5-1
ケモ耳&尻尾。
それは人でありながら、獣の愛らしさを得ることができる魅惑のアイテム。さらにメイド服が加われば、凶器と言っても過言ではない。
とは、猫の耳と尻尾を生やし、ワダツミが魔力で服を編んだのを参考にしてわたしが創った魔術、『装備換装魔術』でメイド姿 (ただし、スカートは少し前屈みになっただけでお尻が丸見えの超ミニ)になったクラリスの熱弁です。
「ほら、クラーラも早く着替えなよ!」
「嫌です。どうしてわたしが、そんな男に媚びるだけの格好をしなければならないのですか?」
「可愛いから」
「可愛いですが?」
「そんな、あたしが可愛いだなんて……。照れるじゃない♪」
「あなたに言ったわけではありません」
どうやらクラリスは、わたしよりも自分の方が可愛いとか思っているようですね。
ですがわたしに言わせれば、それは思い違いの勘違い。
もちろん、根拠はあります。
それは、わたしからすれば遺憾でしかないのですが、男性の反応が物語っています。
ブリタニカ王国を出てからの道中もそうでしたし、オオヤシマに着いてから立ち寄った全ての町で、男性はわたしばかりを見てクラリスには毛ほども興味を示しませんでした。
つまり、わたしの方がモテると言う証拠。
それは転じて、わたしの方が可愛いと言うことになるのです……と、言ったところでクラリスは納得しないでしょうから、寛大なわたしは「あなたがそう思うのならそうなのでしょう。あなたの中では」と、聞こえないように呟きながら、嘲笑うだけに留めました。
「で、どうなの? コレ使えそう?」
「使えません。そもそもソレ、この魔族のギフトですから」
わたしたちが噂を頼りに辿り着いた『猫屋敷』に足を踏み入れるなり不自然極まりない歓待をしたのは、わたしの魔術で目の前に拘束された上で正座をさせられている魔族でした。
特徴的に、魔描族と呼ばれている種族だと思われる茶髪の幼女の力は、気を許した相手に猫耳と尻尾を生やすギフト。と、言ったところでしょう。
歓待するのは、気を許させる手段。
わたしは歓待された程度で気を許したりしないので被害はありませんが、食事からお風呂まで堪能してすっかり気を許してしまったクラリスは、しっかりと猫耳と尻尾を生やされてしまいました。
「あ、あの……命だけは……」
「取らない取らない! こんなに素敵な姿にしてくれた猫耳幼女を殴ったり蹴ったり刺したり突いたりなんかできるわけないじゃない! ね? クラーラ。しないよね?」
「え? しますよ? だって、完全に無駄足じゃないですか。魔術なら多少は参考になったかもしれませんが、ギフトではクソの役にも立ちません。これなら、素直にフクオカへ向かっていた方がマシでしたよ。と言うか、猫耳と尻尾を生やすギフトって何の役に立つのですか? 無駄ですよね? 無駄の極みですよね? ああっ! なんだか、無性に腹立たしい! 拷問の一つもしなければ治まりません!」
と、言うことでさっそく、わたしはオオヤシマの民族衣装であるキモノに身を包んだ魔族の幼女を拷問しようと魔術のチョイスを始めました。
ちなみに、「オオヤシマ語が上手くなったね~」とか言って呆れ果てたような目で私を見ているクラリスは無視します。
「ところでさ。猫耳幼女は、どうしてこんな事をしてるの?」
「それは、その……」
「クラリス。尋問など不要です」
「いや、気になるじゃん。だって、見ず知らずの他人にご飯やお風呂を用意して耳と尻尾を生やすだけじゃあ、この子に得なんてないんだよ? 赤字なだけだよ? ん? もしかしてそれが、この子のギフトのデメリット? いやいや、とにかく! 他に目的がないのに、そんな事をするなんて不自然だよ」
「言われてみれば……」
たしかに。
と、一応納得し、クラリスの尋問に耳を傾けることにしました。
わたしにしては珍しく、その目的次第では、拷問は勘弁してあげても良いとさえ考えています。
「仲間が……欲しかったんだニャ」
「は? 仲間?」
「そ、そうだニャ! 魔王様亡きあと、うちら魔描族は四天王の一人に前描族がいたせいで迫害されたんだニャ! そのせいで、今や同族と出会うのも困難で……」
だから、多種族を同族に変えて仲間を増やそうとした。と、続けたかったのでしょうか。
そうだとするのなら、この魔族のギフトは猫耳と尻尾を生やすだけの陳腐なモノではなく、種族を変えてしまえるほど強力なモノです。
この仮説が合っているのなら、真のデメリットはこの魔族の境遇。オオヤシマにいる限り、この魔族のギフトはほぼ使えません。
あら? クラリスが瞳をウルウルさせて、幼女獣人の前に膝まづきました。まさかとは思いますが……。
「可哀相……。そんなに酷いの?」
「酷いなんてもんじゃないニャ! 虐殺と言ってもいいくらいだニャ!」
やはりクラリスは、魔族の境遇に同情してしまったようです。
そこがクラリスの良いところではありますが、わたしに言わせれば同情するだけ無駄。
仕方のないことでした。
と言うのも、かつての魔王軍、その一翼だった魔獣軍を指揮し、最も人族を殺したのが魔描族の族長であり魔王四天王の筆頭だった、銀獅子の異名で呼ばれたシルバーバインだったからです。
タムマロ様のパーティーメンバーであり、アリシア様の実兄でもあった、剣聖 ラーサー・ペンテレイア様との壮絶な死闘の果てに相討ちになったことでも有名です。
「クラーラ、拷問はやめてあげて」
「嫌です。それでは、わたくしの気がすみません」
「クラーラには実害がなかったんだから良いじゃない! この子が作ったご飯、美味しかったでしょ? お風呂も気持ちよかったでしょ?」
「それでも嫌です」
「なんでよ! いくら拷問が好きだからって、こんな小さくて可愛くてオマケに料理上手な子を拷問するなんて人じゃないよ! クラーラは悪魔だ!」
「悪魔とは失礼な。わたしはこれでもシスターのはしくれ。故に、そこらに転がっている有象無象よりは人間ができていると自負しています」
自負しているだけで、実際は自己中心的なサイコパスだと、わたしは自己分析しています。
わたしは教会育ちなのに、愛とか思いやりの心が理解できないのです。
ただし、拷問する気が失せないのは、わたしの性格が原因ではありません。
半分はクラリスのせいです。
もし、クラリスが涙ながらに訴え、頭をたれて懇願していたならば、わたしも丸く治めてあげました。
ですが、クラリスは欲情しています。
頬は紅潮してヨダレをたらし、魔族の体を現在進行形で不必要なほど撫で回しているのが、気にくわないのです。
「もういいニャ。酷い目にあうのは慣れてるニャ」
もう半分はコレ。
語尾がイラつくからです。
わたしは無表情を貫いていますが、頭の中では「なんですか「ニャ」って。キャラ付けにしても、もう少し捻るべきでは? 見た目が猫に近いからって、語尾に「ニャ」とつけるなんて安直です。手抜きと言っても過言ではないレベルです」と、頭の中で早口で言っています。
「そうだ! この子って料理が上手いから、あたしたちの仲間にしようよ!」
「不要です。道中の食事は保存食で十分。美味しいものは、町についてから食べれば良いじゃないですか」
「いやいや、道中の食事も大切だよ! ね? 猫耳幼女は、保存食を美味しく料理したりもできるよね?」
「そ、それくらいならできる……ニャ」
ふむ、保存食を料理と呼べるレベルにまで昇華させられるのなら、一考の余地はあります。
さらに、シルバーバインがそうであったように、魔描族は魔族の中で最も敏捷性に優れ、潜入や暗殺も得意分野。
情報収集をさせるのに、ちょうど良いかもしれません。
「よし! クラーラが考えてるってことは、ほぼほぼオッケーってことだね。良かったね。これで、拷問されずに済むよ!」
「でも、良いのかニャ? うちと一緒にいたら、お姉さんたちまで酷い目に……」
「遭わない! だってあたしたち、強いもん! ね、クラーラ」
「まあ、弱くはないですね」
わたしたちにはお互いに足りない部分を補いあわなければならない弱点がありますが、一緒ならかつての四天王とだって良い勝負ができる……かもしれない程度には強いと思います。
「本当に、良いニャ?」
「うん! 良いよ! だからまずは、名前を教えてよ!」
あ、これはもう完全に、この魔族を連れていく流れです。と、察したわたしは、保存食を美味しく食べられるなら、それも良しとしましょう。と、無理矢理納得して諦めました。
「う、うちの名前はマタタビ。よろしくニャ」
ですが、魔族が遠慮気味に名乗ったのを聞いて、何故か胸の内に不安が生じました。
わたしは、何を不安に思っているのでしょう?
どうしてマタタビと言う名を聞いて、こんなにも不安になったのでしょう。
まるでそう遠くない内に、世界が滅亡するとでも言われたような現実味のない不安が、わたしの胸中を渦巻いています。
いえ、いました
「マタタビちゃんね! じゃあ、さっそく食べちゃおう! 一度で良いから、幼女を犯してみたか……」
「絵面が悪いからおやめなさい」
マタタビに飛び掛かろうとしたクラリスを魔術で止めたら、不安を忘れていました。
読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
ぜひよろしくお願いします!




