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クラーラが祈るように歪んだ願望を口にしながら瞳を閉じるのと入れ替わるように、風景が元の劇場に戻った。
「いかがでしたでしょうか。先ほどお客様が見聞きしたのは、二人が目的地である極東の国、オオヤシマ国に到着した日の出来事でございます」
シーラの様子がおかしい。
台詞も仕草も慇懃無礼そのものだが、表情を取り繕えていない。笑顔ではあるものの、頬には冷や汗が伝い、口の端はヒクヒクと痙攣している。
「二人の物語はまだまだ続くのですが……え? 続くの? あのノリで!?」
シーラは驚愕の事実を今初めて知ったかのように、素が出るのもお構いなしに、純粋に驚いている。
それでもシーラは「ゴホンっ!」と、咳ばらいを一つするなり表情を取り繕って、話を再開した。
「最初に申しました通り、私はあの二人がこの先どうなるのか存じません。ですが少なくとも、二人は歪みに歪んだ劣情を叶えるために、オオヤシマを駆け回るでしょう」
シーラは、明らかに演技だとわかる表情と仕草で、切りの良いところまで言い終えた。
それでも、いや、だからこそ、「控えめに言って変態よねぇ……。ったく、どんな育ち方をしたのよ……」と、忌々しそうな表情を浮かべ、観客席から視線を外して愚痴った。
それでも語り部としてのプロ意識はあるらしく、何度目かもわからない咳ばらいをしたシーラは表情と姿勢を作り直して、最後の挨拶を始めた。
「それでは、本日はここまでとさせていただきます。もしお客様が、二人の物語の続きを聞きたいと望まれるのなら、再びここにお越しくだ……え? 何よそれ。訳わかんないんだけど?」
一先ずはここで幕引き。
少なくともシーラは、仮称「クソジジイ」から何か言われるまではそう思い、そうしようとしたのだろう。
だが、終わりなのは間違いないらしい。
天井に向かって右拳を振り上げ、舞台の床を踏み砕かんばかりに地団駄を踏みながら「降りてこいクソジジイ!」と、怒鳴るシーラを隠すように、緞帳が降り始めているから。
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