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クラリスは、わたしにとって換えの効かない存在です。いなくなられると、非常に困ります。ですが、それはクラリスの魔力であって、クラリス本人ではありません。
もし仮に魔力だけが手に入るのなら、クラリス自体はいなくなっても構いません。
なので、容赦なく燃やしました。躊躇なく焼きました。
「酷くない? ねえ、酷くない!? あのオッサンだけなら良いよ? でもさ、あたしごと焼くことないじゃん! あたしじゃなかったら死んでたよ!?」
「生きてるんだから良いじゃないですか。それよりそちらの殿方は、敵で良いのですよね?」
「知らないよ! それをハッキリさせる前に、クラーラが燃やしたんじゃん!」
わたしが死なない程度に加減したのと、クラリスの防御が間に合ったのが合わさって、二人は少し焦げた程度で済みました。
ですが、油断はしていません。謂れのない復讐を警戒してクラリスはもちろん、敵と思われるオッサンも、『岩石拘束魔術』で簀巻きにして転がしています。
「さて、では、尋問を始めます。そちらの御仁。あなたは、わたしたちの敵ですか? 敵ですよね? でなければ、攻撃する理由がありません」
問い詰めても、オッサンは私を睨むばかりで答えようとはしません。
では、さらに問い詰めて、答えざるを得ないようにしてあげましょう。
「あなたは、クラリスが川に入ったことでエンコウ、もしくは、シバテンなる人物とわたしたちを誤認しました。いえ、固有名ではなく、もしかしたら種族名かもしれません。それらは推察するに、オオヤシマで広く信じられているカッパに類する種族だと思われます。ここまでは、合っていますか?」
再度問いかけても、オッサンは怪訝な顔をしながらわたしを見て、時折、クラリスをチラチラと覗き見ています。
ですが、追及はやめません。
「さらに、ギュウキという単語……いえ、これは固有名でしょう。あなたは、エンコウとシバテンを率いているギュウキと敵対しているのではないですか? ならば、ここであなたを始末した方が、わたしたちにとっては都合が良い。ギュウキとやらがどのような人物なのか知りませんが、敵の敵は味方ですから、あなたを始末しても何の問題もありません。もっとも、あなたが非を認め、素直に謝るのなら、見逃してあげます」
軽く脅しても、やはり口を開きません。会話が成立しないのならば、これ以上の時間は無意味。とっとと始末して野宿の準備を再開するべきですね。
そう判断したわたしは、切り刻みつつ遠くへ吹き飛ばすために土と風の混成魔術、『岩嵐魔術』の詠唱を始めようとしたのですが……。
「ねえ、クラーラ。このオッサン、クラーラが言ってることが理解できてないよ」
「は? あれだけ丁寧に説明したのにですか?」
クラリスがお馬鹿なことを言って、待ったをかけました。
「いや、丁寧でもきっと、わからないよ」
「どうしてですか? その御仁は、それほどの馬鹿だと?」
「いやいや、そうじゃなくて、言葉が通じてないんだよ。だってクラーラ、今もそうだけど、ブリタニカ語で話してたじゃん」
「あ、ああ、そういうことですか」
わたしとしたことが、うっかりしていました。オオヤシマ人は基本的に、オオヤシマ語しか話せないのでしたね。
ですが、それはそれで困ったことになりました。
わたしはオオヤシマに来て日が浅いですから、オオヤシマ語を完全に理解できていません。何とか聞き取れるようになった程度で、まともに話せる自信はないのです。
かと言って、「もう一度言ってくれたら、翻訳したげるよ?」と、言っているクラリスに頼るのは、わたしの沽券にかかわります。
「ユーは、クラリスがリバーに入ったことでエンコウ、オア、シバテンなるキャラクターと誤認シマーシタ。いえ、ネイティブネームではなく、もしかしたらレースネームかもシレマセン。ゾーズオーバーゼアはゲスするに……」
「わかりづらい! それじゃあ余計にわかりづらいよ!」
「バ、バット、 今のミーにはこれがオールアイキャンドゥ ……」
「だから、翻訳してあげるって言ったじゃん! ほら、オッサンの顔を見てみなよ! 何言ってんだ? こいつ。みたいな顔してるよ!」
クラリスの言った通り、オッサンはそんな顔をしています。
ですがやはり、クラリスに頼るのは屈辱です。屈辱ですが、馬鹿でも見るような目で見続けられるのも、これまた屈辱。
悩んだ末に、わたしは二人の拘束を解いて、よりマシな方を選択しました。
「と、言う訳で、謝ったら見逃してあげるってさ」
「ふん! 紛らわしいことをしたおんしらが悪いのじゃないか。ワシは謝らんぞ。いや、むしろ感謝しぃや。あのまま川に入っちょったら、おんしらは奴らの餌食になっちょったかもしれんのやきな」
日がとっぷりと暮れ、焚火を挟んでわたしとクラリスの対面に腰を下ろしたオッサンは、クラリスが獲った大量の魚を手際よく捌きつつ、木の枝を削って作った串に通して焼きながらも、口をとがらせてわたしたちから顔ごと視線をそらしました。
方言があるので細部までは理解しきれませんが、なんとか聞き取れていますので、このまま耳を澄ませるだけにしておきましょう。
「素直じゃないなぁ。って、言うかさ。どうしてあたしらを、エンコウだと思ったの? 川に入ってたからって理由だけ?」
「エンコウは、女に化けることがあるきな」
「あ、それで誤解したんだ。でもさ、あたしらって、どう見たってこの国の人間じゃないでしょ? ただの冒険者だと思わなかったの?」
「冒険者なら、なおさらこのあたりにはおらん」
「どうして?」
「ヒャクキュウジュウゴゴウセンが通る山間部は、ギュウキの縄張りやきだ。冒険者組合が立ち入りを禁止しちゅぅあの道を通れるがは、ホンシュウにしかおらん上級の冒険者パーティーだけや」
「え? あの道、立ち入り禁止だったの? 初耳なんだけど」
なるほど、だからタムマロ様は、ゴジュウゴゴウセンを勧めたのですね。
オッサンが言った冒険者組合とは、西欧で言うところの冒険者ギルド。等級は同じ基準で設定されているはずですから、上級とはAランク、もしくはBランクのはずです。
ちなみに、わたしとクラリスも冒険者ギルドには登録していますが、しているだけで依頼をこなしたことは一度もありませんので、最も低いFランクです。
「タムマロのボケナス。そうならそうと、教えてくれればいいのに」
「タムマロ? 誰だ?」
「知らない? 素人童貞で三流だけど、魔王を倒した勇者。フルネームは、サカノーエ・タムマロ」
「サカノウエ・タムラマルなら知っちゅう」
「ああ、たぶんそれ。同じ人。ブリタニカじゃあ、タムマロで通ってるのよ」
「ほう? つまりおんしらは、奴の縁者いうことか。そりゃ、すまんことをした。タムラマルの縁者やったら、礼を尽くすべきであった」
このオッサンにとって、タムマロ様は恩人、もしくはそれに類する立場のようですね。
魚をさばく手を止め、姿勢を正してわたしたちに頭を下げました。
「縁者とかやめてよ。あたしはアイツのことが大っ嫌いなんだから。それより、その様子だと、知ってると言うよりは知り合いみたいね」
「統一戦争の時に、肩を並べて戦うた。ワシもあの頃は二十代の若造やったが、奴はさらに幼うてな。まだ、十に満たん子供やった。それが今では魔王を倒した勇者……か。ワシも、鼻が高いわい」
「統一戦争? ああ、そういえばオオヤシマって、大昔は国がいくつもあったんだっけ」
頭を上げたオッサンは懐かしそうに目を細めていますが、大昔と言うほどではありません。わたしたちが生まれる前ではありますが、精々、二十年ほど前です。
タムマロ様の歳はたしか、二十代後半ですから、オッサンの証言とも合致します。
「タムマロって、子供の頃から戦ってたんだ……」
オッサンの話の何が影響を与えたのかわかりませんが、クラリスにしては珍しく、食べる手を止めてうつ向いてしまいました。
十何本も焚火に串と骨を放り込んでいましたから、単純にお腹がいっぱいになったのでしょうか。
「ああ、子供ながらに、見事な戦いっぷりやった。結果として追放の憂き目に遇うたけんど、奴の雄姿は、今でも語り継がれちゅう」
「追放? アイツ、追放されたの?」
「なんや、知らざったがか? 奴は本来なら、オオヤシマを統一した側の人間。いわゆる、転生者や。もっとも、敗けた五大国側に与して追放された転生者は、奴だけじゃないがな」
それは、初めて聞きました。
転生者と呼ばれる人たちが存在し、オオヤシマを支配していることは知っていましたが、タムマロ様がその一人で、しかもオオヤシマ統一戦争が、転生者たちと旧支配者層との戦争だったとは知りませんでした。
「おお、そうやった。そいいうたら、自己紹介がまだやったな。ワシはサコン。チカマツ・サコンと申す」
「あ、そう言えばそうね。あたしはクラリス。クラリス・コーラパール。隣でムスッとしてるのはクラーラ。クラーラ・メリンよ。よろしくね」
勝手に、よろしくしないでください。
クラリスのおかげで自己紹介をする手間は省けましたが、別の手間が現在進行形で増え続けています。二人は気づいていないようですが、各種探知系魔術を使い続けているわたしには、わたしたちに牙を剝いている者たちが見えています。わたしたちを襲おうとしている者たちの吐息が、聴こえています。
「クラリス。囲まれています。今度こそ、敵でしょう」
「敵? エンコウとか言う奴?」
「それはわかりませんが、数で言うと五十。全身を毛でおおわれた、子供のような体型の固体が四十九。少し大型の固体が一。外見を何かに例えるなら猿。もしくは、毛が生えたゴブリンと、ホブゴブリンと言った感じです。こん棒や石槍、弓矢などで武装しています」
わたしの報告を、クラリスは通訳してミスター・サカマツに伝えました。
ですが、囲まれているのにクラリスは立ちもせず、両手に持っていた焼き魚を平らげてから両手を合わせ、「ごちそう様でした」と、呑気に言っています。魚をさばく手を止めて立ち、身の丈よりも長い弓を構えたミスター・サカマツを少しは見習ってほしいものです。
「サコンのおっちゃん。クラーラの護衛、任せても良い?」
「構わんが、おんしの相棒やろう? ワシに任せてもえいのか?」
「食後の運動をしたくってさ。それに、ゴブリン程度に矢を使うのはもったいないでしょ?」
正確にはゴブリンではないのですが、まあ、見た限りでは似たようなモノ。もしかしたら、オオヤシマ固有の亜種なのかもしれません。
ゴブリンは雑魚の代名詞ですが、群れになればそれなりの脅威。舐めてかかった駆け出し冒険者のパーティーが返り討ちになった例は、枚挙にいとまがありません。
まあ、それでも、ホブゴブリンと合わせても五十程度なら、クラリスは本当に食後の運動程度の労力で全滅させるでしょう。
「クラリス。援護は必要ですか?」
「いらない。アイツらの親玉のギュウキって奴が出てこないとも限らないから、クラーラはそれに備えてて」
「そうですか。では、そうします」
命令されているようで気に食いませんが、エンコウ、シバテンはともかく、ギュウキの力が未知数な今はそれが最善でしょう。
「魔力……解放! ゴールデン・クラリス!」
焚火と月明りくらいしか光源がなかった河原を、わたしとミスター・チカマツから50メートルほどの距離をとったクラリスは、太陽と見紛うばかりに輝く黄金の魔力で照らしました。
その膨大な魔力を見て、ミスター・チカマツは一瞬だけ目を見開いて驚いていましたが、すぐに平静を取り戻して弓に矢をつがえました。
「いっくぞぉぉぉぉ!」
光源に誘われて……と、言うよりは魔力そのものに魅せられたかのように崖上や木々の間から飛び出して来た四十匹ほどのシバテンが、武器を掲げてクラリスに殺到しました。
言葉通りの四方八方。ですが、クラリスが修めている闘法の性質を考えると、完全に悪手です。
「救世崩天! 蒼天滑空! からの! 墜星爆拳!」
食後の運動と言っていた割に、使用魔力と破壊の規模が大きすぎませんか?
足の裏から魔力を放出して30メートルほど上昇するなり、それまでクラリスがいた場所へと群がったシバテンたちに向けて突き出した右拳から放った魔力の塊は、上級魔術数発分。その前の大ジャンプで使用した魔力でさえ、中級魔術一発分を使用していました。
「なんとも大雑把な戦い方だが、理にかなっちゅう」
わたしに言わせれば魔力の無駄使いですが、ミスター・チカマツは感心したようです。
もっとも、メテオフォールで四散したシバテンたちの残骸や土砂をわたしが『対物理領域構築魔術』で防いでいたからこそ、素直に感心できたのでしょうが。
「さて、お次は、っと」
直径20メートルほどのクレーターの中心に着地したクラリスは、ドーロの上で弓矢を構えたシバテン十匹を従えて私たちを見下ろしているエンコウを見上げながら、両拳を合わせて指をボキボキッ! と鳴らしました。
予想通り、シバテンの力はゴブリンと同程度。ならばエンコウも、ホブゴブリン相当でほぼ間違いないでしょう。女性に化けることがあるそうですが、それはあくまでも、男性を誘う、もしくは油断させるための擬態だと予想できます。
「変ばい。あんクラリスんお嬢ちゃんが倒したシバテンどもは、エンコウに統率しゃれとお。と、言うことは、あんエンコウはギュウキん配下。それなんに、奴ん姿が見えん」
クラリスが「さぁって、どう攻めようかな」と、言いながら楽しそうにしているのとは裏腹にミスター・チカマツの表情は険しく、警戒を強めているように見えます。
ギュウキについて聞いてみたいですが、わたしのオオヤシマ語はクラリスにすら伝わらないほど下手。下手に質問をすれば、わたしを護衛してくれている彼に隙を生じさせてしまうかもしれません。
「ならば、仕方がないですね」
わたしは、各種探知魔術の索敵範囲をそれまでの十倍、半径500メートルまで広げました。もちろん、先の反省をふまえて、上空にも。
すると、さきほどクラリスが跳んだ高度よりもさらに上に、反応がありました。
「ミスター・チカマツ。ギュウキとは、オーガのボディにビーフ……ノー。カウのフェイスで、バグのウィングでウィルイットフライ?」
「す、すまん。ギュウキについて聞いとーとはわかるばってん、何ば言いよーかわからん」
思わず聞いてしまいましたが、やはり伝わりませんでした。
ならば。と、わたしは上空を指さしました。ミスター・チカマツはいぶかしみながらもわたしの指先を視線で追い、それを目視するなり……。
「そこしゃぃおったか! ギュウキ!」
顔を憤怒に彩って叫い、矢を放ちました。
ですが、ギュウキのいる場所が高すぎるせいで矢は届かず、むなしく弧を描いて落ちました。
「見た目は、ギーシャ連邦で猛威を振るった牛頭族。それに、昆虫の羽が生えた感じですね」
俗に、魔族と総称される亜人種。その内の一種に似てはいますが、羽がそれを否定しています。あんな種族は、わたしが知る限りいません。エンコウやシバテンのように、亜種なのでしょうか。
いいえ、ありえません。
あのような、生物の系統を完全に無視したような進化は起こりません。と、言うことは、背中の羽は魔道具。もしくは、それに類するものだと予想できます。
で、あるならば、あれは欲しいですね。
飛行を可能にする魔術も魔道具も、今だに実現されていません。魔法ですら、それを可能とするのは一つだけ。あれを入手し、解析するだけで、その研究が一気に進みます。進みますが、特に興味がある分野でもないので、壊れていなかったら回収する。程度に考えておきましょう。
「風よ、斬り裂きなさい。『風刃魔術』」
わたしはウィンド・カッターをギュウキに向けて五発放ち、気づいたギュウキが回避しようとした瞬間に術式を解いて、真空状態だった刃を補填するようになだれ込む空気によって気流を乱し、飛行を妨害しました。
「クラリス! 雑魚はわたしが! あなたは……!」
「アイツを、だね!」
私の意図を瞬時に理解したクラリスは先ほどよりも高く跳び、手の平から放出する魔力で軌道を調整して、まともに飛べなくなったギュウキの左頬へ右拳を撃ち込んで地面へと叩きつけました。
「喰らえ、飲み込め、噛み砕け。『獄門顕現魔術』」
それを横目で見ながらわたしは、上級魔術の中で最も消費魔力が少ないですが、最も巨大な質量攻撃が行えるアース・クエイクでヒャクキュウジュウゴゴウセンを崖ごと裂き、エンコウに命じられてギュウキを援護しようとしていたシバテンの弓兵隊がエンコウごと大地の裂け目に飲み込まれるのを確認してから、亀裂を閉じました。
「クラリス。仕留めましたか?」
「いいや、まだ。アイツ、思ってたよりも硬かった」
「ふむ、それは興味深いですね」
落下して土煙を上げているギュウキは、わたしとミスター・チカマツの少し前方に着地したクラリスに、「硬い」と言わせるほどの防御力。ワダツミほどではないでしょうが、それだけでも脅威。タムマロ様のパーティーメンバーが死闘の果てに打ち倒した魔王四天王ほどではないでしょうが、魔族でもかなり上位の存在だと予想できます。
「サコンのおっちゃん。アイツ、どんな奴なの?」
「奴は十八年前に侵攻してきた魔王直下の魔獣軍、そのシコク方面軍の指揮官やった。奴の拳は大木に大穴を開け、その蹴りは大地を割る。それに加えて技量はワシ並。さらに、性格は残忍で狂暴。食料は人間や」
「アイツ、人を食べるの? 美味しいの?」
気になるとこ、そこですか? と、ツッコみたいのはわたしだけではなく、クラリスの背中に呆れた視線を向けているミスター・チカマツも同じようです。
その視線に気づいたのか、クラリスは「うぉっほん!」と、嘘くさい咳払いを一つして、話題を変えました。
「もしかしてサコンのおっちゃん、親しい人をアイツに食われたの?」
「ちっくと、違う。ワシも加わったチョウソカベ・モトチカ殿率いるシコク防衛軍に深手を負わされ、モノベ村まで落ちのびた奴は、そこに住んじょった老婆に助けられた。その後、その村に住む者には手を出さんと約束をして、姿を消した」
「そこまでなら良い話に聞こえるんだけど、おっちゃんが付け狙うくらいだから、違うんだよね?」
「ああ、違う。たしかに、奴はモノベ村の者たちには手を出さざった。だが、他の村は違う。奴はモノベ村以外に住む者たちをエンコウ、シバテンどもを率いて虐殺し、食うた。ワシらが奴を取り逃がしたばっかりに、多うの無辜の民が食い殺されたがじゃ」
なるほど。つまりは、罪滅ぼし。ミスター・チカマツがギュウキを狙う理由は、正確には敵討ちではなく懺悔、いえ、後始末に近い。ですが腑に落ちないことが、一点あります。
「どうして、ユーだけがレスポンシブル?」
思わず下手なオオヤシマ語で聞いてしまいましたが、思いつめたような表情を見る限り、ミスター・チカマツは聞き取れないまでも理解はしてくれたようです。
「金にならんきさ。チョウソカベ殿直属の配下たちならともかく、他はワシのような浪人……傭兵の集まりやったきな。十年以上、奴を追い続ける酔狂者は、ワシばあのものや」
その結果が、クラリスですら息切れを起こすほどのヒャクキュウジュウゴゴウセンの悪路化と、立ち入り禁止処置。ですか。
杜撰ですね。
ギルドに討伐依頼を出しても誰も受けないか、それとも討伐を諦めているのかはわかりませんが、半ばギュウキの領土と化しているヒャクキュウジュウゴゴウセン沿いを事実上放棄していることに変りありません。
もしもミスター・チカマツが十年以上戦い続けていなかったら、ギュウキによる被害はトクシマ県やコウチ県……いえ、シコク全土に及んでいたかもしれません。
「奇特と言うよりは、キチガイですね。お金にならず、命の危険もあるのに戦い続けるなど、理解できません。他の人たちもきっと、そうだったのでしょう」
わたしはブリタニカ語で呟きましたが、ミスター・チカマツは、わたしが何と言ったのか表情から察したようです。
何故なら寂しそうに、かつ呆れているかのような顔をして、「ほんじゃあきに、一人なんちや」と、誰にともなく呟きましたから。
読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
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