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クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第九章 あ、やっと治った/これ、どういう状況ですか?
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9-32

 戦えばたぶん勝てる。

 でも怖い。

 手を出しちゃいけない。

 敵対しちゃいけない。

 目をあわせず、心臓の鼓動すら止めて身を隠したい。

 ワダツミのおっちゃんの時も、ベンケイおじさんやタケミカズチ、タケミナカタとスサノオを目の前にした時も感じなかった恐怖が、あたしの全身を震わせている。

 まるで魂に「畏れろ」と刻まれているかのように、七つの首を持つドラゴンを筆頭にして目の前に降り立った八十八匹のモンスターたちを怖がっている。


「汝らに問う。汝らが、魔王が我らを説き伏せる際に言った解放者か?」

「ええ、そうです、わたしの名はクラーラ。あなたを説き伏せた魔王の実子です」


 七つ首のドランゴン、クラーラはサタニエルとか言ってたっけ。の、問いかけに、クラーラは間髪入れずに、かつ自信満々に答えた。

 クラーラはコレを予想していた?

 だから、大丈夫だとわたしを諭した?

 いや、違う。絶対に違う。

 だって背中に感じるクラーラの気配が曖昧だもの。

 実際にアイツらをナリヒラから解放したのはシノさんだけど、きっとクラーラはサタニエルの質問を聞いてこれ幸いにと、自分を「解放者」ということにしたんだと思う。


「ふむ、確かに汝は、魔王の血に連なる者のようだ。ならば我らは、契約を果たさねばならぬ」

「契約? あなた方は母と、どのような契約を交わしたのですか?」

「汝らの命令を、一つだけ聞いてやる。何でもよいぞ? 自害しろと命じられれば我らは自らの首を掻き切ろう。世界を滅ぼせと命じられれば、七日ほどで滅ぼして見せよう」

「それはそれは、なんとも大盤振る舞いですね」


 クラーラは飽きれたような口調で言ったけれど、大盤振る舞いどころじゃない。

 どんな契約を結べば、そんな極端な命令でも従うと言い切れるのよ。


「では、命じます。あなた方の思い思いの場所で構いません。世界各地へ散り、世界を滅ぼさない程度に好きなように暴れてください」

「ちょっ! クラーラ!? いきなり何言ってんの!?」

「聞いた通りです。彼らにはわたしたちの配下として、世界の脅威となってもらいます。あなたも、そのつもりだったでしょう?」

「そうだけど、そこまで大規模にやる必要なんてないじゃん! オオヤシマだけでいいじゃん!」

「不十分です。やるなら徹底的にやるべきです。良いですか? あなたは知らないかもしれませんが、母亡き今の世界は100年前の情勢に逆戻りしつつあります。人間同士で争うだけでなく、魔族への迫害が再び始まっているのです」

「だから、その余裕をアイツらに奪い去ってもらおうって魂胆?」

「その通り。無益な争いを鎮めるために、彼らには殺戮を行っていただきます」


 違和感がある。

 あたしが知ってる以前の(・・・)クラーラなら、絶対にそんなことは言わないしやらない。

 

「あなたは曲りなりも、母と同じことを言ったのです。母と同じように、争いを鎮めるために自らが悪となる道を選んだのです。ならば、中途半端は許しません。徹底的に、悪を演じてもらいます」


 やっぱり、違和感がある。

 良い表現が見つからないけど、しいて言うなら熱量が違う。

 覚悟しきれていないあたしよりも、クラーラの方が冷めているように感じる。


「ねえ、クラーラ」

「なんですか? まさか今さら、怖気づいたとは言いませんよね?」

「言わないよ。言わないけど、逆に聞く。クラーラ、怖がってるでしょ」

「は? わたしが何を恐れていると……」

「クラーラがあたしに言ったことをだよ。クラーラこそ、覚悟はできてるの? 魔王をやってたお母さんのように、世界中の悪意を全部背負う覚悟ができてるの?」

「できていません」


 意外なことに即答。

 でも、さっきまでとは違う熱を背中に感じた。

 全天全周を見渡せるクラリス・クラーラの内部から見渡せるモンスターたちが戸惑っているようだから、どこかのタイミングで外に会話が漏れないようにしているのはわかる。

 きっときの数十秒、もしくは数分が、クラーラが稼いだ覚悟を決めるまでの時間。

 覚悟させてほしい時間。


「奇遇だね。実はあたしも、そこまでの覚悟なんてできてないよ。ぶっちゃけ、ノリで言っただけ。でもさ、クラーラがそうすべきなんだって判断したんなら、あたしは合わせるよ」

「それは、わたしに責任を丸投げするということですか?」

「違う、そうじゃない。あたしは、クラーラの判断を信じるって言ってるの。逆に責任は、全部あたしが負うよ」

「それはわたしを馬鹿にしています。わたしはあくまで、あなたの力を信じた上で提案しているのです。責任は、折版が妥当ではないですか?」

「そうだね。じゃあ、分け合おう」


 責任も、背負う恨みも憎しみも半分こ。

 せれが出来る時点で、力は及ばなくてもあたしたちは魔王よりも上だと思える。

 クラーラも同じように思ってくれたのかもしれない。

 モンスターたちに背を向け、大仰に天に両手を掲げたあたしと同じ台詞を、クラーラは叫んでくれた。


「「さあ、恐れ戦け人間ども。今、この時より、この世界は我らの手中なり。汝らの命運は、我らの掌中なり。これに逆らうならば挑んで来い。抗うならば歯向かうがいい。それが出来ぬのならば、大人しく破滅を受け入れろ」」


 あたしたちの宣言を合図に、モンスター群を率いていたサタニエルは「御意のままに。娯楽のために産み出された我ら八十八匹の獣、魔王様のお望み通り、この世を害する悪を演じましょう」と言って、飛び立った。






 

 




 

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