10ー1
劇場が劇場じゃない。
観客席はいつも通りなのに、舞台上の風景が違う。
建物内だとは思えないほど広大で幻想的な森林が広がり、その中央でシーラが、どこかで見たような民族衣装に身を包んで弓を構えている。
「いや、なんかホッカイドーと言えばアヌー族らしいのよ。だからその民族衣装を着てみたんだけど……。やっぱり私、何を着ても似合うわね」
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たしかに似合っているが、どうして矢の先を観客席に向けているのだろう。
まるで「似合わないとは言わせない」と、暗に言われているような気分になる。
「単に弓を引いてみたかっただけだから邪推しなさんな。って言うか、そういう脅しは自分に自信がない奴がすることだから」
たしかに実際に似合い、自信に満ちているシーラには必要がな……。
「あ、ごめん。手、放しちゃった」
シーラが引いていた弓につがえられていた矢が、観客席の一つに突き立った。
わざとじゃないとアピールしているつもりなのか、シーラは弓を背中に隠しながら「テヘペロ♪」と聞こえてきそうな顔をしている。
「さ、さぁ~て、それじゃあ今回のお話だけど、ホッカイドーへ魔法で飛んだは良いけどサッポロとはまったく違う僻地に飛んでしまったクラリス一行はアヌー族の男性と出会い、なし崩し的に一緒にヨシツネの財宝を探すことになります。その道中で色々とやらかすのですが……続きは本編で語ることにいたしましょう。タイトルはそうですね……『ウコチャヌプコロ! / いきなり何言ってんですか?』とでも、しておきましょう」
シーラがタイトルを言い終えると、いつものように劇場が暗転し始めた。




