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クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第十章 ウコチャヌプコロ! / いきなり何言ってんですか?
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10-8

 済し崩し的にアヌー族と思われる猿改めチカパシが同行するようになった日の晩。

 チカパシが手際よく掘った雪洞を魔術で補強し、さらに探知系魔術を半径千メートルほどまで広げて、夜を明かすことにしました。

 

「で? あなたはどうしてここにいたのですか? このあたりはサンケベツの縄張りですよね?」

「ちょっとクラーラ。まずはご飯にしようよ。せっかくチカパシが色々と食料を集めて来て料理までしてくれてるんだよ?」

「わたしたちはクマ肉だけでいいので、食べたいのならあなただけでどうぞ」

「どうして? 今、チカパシが作ってくれてるチタタプって料理も美味しそうだよ?」

「ただのミンチじゃないですか。しかも、リスの」


 リスを数匹捕まえて来たチカパシは手際よく皮を剥ぎ、内臓を出してから念仏のように「チタタプ、チタタプ」と呟きながら骨ごとナイフで切り潰しただけのものを料理と呼んでいいのでしょうか。

 仮に呼べたとしても、ああなる前の姿を知っていると食べる気になれません。

 それはわたしだけでなく、ハチロウちゃんとオハナも顔をしかめているので同じだと思います。


「あ、そうだ。マタタビちゃん。この人はマタタビちゃんに酷いことしないから、隠れなくても平気だよ?」

「で、でも、この人も人間ニャ」

「大丈夫だって。ね? チカパシ。マタタビちゃんに酷いことしないよね?」

「すねすね。ホンシュウじゃどうがおべねが、ホッカイドーでは虐待するほど憎まぃではいね」

「ほら、大丈夫でしょ?」

「いや、何て言ったか聞き取れなかったニャ。今のって何弁ニャ?」

「こぃは申す訳ね。わの住むコタンはホンシュウアヌーの一づ、ツガルアヌーの流れ汲んでらんだ。そのせいが、ツガル弁で喋るのが普通で……」

「だってさ」

「いやいや、ツガル弁で話してることくらいしかわからなかったニャ。って言うか、どうしてクラリスお姉さまはわかるんニャ?」

「マタタビちゃん。これが愛の力なんだよ!」


 そんなわけがあるか。

 と、言いたげな視線を、クラリスとチカパシ以外の全員が向けています。

 絶対に、クラリスも理解していません。

 だってチカパシの話に相槌は打つものの、翻訳しようとしませんから。


「とりあえず、伝心魔術(テレパシー)を全員に施しておきましょう。そうすれば言葉はわからずとも、意味はわかりますから」


 魔術を施し終わると、相変わらずチカパシの言葉は聞き取れませんが、意味は分かるようになりました。

 クラリスも「お? 凄い、これ」と言っていますので、やはり意味は理解できていなかったようです。


「ねえ、チカパシ。このミンチ……チタタプを肉団子にして煮ちゃ駄目かニャ?」

「このまま食った方絶対さ旨ぇんだが……。まあ、異国や本州のふとは食いづらぇが。いぞ。お嬢ぢゃんの好ぎにすてけ」

「ありがとニャ」


 チタタプを受け取ったマタタビは荷物から鍋を取り出して水を入れ、火にかけました。

 お湯が沸くまでの間にチタタプを素早く一口サイズの肉団子に変えて、さらにハチロウちゃんに「大根出してくれニャ。あと、白菜もあれば白菜も」と、指示を出し、クマ肉も捌き始めました。


「ほう、クマ肉と肉団子の鍋かい。味付けはどうするんだい? マタタビ嬢ちゃん」

「今の手持ちだと味噌か醤油のどっちかだニャ。お姉さま、どっちがいいニャ?」

「今日は味噌の気分かな」


 クラリスの答えを聞いたマタタビは「了解ニャ」と言って、荷物から味噌が入った壺を取り出しました。

 わたしたちからすれば見慣れた光景ですが、なぜかチカパシの顔は引きつっています。


「お、おい。それはオソマでねのが?」

「違うニャ。味噌ニャ。大豆を発酵させた調味料なんニャけど、ホッカイドーにはないのかニャ?」

「味噌? ああ、味噌が。最近、サッポロで流行ってらミソラーメンってやづに入れる調味料だな?」

「それで合ってるニャ。だからもう、オソマとか言っちゃダメニャ」


 ちなみにオソマとは、オオヤシマの共通語で言うとウンコです。

 さすがにそう言われると食欲が失せてしまいますが、わたしとクラリスも初めて味噌を見た時に似たような反応をしましたので、ここは責めないであげましょう。


「では、そろそろ情報交換と致しませんか?」


 マタタビが作った鍋を一頻り食べ終えたので提案したら、チカパシも首肯して同意してくれました。

 なので、話の取っ掛かりとして彼がどうしてこの森にいたのかから聞こうと思ったのですが……。


「ねえ! チカパシって何歳? 恋人はいるの?」

「と、歳? 今年十九になったばがりだで恋人はいねが……。それがどすた?」


 クラリスに割り込まれました。

 割り込まれるばかりか、その後もチカパシを質問攻めにしてわたしが口を挟む余地がありません。

 チカパシ自身のことを根掘り葉掘り聞き出そうとするクラリスの質問でしたが、わたしが知りたい情報もいくつか出てきました。

 成人と認められ、幼名であるチカパシを卒業するためにサンケベツを狙ってここへ来たこと。

 サンケベツが、ホッカイドーの冒険者たちから牙城の通称で呼ばれている巣にこもっていること。

 サンケベツを狙っているのはチカパシだけではなく、ホンシュウから渡って来た謎の一団もいること。

 チカパシ住むの村……アヌー語でコタンでしたか。の、長老が逃避行中のヨシツネと交流があり、財宝らしきものの話を聞かされたこと。

 その財宝の隠し場所が、わたしがそうだと目したラルマナイの滝ではなく、牙城付近であること。

 わたしたちが倒したウェンカムイは若い個体であり、人を食べていないため正確にはウェンカムイではないこと。

 情欲に支配されたクラリスが本能に促されるままにした質問の割に、わたしが知りたかったことの八割ほどは知ることが出来ました。



 

 

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