに、広域殲滅魔法(ソドム)やそれに類する神話級魔法を使えば、一国の軍隊と言えども物の数ではありません。

 ですが、わたしに得がない。

 わたしは早くトットリに行って探索をしたいのに、ツシマへなど寄り道したくない。と、顔に出すほど露骨に嫌がりつつも、だからこそわたしにだけ、タムマロ様は予めこの話をしたんだと察しました。


「察しが良くて助かるよ。クラリスはこの国の状況を聞けば、同情して安請け合いするだろう。だけど、君は違う。見合った報酬がなければ、動かないよね?」

「当然です。タダ働きなど、死んでも御免ですから」


 クラリスは自分が支払う対価については太っ腹なくせに、払われる対価に関しては無頓着です。

 故にタムマロ様が言った通り、この国特有の事情を聴けば、報酬など二の次で引き受けるでしょう。


「そう言うと思ったよ。だから、報酬は僕が支払う」

「ちなみに、何を頂けるのですか? 一国の軍隊を相手にしろと言うのですから、お金などでは引き受けませんよ?」

「わかっているよ。僕が提示する報酬は、前金代わりとしてこの国に古くから伝わる神話級魔法と、敵の指揮官の情報。成功報酬として、オークニヌシとは別の甦り話を教える」

「これはこれは、なんとも大盤振る舞いですね」


 わたしたちが求める情報はもちろんですが、国が戦争を仕掛けてでも手に入れようとする神話級魔法を前金代わりにくれるなんて、太っ腹すぎて裏の目論見があるんじゃないかと疑ってしまうほどの好条件。

 いえ、目論見があるのでしょう。

 なぜなら、わたしたちがこの旅を始められたのはタムマロ様のおかげ。ならばこの旅は、タムマロ様が彼女に会うためのものだと邪推してしまいます。

 もしそうなら、タムマロ様は……。


「今でも、聖女様を愛しているのですか?」


 と、半ば確信している質問を投げ掛けました。

 すると、タムマロ様は悲しげに微笑んで……。


「うん。今も昔も、僕は彼女に首ったけだよ」

 

 と、かつて救えなかった一人の女性を思い出して、絞り出したようにか細い声で答えました。

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


ぜひよろしくお願いします!

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