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あたしはタムマロにお願いして、魔力の封印を解いてもらった。
結果は痛い思いをしただけで終わったし、子供魔術師改めクラーラに別の封印をされる羽目になった。
それから早半年。
何故かクラーラも一緒に、タムマロとお爺ちゃん、そしてアリシアさんが課す、モンスターを相手にした準備運動のあとに、お爺ちゃんたちを相手にした実戦形式の修行を街の近くの荒野で続けていた。
だけど、どうにも息が合わない。
あたしは近、中距離戦が主なのに、クラーラが魔術を使いたがるから呼ばれたら一々手が繋げる距離に戻らなきゃならない。
ちなみに今日の準備運動の相手は、ハティと呼ばれている狼型のモンスターの群れだったわ。
「ねえ、クラーラ。呼ばれるたびにそばまで戻るのが面倒くさいし、無駄にしか思えないんだけど」
「あなたが前に出る方が無駄です」
「どうして? クラーラが魔術を使うより前に、モンスターの群れはほとんど片付いてたよ?」
「初手からわたしが魔術を使っていれば、もっと早く片付いていました」
ストレートに不満を言っても、クラーラは聞く耳を持ってくれない。
いつもと同じ、お決まりの塩対応。
この半年で慣れはしたけど、散々ボコられたあたしがフレンドリーに話しかけてるんだから、もうちょっと愛想良くしてくれても良いんじゃない? と、どうしても不満に思ってしまう。
「じゃあ、準備運動はそのあたりにして、そろそろ今日の訓練を始めるけど……良いかな?」
「良いよ。さっさと始めて」
「ちょっと、クラリスさん? 何度も言いましたが、勇者様にその物言いは失礼じゃないですか?」
「三流勇者が相手なら、これでも丁寧すぎるくらいよ」
タムマロは魔王を倒した勇者。
生きた伝説。魔王亡き後、この世界で最強の人間。それが、アイツに対する世間の評価。
でもあたしに言わせれば、お姉さまを救えなかった三流勇者。
世界なんてどうでもいいモノを優先して、お姉さまをたちの悪い病に罹らせて殺した罪人。
死期を察して娼館を出たお姉さまを助けてと、泣いて懇願したのにアイツはお姉さまを救ってくれなかった。
だから、どうしても好きになれない。
姿が見えると、今もそうしているように睨みつけてしまう。
「クラリスさん。始まりますよ」
「……わかってるよ」
わかっているけれど、いつもと同じであたしがお爺ちゃんにボコボコにされる未来しか想像できない。
戦力的にも経験的にも完全にお爺ちゃんとアリシアさんが上なのに、さっきみたいにクラーラが魔術を使いたがるから、その隙を突かれていつも惨敗。
あたしとお爺ちゃんの実力差は酷いけれど、クラーラがいちいち「戻って来い」と言わなければ、もっと善戦できる。
要は、クラーラの我が儘のせいで、いつも負けているのよ。
「さて、今日は昨日よりもマシになっておるかの? なあ? クラリス」
「昨日の今日で、劇的に変わるわけないじゃん。でも、昨日よりはもたせて見せるつもりよ」
「もたせる? それじゃあいかん。ワシを殴り殺す。くらいのことは言わんか馬鹿弟子」
「わかった。じゃあ、ぶっ殺す」
逆にぶっ殺されるんだろうなぁ……と、思いながら、お爺ちゃんをクラーラに近づけさせないために、お爺ちゃんに突撃しようと軽く身をかがめた。
「初手で神話級魔法をぶっ放しましょう。それで終わりです」
それなのにクラーラは、やっぱり協力するつもりがないみたい。
近づかれる前に詠唱を終わらせて、お爺ちゃんの射程外から一方的に攻撃する自信があるんでしょうけど、お爺ちゃんはそんな隙を与えてくれない。
たった数十メートルのこの距離なら、お爺ちゃんは瞬きをする間に距離を詰めて、詠唱を始める前にぶん殴られて終わりよ。
それが想像できないクラーラは「さあ、クラリスさん。早く、手を」と、面倒くさそうな顔をして言っている。
「魔石は持ってるんでしょ? それを使って援護してよ」
「あなたは魔石がいくらするか知っていて、そんなことを言っているのですか? ブリタニカ小銀貨一枚ですよ? 魔石一つの代金で、庶民なら一週間は楽に暮らせるのです。それほどの大金を、高が訓練で浪費したくありません」
「あたしの魔力だったら良いの?」
「ええ、かまいません。だって、お金がかからないでしょう?」
たしかに、お金はかからない。でも、言い方と扱い方が気に食わない。
あたしを動く魔石程度にしか思ってなさそうなクラーラの態度が、ムカついてしょうがない。
「ちょ! ちょっとクラリスさん! 待ちなさい! どこへ行くつもりなのですか!」
「突っ込むに決まってるでしょ!」
あたしの腕を掴んだクラーラの手を振り払って、足の裏から魔力を放出してお爺ちゃんに突っ込んだ。
アリシアさんが魔術で邪魔してくるかと少し警戒したけれど、いつも通り、あたしの相手はお爺ちゃんに任せるつもりのようで、何もしてこない。
「だったら! いつも通り遠慮なく……!」
今のあたしに扱える魔力 (お爺ちゃん基準で三級相当)の全てを拳に込めて、お爺ちゃんの顔面目掛けて突き出した。
でもあたしの渾身の一撃は、「思い切りは良いが、さすがに真正面からそれはないじゃろう。考えに考え抜いた結果がそれだと言うのなら、お前は馬鹿以下じゃぞ?」と、言いながらハエでも払うかのように軽く振ったお爺ちゃんの左手で、あっけなく払われた。
しかも、あたし以上の魔力が籠った左手で。
「いっ痛ぅ……! さっそく右腕が逝っちゃったか!」
たしかに、真正面からの馬鹿正直な一撃だった。
でも、今のあたしが出せる最速、かつ最強の一撃だった。
お爺ちゃんが相手でもワンチャン入る。と、思ったあたしが、お爺ちゃんが言った通り馬鹿以下だったんだけど、その代償が想定よりも大きかった。
こんな序盤で利き手が使えなくなったのは色んな意味で痛い。
だけどもちろん、お爺ちゃんは躊躇も遠慮もなく、あたしに拳や蹴りを叩きつけ続け始めた。
今はまだかろうじて防ぎ、躱せているけれど、このままだと遅かれ早かれ、あたしは……。
「遥かな昔、偉大な武人はこう言った。曰く、考えるな、感じろと」
やられる。
その想像がフラグになってしまったのか、防御が少し、ほんの少しだけ疎かになってしまった。
当然、お爺ちゃんがその隙を見逃すはずがない。
「救世崩天……巨神踏破」
足の裏に魔力を集めて巨大な足を成し、踏み込みの動作そのものを技に昇華させた巨神踏破で、あたしを地面にめり込ませた。
そして、動けなくなったあたしを見下ろして……。
「お前はもっと、馬鹿になれ」
と、言い残して、クラーラの方へ視線を移した。
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