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クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第四章 これって、クラーラの涙なんじゃないの?/断じて、違います
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4-2

 どれくらい寝てたんだろう。と、疑問があたしの頭をよぎった。

 お姉さまを侮辱し続けているあの像に堪忍袋の緒が切れて、ぶっ壊してやろうと娼館を飛び出したのが昼過ぎ。だけど、窓の外は真っ暗だから軽く五~六時間かな。と、大雑把にあたりを付けた。

 けれど、疑問が解消されると同時に……。


「あたし、アイツに……」


 アイツがどこの誰なのかはわからない。

 だけど、敗けたのだけは事実。

 同年代の子供に意識が無くなるまで痛め付けられた事実が、ただでさえ低いあたしのテンションをさらに低くした。

 救いがあるとすれば、アイツの格好と魔術を使ったことから、魔術学院の生徒だと想像できたこと。

 そんな歳でそこへ入学できるということは、相当の天才かギフトホルダー。

 天才が相手じゃあ、女将さんに格闘術を習い始めたばかりのあたしじゃボコられて当然か。と、自分を慰めることができた。

 それでも……。


「悔しそうだね。クラリス」


 ええ、歳が近い奴に喧嘩で負けたのが悔しい……と、心の中で答えて、ベッドの横から聞こえるこの声の主の存在に初めて気づいた。

 そして、それが誰なのかにも。


「タムマロ? どうしてここに?」

「君に会いに来たんだ。って、言ったら喜んでくれるかい?」


 タムマロはさわやかな笑顔を浮かべてそう言いったけど、お返しとばかりにあたしは、心底嫌そうに顔を歪めた。

 そして……。


「嘔吐が出るからとっとと帰れ、三流勇者」

「君の治療が終わったら、そうするよ」


 悪態をついた。

 でも、タムマロはどこ吹く風と言った態度で、あたしの胸元へ視線を落とした。

 あたしもタムマロの目を追うように視線を移すと、その先から体全体へ暖かい淡い緑色の光が広がっているのが見えた。

 タムマロは、アイツにに半殺しにされたあたしをここまで運び、今まで治癒魔術をかけ続けてくれていたんだと理解した。

 だけど、、そこであることに気づいた。

 あたし、服を脱がされてない? うん、間違いなく脱がされてる。上から下まですっぽんぽんだわ。


「この、ロリコン」

「治療のためだよ。それに、金は払っているんだから、文句を言われる筋合いはない」

「あるわよ。だってあたし、処女だもん」

 

 と、文句を言いつつも、あたしはタムマロの前で今さら恥ずかしがったりしない。

 だってコイツがあたしを買ったと言う名目で部屋に居座るのは、今回が初めてじゃないんだもの。コイツがいても関係なくお風呂に入ったり着替えたりもしてたから、裸を見られるのも初めてじゃない。

 

「まだ、この部屋から出ていかないのかい? 彼女から貰った金も、もうすぐ尽きるんじゃないか?」

「アンタが定期的に買ってくれるから、十五歳になるまでは余裕よ」


 あたしが暮らすこの部屋は、世話になっているこの娼館でもトップ3しか使えない部屋の一つ。かつて、あたしがお姉さまと呼び慕っていた人が使っていた部屋。

 本来ならここに、店に貢献していないあたしが居座ることなんてできない。

 あたしがこうしていられるのは、娼館の経営者である女将さんの厚意と、元部屋の主が残したお金。そして、コイツがあたしを買うと言う名目で払っているお金のおかげ。

 だからそこだけは、感謝している。


「どうして、十五歳までなんだい?」

「あたしがガキだからよ」


 あたしが生まれ育ったここ、ブリタニカ王国では、十五歳になったら成人と認められて仕事に就くことができる。

 当然、冒険者ギルドに登録もできるわ。

 だからあたしは、十五歳になったら冒険者になって、お姉さまを甦らせる方法を探す旅に出るつもり。それまでは、旅で必要な知識や技術を学びまくる。

 目下のところ、一番の難題は……。


「ねえ、三流勇者。お願いがあるんだけど」

「なんだい?」

「アンタって、腐っても魔王を倒した勇者でしょ? だったら当然、強いのよね?」 

「まあ……ね」

「じゃあ、あたしに戦い方を教えて」


 あたしは弱い。

 同年代の子供魔術師に半殺しにされる程度じゃあ、旅に出たって一ヶ月ももたない。

 だからあたしは、憎んでいると言っても過言じゃないコイツの目を真っすぐ見てお願いした。


「君は、女将さんから色々と習ってるんじゃなかったのかい?」

「それじゃあ、足りない」


 タムマロが言った通り、あたしは女将さんから色々と仕込まれている。

 読み書きや算術。客の悦ばせ方や、自分が楽しむ方法。そして、女将さんが若い頃に培った戦闘術。

 だけど、女将さんの戦闘術は暗殺を前提としていたから、正面切っての戦闘ではあまり役には立たない。非力な女でもそれを上手く使えば屈強な戦士を倒せるけれど、まどろっこしすぎてあたしには合わなかった。

 

「わかった。だけど、僕よりも打ってつけの人がいる。武神、クォン・フェイフォン老師。聞いたことはないかい?」

「ぶ、ぶし? ク……クオ……誰?」

「僕の元パーティーメンバーさ。武を極めたとまで言われている武闘家で、魔王四天王の一人、フローリストを倒した人なんだけど……。本当に知らない?」

「知らない。凄い人なの?」

「そりゃあ、凄いさ。百歳を超えても元気で、衰えなんてまったく感じない。単純な殴り合いなら僕より強いよ。さらに言うと、あの人が創った武術は君にピッタリだ」

「あたしにピッタリ? どういうこと?」

「老師の武術は、魔力ありきなんだ。君が持て余している魔力の使い方を、老師なら教えられる」

「へぇ、あたしの魔力に、使い道なんてあったんだ」


 お姉さまの葬儀が終わって何日か経った頃、あたしのギフトは目を覚ました。

 あたしの身体のあちこちを斬り裂いて、外に出ようとした。

 もしもあの時、たまたまいたタムマロが魔力を封印してくれなかったら、あたしはギフトに全身を食い散らかされて死んでいたと思う。


「ホント、都合の良いときに都合良く出て来るわよね、アンタって」

「何の話だい?」

「独り言よ。それより。そのク、ク、ク……。お爺ちゃんを、あたしに紹介して」

「構わないけど、本当に良いのかい? 勧めておいて何だけど、老師はスパルタだよ? 最悪、死ぬかもしれないよ?」

「今のあたしには、それくらいがちょうど良いわ」


 と、言いはしたものの、打算はあった。

 タムマロの話を信じるのなら、そのお爺ちゃんは言葉通りの老人。しかも、百歳越え。修業は厳しいかもしれないけれど、ヨボヨボのお爺ちゃんが使える武術なら、女でしかも子供のあたしでも覚えれば扱えるはず。


「甘かった……」

 

 甘すぎた。 

 あたしの甘い考えは、お爺ちゃんと引き合わされるなり吹き飛んだ。

 お爺ちゃんの容姿を一言で言い表すならガチムキ。

 禿頭で白い髭を伸ばしていなかったら、老人だとわからないくらい筋骨隆々だった。

 そんなお爺ちゃんに、怪我が治ってから引き合わされるなりあたしはフルボッコにされた。

下手をしたら、子供魔術師に半殺しにされた時よりも酷いわ。


「老師。やりすぎでは?」

「手加減はしておる。その証拠に、生きておるではないか」


 さすがに、タムマロも初日からここまですると思っていなかったのか、あたしに治療魔術を施しながら苦言を呈した。

 当のあたしは、痛すぎてどこが痛いのかもわからないから、二人の会話に耳を傾けるのが精一杯。

 

「で、どうですか? 彼女は」

「動体視力も、柔軟性も反射神経も良し。素早さだけなら、現時点でワシ以上。故に、見込みはある。この娘が、お主が言った通りのギフトを持っておるのなら、制限された今の状態でも油断さえせねば、中級の冒険者程度なら鼻歌交じりで殴り殺せるくらいになるじゃろう。じゃが、それ止まりじゃな」

「それは、どういう……」

「言わずとも、お前ならわかるであろう? 現状で扱える魔力が少なすぎるからじゃよ。ワシが定めた等級で表すなら、このお嬢ちゃんが扱える魔力は五級相当。下っ端魔術師程度の量じゃ。それでは、上級以上の男には勝てん。上級以上を相手に楽勝し、オオヤシマまで旅をするなら、最低でも二級以上が望ましい」

「ですが老師、それではこの子の身体が……」

「耐えられぬのなら、耐えられる身体に鍛えればいい。簡単じゃろう?」

「そりゃあ、老師は体躯に恵まれているからそう言えるんでしょうが、この子は見ての通り、女の子ですよ?」

「それはお門違いじゃ。ワシが百年もの時を費やして形にした救世崩天法は、魔力が全て。身体の性能も、武術の才も二次三の次じゃ。ワシが言う『耐えられる身体』とは、己の魔力が体の隅々にまで融和した状態を指す。そうなれば、お前が言った通り、本当にこのお嬢ちゃんの魔力が魔王並みだとしても、一切のデメリット無しで扱える」


 あたしの魔力が魔王並み? それは初めて聞いた。しかもそれを、一切のデメリット無しで扱えるようになるかもしれないですって?

 あたしがどれだけ身体を鍛えようと、単純な筋力だけでもそこらの男にすら届かない。だけど、お爺ちゃんの言い様だとそうじゃない。

 お爺ちゃんが言う『鍛えた結果』は、筋力じゃない。魔力だ。

 お爺ちゃんに弟子入りすれば、タムマロに封印、制限されているこの魔力と、仲良くできるようになるかもしれない。

 と、怪我の痛みが和らぐ代わりに襲って来た睡魔でぼやけ始めた頭で考えていたら、二人の話題が変わっていた。


「この娘も、お前の探し物の一つじゃろう? あと、いくつだ?」

「ほんの一週間前に、ひょんな事から一つ見つかりましたので、あと二つです。一つは、在処に目星がついています。情報すら得られていないのは、『奪ったギフトを譲渡するギフト』ですね」

「そんなギフトが本当に存在するのか? 仮に存在するとして、お前はそれをどう使う」


 いや、使い物にならないでしょ、そんなギフト。だって、他人から奪ったギフトを他人に渡すだけのギフトなんでしょ? ギフトなんだから当然、奪ったギフトは自分で使えない的な欠陥があるはず。

 そんなギフトを手に入れたところで、タムマロには何の特もないじゃない。と、睡魔に負けて閉じようとしている瞼に必死に抗いなら聞いていると、タムマロは「それはまだ、秘密です」と、あたしを襲っていた睡魔が蜘蛛の子を散らすように霧散し、微睡んでいたあたしの意識をハッキリさせるような笑顔を浮かべながら言った。

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


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