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クラリスが再びチクチクとした微妙な痛みに快感を覚え始めたあたりで、場面は劇場に戻された。
舞台上のシーラは、相変わらず呆れ果てたような顔をしている。
「いや、馬鹿過ぎでしょ、あの子。あの子は背中を濡らしていた物をクラーラの涙だと思ったみたいだけど、違うから。涎だから、あれ。あの馬鹿、涎を涙だと誤解して、クラーラが自分の言葉に感動したと勘違いしただけだから。クラーラはあの時、あの子のことを「あ、チョロいですね、コイツ」って思ってたから」
シーラは、実際に目の当たりにさせ、体験させた話を台無しにした。
「まあ、契約術式のデメリット自体は、本当だったみたいだから、良かったわ。ん? 良かったのかしら? 良かったのよね? 間違いないよね? だってあれから一ヶ月余りの訓練のあとに二人は旅立ちを認められて……まあ、実質国外追放だけど、なんだかんだでオオヤシマに着けたんだから」
なんだかんだの一言で、かなりの数のエピソードを端折った感はある。
それでも、二人がオオヤシマへ辿り着いた事実は変わらない。
「そうそう、結果は変わらないの。だから、気にしたら負けよ。さて、どうせ帰るつもりもないんでしょうし、話を続けましょうか」
オオヤシマまでの道中を省略したシーラは、溜息をついて心底面倒くさそうな顔を一瞬浮べたが、すぐに営業スマイルを張り付けて語り始めた。
「続けてお客様にお聞かせいたしますのは、二人がキュウシュウに着いてからの一連の出来事。二人は新たな仲間を加え、フクオカ県のハカタに着くなり一悶着を起こし、何故かオオヤシマを守るために、他国の軍隊とたった二人で戦うことになってしまい……いや、戦ってないわね。蹂躙か虐殺って言った方がしっくりくる気がする」
途中までは保たれていた営業スマイルが、最後の最後で歪んでしまった。
右の眉毛と唇が痙攣したかのようにヒクヒクと震え、両肩は脱力している。
「はぁ……。やだなぁ。こんな話したくないなぁ。でも、しなきゃいけないのよねぇ……」
盛大に溜息をつき、いつも以上に乗り気じゃなさそうなシーラは、話を進めようとしない。嫌がり方も、いつもより酷い。
それでもシーラなりにモチベーションを取り戻したようで、表情と姿勢を正して再開した。
「何度目か忘れましたが、失礼いたしました。さて、それでは再開いたしましょう。タイトルは『その依頼、クラリスと…… /クラーラが引き受けました』。どうぞ、ご清聴ください」
シーラがドレスのはしを摘まんで優雅にお辞儀をすると、いつものように劇場が暗くなり始めた。
そして完全に暗くなりきる寸前、シーラの足元に光る物が数滴落ちたように見えた。
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