3-2
ドーゴ温泉でクラーラが騒動を起こしたせいで、追い出される形でエヒメ県をあとにしたあたしたちは、当初の目的地とは別の場所に流されていた。
予定では、船でホンシュウのヤマグチ県へ渡るはずだったんだけど……。
「ここ、キュウシュウだよね?」
「ええ、キュウシュウのオオイタ県。ヒジマチと呼ばれている場所です」
「何で?」
「また、わたしたちが乗った船が難破したからです」
クラーラの日頃の行いが悪いせいか、あたしたちが乗る船は難破する宿命にあるみたい。
それはともかく、オオイタに流されちゃったのは、完全に予定外。本来ならヤマグチ県からシマネ県を経由して、オークニヌシと言う名の神様が一回死んで甦らせてもらったという神話が残っている、トットリ県のヨナゴへ向かう予定だったのに、これじゃあ寄り道どころか遠回りよ。
「ここからホンシュウに渡るには?」
「フクオカ県のモジと呼ばれている町から、海上を移動してヤマグチ県のシモノセキへ渡るのが一番近いですね」
「それ、船は出てるの?」
「おそらく出ているでしょうが、正直言いますと、船にはもう乗りたくありません。あなたは?」
「あたしも乗りたくないかなぁ」
オオヤシマには、『二度あることは三度ある』ということわざがあるらしい。
それをタムマロから教えられているから、余計にでも乗る気になれない。
でもそうなると、荷物とクラーラを抱えてあたしが海の上を走らなきゃいけなくなる。考えただけで、顔に出るほどゲンナリするわ。
「ですがフクオカへ行く前に、クマモト県へ行こうと思っています」
「クマモト? フクオカの逆じゃん! どうして……」
そんなところへ? と、続けようとしてやめたた。
あたしたちがマツヤマの娼館で得た情報の中に、クマモト県のアソと呼ばれている町に伝わる昔話があったのを思い出したからよ。
「たしか、人を猫にしちゃうんだったっけ?」
昔々、アソに住む男が南アソまで行くことになったんだけど、アソから南アソへ行くにはヒノオ峠を越えるのが近道だから、その道を通ることにした。
だけど、どういうことか道に迷っちゃって、そうこうしていたら日が暮れたから仕方なく、野宿でもと場所を捜したら、何故か森の中に家の灯りが見つけた。
まあ当然、行くわよね。
男が近寄ってみると、大きなお屋敷が姿を現した。こんな山の中に家が? と、不思議には思ったものの野宿するよりはと、宿をお願いすることにしたそうよ。
だけど、これが大間違い。
お屋敷の主は、その辺りでは見たこともないような美人だったんだけど、人を猫に変えてしまう力を持ってたのよ。
どうして猫にしようなんて思ったのかは謎だけど、クラーラはその力を応用すれば、性転換も可能なんじゃないかと考えたってわけ。
「ええ、それがもし魔術、魔法の類いなら、一度見れば使用も改造もわたしの思うがままです」
「クラーラのギフトってどんな魔法や魔術でも使えるけど、知らないモノは一度見なきゃいけないってのが面倒だよね」
「わたしに言わせれば見るだけで良いので、面倒だとは思いません。そもそも、本来なら魔術の習得はとても時間がかかるのですよ? 初級魔術でさえ、才能のある人が一年近く学んでようやく一つ覚えれるかどうかで……」
「あ~、はいはい。わかったわかった」
危うく、クラーラの授業が始まるところだった。
未練がましく「まだ話は終わっていません! ここから、わたしが如何に天才かをあなたでもわかるように説明を……!」なんて言いながら、未練がましそうにあたしを睨んでいる。
「ちょっと! どこへ行くのですか!」
「流されたせいでずぶ濡れなんだから、宿に決まってるでしょ? それとも、ここで野宿するつもり? あたしは嫌だよ? ずぶ濡れなだけなならまだしも、海水のせいでべたべたしてるんだから。クラーラだって嫌でしょ? それとも、平気なの?」
と、遠回しに諭したら、クラーラは「嫌に決まっているでしょう!」と、怒鳴ったけれど地図とコンパスを荷物から出したから、一応は納得してくれたみたい。
「で? どこで宿をとるのですか?」
「今は、ヒジマチにいるんだっけ?」
現在地を確認すると、クラーラは地図の一点を指して 「はい。ここです」と教えてくれた。でも不承不承って態度だから、機嫌はまだ悪いみたい。
「あ、ベップが近い。ちょうどいいじゃん」
「ベップが近いと、何か都合が良いのですか?」
「娼館街があるんだよ。そこで一泊して、食料とかも買い足そう」
「ふむ。方向的にも、都合が良いですね」
「でしょ? しかもベップは、温泉も有名なの。好きでしょ? 温泉。マツヤマで初体験して、すっかり気に入っちゃったもんね?」
「え、ええ、まあ……」
よし、クラーラの機嫌がなおってきた。
あたしたちの代わりに旅館の修理費を払ったタムマロが、名残惜しそうに温泉を見つめて動こうとしないクラーラに呆れていたあたしに有名な温泉地を自慢げに聴かせた時は「うざい」って思ったけれど、聞いといて正解だったわ。
「よし、じゃあ決定。クラーラの魔術で一儲けして、良さげな旅館に泊まろうよ」
そこで、マツヤマでのリベンジをしてやる。
たしかに、二度と無駄毛処理をしなくても良いようにはなった。でも、代わりに散々打たれたし、喧嘩の決着もついていない。
だから、徹底的に犯してあたしなしじゃ生きられない体にしてやる……。
「それは構いませんが、部屋は別にしますよ?」
「えー!? 何でさ!」
つもりだったのに、クラーラに出鼻をくじかれた。
それじゃあお風呂でしかリベンジできない。
いや、ドケチのクラーラが二部屋取ってまであたしを遠ざけようとしているくらいだから、一緒に入ってくれない可能性もある。
「だって同じ部屋だと、あなたの夜泣きがうるさくて眠れないんですもの」
「ん? 夜泣き?」
意味が分からない。あたしが夜泣き? そんなはずはない。
だってあたしは、部屋に押し入れやクローゼット的なモノがある宿では、絶対にそこで寝るようにしている。
どうしてかって? それは、夜泣きする余力もないほどスッキリして眠るため。
そこであたしは……。
「オ◯ニーしかしてないよ?」
「はぁ、そうです……はぁ!? あなた、あんな狭い場所でオナ……オナ……」
クラーラの反応が可愛い。
耳まで真っ赤にして、両手で自分の身体を抱きしめて後ずさるクラーラを見て少しイジメたくなったあたしは、腰に両手を当てて胸張り、ハッキリと「◯ナニー」と言った。
「ハッキリ言わないでください! え? じゃあ、何ですか? わたくしが夜泣きだと思っていたすすり泣きは……」
「あたしの喘ぎ声。ごめんね、聞こえてるとは思わなかった♪」
実はあたし、小さい頃にした経験のせいで、覗きが大好きなの。
それこそ隙間から覗くだけで、ただ寝ているだけのクラーラをオカズにできるくらい興奮する。
控え目に言って変態だとは自分でもおもうけど、当時のオカズがお姉さまの情事だったからしかたがないの。
だって絶世の美女だったお姉さまが毎晩、違う男に置かされるのよ? それを
「はぁ……。やはりこんな変態と、旅になんて出るんじゃありませんでした……」
「まあ、そう言わないでよ。あたしとクラーラの仲じゃない」
「親しい訳ではないですが?」
相変わらず素っ気ない。
と、思いはしたものの、クラーラが言った通りあたしたちは親しい訳じゃない。
あたしは友情に近いものを感じているけれど、あたしたちはお互いの知識やギフト、戦闘スタイルが上手い具合に相互関係だったから、コンビを組んだだけ。
旅に出る前は、今以上に喧嘩ばっかりしていた。初めて会った時なんて、あたしはクラーラに殺されかけた。
そう、あれは今から四年前。
あたしとクラーラが十二歳か十三歳になったばかりの頃。
ひょんな事から、あたしたちは出会った。
あたしがお姉さまと呼び、クラーラが聖女様と呼ぶあの人が息を引き取った路地裏に置かれた、あの像の前で。
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