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救世崩天法は対軍、対大型生物戦でこそ真価を発揮する。
お爺ちゃんが何を思ってそんな限定的な状況を想定したのかは謎だけど、ただ一つだけわかっていることがある。
お爺ちゃんは魔王の武術を参考にしたと、ワダツミのおっちゃんは言っていた。
つまり、魔王が起源。
魔王を名乗ったあたしが、魔王が元になった技を使って馬鹿デカい熊程度に負けるわけにはいかない。
「救世……崩天。巨神踏歩プラス、爆砕震地」
あたしは初手でサンケベツの足元の崖の表面を割り、さらに粉砕した。
サンケベツは体勢を崩し、体の半分ほど崖下に落ちたけど、その巨体からは考えられない跳躍をして左の崖にしがみ付き、これまたその巨体からは想像できないほど機敏な動きで崖上に戻って、しかも反撃してきた。
狙いはクラーラ。
詠唱中のクラーラを薙ぎ払おうと、右前脚を振りあげている。
「させるか! 瞬天進地からの波紋平傘! さらに! 根深体固!」
あたしはクラーラの前に移動し、サンケベツの攻撃をもろに受け止めつつ、足裏から放出した魔力を根を張るように地中に張って耐えた。
波紋平傘越しなのに、衝撃が骨の髄まで震わせた。
でも、耐えた。
追撃とばかりにサンケベツは左前脚を振りあげているけれど、クラーラの方が早い。
「地よ、風よ、氷よ。大槍と化して敵を貫きなさい。三重属性大槍魔術」
クラーラの魔術が、サンケベツの両前脚と胴体を貫いた。
いや、貫いたように見えた。
巨大な岩と風と氷の槍は、サンケベツの皮膚まで届かず、数メートル退けるだけに終わった。
「あらまあ、硬い毛ですね。まさか、あの魔術で傷一つ付けられないとは思いませんでした」
「呑気に観察してないで、さっさと次の詠唱を始めなよ。クラーラの魔術が効かないんじゃあ、あたしの攻撃も通るかどうかわかんないよ?」
「はいはい。わかりました。色々試してみますので、あなたはとりあえず殴り合ってください」
「言われなくたってそうする! 救世崩天、巨神体現!」
あたしは魔力をサンケベツと同じくらいの大きさまで膨らませて、殴り合いを始めた。
普段なら絶対にやらないけど、今は龍脈と接続されているから遠慮なくこれが使える。
「本当に硬いわね。この毛、何でできてるのかしら……って、なんかおかしいわね。魔力が……」
弾かれている?
あたしの玉の肌が濡れた時のように、魔力が毛の上を滑って流れているように感じる。
「もしかしてコイツ……。クラーラ! コイツの毛を調べて! 何か変!」
クラーラは小首を傾げたけど、すぐに何かしらの魔術を使って調べ始めた。
あたしはクラーラが邪魔されないようにサンケベツとがっぷり四つで組み合い、報告を待った。
でも、その必要はなかったかもしれない。
やっぱり、サンケベツに触れている部分の魔力の流れがおかしい。
あたしの意思を無視して、あらぬ方向へ流れている。
それを裏付けるように、クラーラが頭の中に直接報告してきた。
『サンケベツがタフな理由がわかりました。体毛の全てに魔力が流れ、あなたの魔力を受け流しています』
「やっぱりか。クラーラの魔術が効かなかったのもそのせい?」
『半分はそうです。体毛の魔力に魔術式が乱されたせいで、本来の効果を発揮できなかったと予想します』
「もう半分は?」
『単純に硬いのです。サンケベツの体毛は全て、対物理防御魔術並みの強度を有しているようです。いうなれば、天然の|対物理・対魔術用防御魔術ですね』
「じゃあ、どうする? あたしの攻撃もクラーラの魔術も通用しないんじゃあ、ジリ貧だよ?」
このままサンケベツの魔力が尽きるまで殴り合っても良いけれど、魔力は龍脈と繋がってるから保っても、あたしの体力が保たないかもしれない。
そんなあたしの心配を他所に、クラーラはあっけらかんと「簡単ですよ」と、言いながらあたしの横を駆け抜けた。
しかも、十体ほどの鎧騎士と一緒に。




