表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第十章 ウコチャヌプコロ! / いきなり何言ってんですか?
156/158

10−15

 牙城を攻める作戦は全部で三段階。

 第一段階。

 先ずは牙城を守るように配置されている三つの砦をギンガが率いる部隊以外の犬たち総勢600匹で攻める。

 第二段階。

 あたしたちを含めた主力は体力を温存したまま砦をスルーし、牙城付近に陣地を築いて砦を攻める犬たちの合流を待つ。

 ちなみに、牙城の背後にある切り立った崖からからも誰かに攻めさせた方が良いんじゃないかとオハナさんが提案したけれど、強風が吹き荒れる崖をよじ登れる者はいないと言う理由で却下された。

 そして最後は、一斉攻撃。

 

「ねえ、クラーラ。あの作戦ってまどろっこしくない?」

「そういうことは思っていても口に出さない方が良いですよ、クラリス」

「だってさぁ……」


 三つの砦も、牙城もクラーラが攻性神話級魔法を撃ち込めば一瞬でおちる。

 あたし以外は疲れないし犠牲もゼロにできる。

 それなのに、その方法が最も好きなクラーラが良しとしなかった。


「また何か悪だくみしてるの?」

「悪だくみ? わたしが? どこかの腹黒勇者と一緒にしないでください」

「じゃあ、どうして? 神話級魔法をぶっ放せるチャンスだよ? どうしてそうしないの?」

「牙城付近にヨシツネ様の財宝があるという話、もう忘れたのですか? それがどのような物でどれくらいの量があるのかわからないのに、神話級魔法を撃ち込めるわけがないじゃないですか」

「砦なら別にいいじゃん」

「財宝の在処は牙城『付近』です。砦も解釈次第では立派な『付近』。そこに神話級魔法を撃ちこめと?」

「あ~はいはい。わかった。わかりました」


 サンケベツの賞金があれば財宝は要らなくない?

 と、言ったところクラーラは納得しないだろうから、あたしは木々の合間から見え始めた牙城を歩きながら見上げた。

 目算でざっと40メートル。

 空中から見た感じだと、中央はすり鉢状になっていた。

 何かに例えるならクレーター、もしくは火山かしら。

 その時は、近くに生き物はいなかった。

 隠れていただけかもしれないけど、見える範囲には何もいなかった。


「なぁ~んか、嫌な予感がするんだよねぇ……」


 サンケベツは異常進化したちょっと賢い獣。

 そういう話のはず。

 でも、ギンガの例がある。

 ギンガは魔術越しとは言えあたしと対等に会話し、あたしよりも高度な戦闘技術を持っている。

 仮に、サンケベツもそうだったらどうなる?

 あたしたちは姿も隠さず行軍している。

 この場にいない、砦を攻める手はずになっている別動隊もにたようなもののはず。

 もしも、かつての討伐隊も同じように行軍していたとしたら……。


「クラーラ! 索敵! 出来るだけ広範囲、かつ精密に!」

「え? それはかまいませんが……」

「だったらさっさとやって! ハチロウくんはクラーラの補助! オハナさんは後ろを警戒! ヤナギちゃんはマタタビちゃんを守って! チカパシとユキホちゃんは左右を警戒! ギンガは仲間を散開させて!」


 あたしの嫌な予感は、最悪な形となって現実化した。

 足元が盛り上がり、下から体長6メートルほどのウェンカムイが飛びだしてあたしたちを後ろに跳ね飛ばした。

 それで終わりじゃない。

 あたしたちが着地した地点を取り囲むように雪が盛り上がって、中から同じくらいの大きさの熊が六頭も出て来た。

「クラーラ!」

「わかっています! 氷よ、槍の繭となりなさい。氷槍核魔術アイシクル・ヘッジホッグ!」


 クラーラが詠唱を終えると、あたしたちを包んだ氷のバリアから何十本も氷の棘が出て、ウェンカムイたちを串刺しにした。

 

「クソ! 一昨日同じ手を食らったばかりだって言うのに!」


 また同じ罠にハマった。

 前回と違うのは、クラーラはもちろんあたしやチカパシ、ユキホちゃんでも察知できなかったことね。


「クラリス、どうするのです?」

「どうするもこうするもない! あたしたちがこんな調子じゃあ、オウウ軍の別動隊も同じ目にあってるかもしれない。だったら、このままあたしが先陣を切って牙城まで突っ走る!」


 クラーラを初め、他のメンツも文句はなさそうだから、あたしは魔力を全開にして走った。

 途中にあった砦も、そこを守っていた熊たちもろとも地盤ごと殴り壊した。

 その際に周りを見たら、大量の犬がウェンカムイたちに襲われていた。

 たぶん、あれがオウウ軍の別動隊。

 あたしたちと同じように、ウェンカムイたちの待ち伏せにあったんだ。

 

「形勢は劣勢、だったら! 優勢になるようあたしが盤面をひっくり返す!」


 ひたすら走って、あたしは牙城の麓まで来た。

 間近で見ると本当に大きい。

 これを野生動物が造ったとはとても思えない。

 でも、たしかにいる。

 獣臭さの中に、確かな敵意と殺意が混じってる。

 つまり、この中にいる奴は敵。

 あたしは右拳にありったけの魔力を集中し、炎に換えて走って来た勢いのまま牙城の根元に叩きつけて「救世崩天、外典の弐。爆炎光拳(バーニング・フィスト)、最大出力」と呟き、次いで……。


「大っ……! 炎上ぉぉぉぉぉぉ!」


 と、叫びながら拳を振りあげて、周囲の雪原ごと牙城を焼き払った!

  

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ