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クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第九章 あ、やっと治った/これ、どういう状況ですか?
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9-24

 あたしが知る限り、ヤナギちゃんとタマズサの人生は決して恵まれたものじゃない。

 物心がついて少し経った頃に両親を亡くし、それからはぼろ布とお互いの体温で寒さをしのぎ、残飯を漁って食い繋いでいた二人にとって、髪と瞳の色に目をつけた女衒に拾われて遊郭に売り飛ばされたのは、少し先まで命が保証されるという意味では幸運だった。

 もっとも、売られた先が悪かったせいでヤナギちゃんは命を落とし、タマズサははそこからさらに売られて、転生者に改造されてしまった。

 二人に比べれば、あたしは幸せな方ね。

 前半の境遇は似てるけど、その後が全然違う。


「よし、じゃあそういうことで、この糸をほどいて」

「何が『そういうこと』なんだい? あたいはまだ……」

「まだ、何? これ以上グダグダ言うようなら、あなたも洗脳されていると判断してぶん殴って正気に戻すけど?」

「わかった。わかりました。糸をほどくよ」


 あたしの満面の笑みでの懇願にタマズサは快く応えて、は糸をほどいてくれた。

 その行為にナリヒラは「おまっ……! 何してんだよ! 拾ってやった恩を忘れたのか!」と、言って憤慨している。


「拾われたのは確かだけど、アンタは約束を果たさなかったじゃないか」

「約束? 約束も何も、そこの青髪がお前の妹なんだろ?」

「ええ、認めるつもりはなかったけど、その子はあたいの妹だ。だけど元々、アンタが探してくれる約束だっただろう? その約束があったから、あたいはアンタの趣味を兼ねた仕事を手伝ったし、タマズサも演じて、フセ姫を攫って来たんだが?」

「う、うるせぇ! どうしてこのナリヒラ様が、お前みたいな蜘蛛人間との約束を守らねぇといけねぇんだよ! っつうか、妹の方から来たんだからもう良いじゃねぇか! だから助けろ! 今すぐ、このド貧乳のなんちゃってチャイナ娘をぶっ殺せよ!」


 ナリヒラの開き直りっぷりを見て、あたしの怒りが再燃した。

 フセ姫ってワードを聞いてシノさんが「フセ姫様がここに!?」と、反応したけれど、それを無視して、あたしは再びナリヒラを睨んだ。


「良くないね。それは非常に良くない。労働には、それに応じた対価があって然るべき。それなのにアンタは、それを払わなかったわけだ」

「だ、だから何だよ。だいたい、ソイツは人間じゃない。改造したオレの仲間でさえ些事を投げた失敗作だ。それなのに、オレは拾って使ってやったんだ。対価としちゃあ十分過ぎるだろ!」

「いいえ、不十分よ。なぜなら、本来支払われる対価である約束が果たされなかったんだから」


 自分で言うのも何だけど、あたしは対価と契約に対してシビア。

 女将さんの教育の弊害ではあるけれど、それが果たされなかったと聞けば、赤の他人の事情にも土足で踏み込む。


「だから何だってんだよ! オレは転生するまでイジメられてたんだ! 力がある奴らに踏みつけられる方だったんだ!」

「だから何よ」

「わっかんねっぇのか猿! そんなオレが力を手に入れたんだから、弱者を踏みつけるのは当然だろ! 強者が弱者を虐げるのは当然の権利だ!」

「あっそう。じゃあ、アンタは弱肉強食を肯定するのね。だったら、アンタよりも強いあたしにはアンタを殺す権利がある。アンタに虐げられた女の子たちに変わって、アンタに復讐するわ」

「何でそうなるんだよ! いいか? オレはいじめられてたんだ! 被害者なんだぞ!?」

「被害者? 笑わせるな。アンタ、さっき自分で『強者が弱者を虐げるのは権利だ』って言ったじゃない。だったら、弱かったアンタがイジメられてたのも当然。摂理だと言っても良いわ」

「そんな訳あるか! お前はあれか? イジメを受けるのはイジメられる方にも悪いところがあるからとか言う似非偽善者かよ!」

「あら、原因はあるんじゃない? だってアンタ、中身は転生前と変わっていないんでしょ? なら、原因はアンタのその腐った性根。アンタをイジメてた奴は、性根が腐りきってて集団にとっては害悪でしかないアンタを、排斥しようとしてたのよ」

「違う! オレは何もしてないのに、アイツらがオレを一方的にイジメたんだ! だから、オレは悪くない! やられたことをやり返して、何が悪いんだよ!」


 ダメだこりゃ。救いようがないクズだ。

 と、情けなく涙と鼻水を垂れ流し、失禁までしているナリヒラを見ながら、あたしは内心嘆息した。

 これ以上の問答は無意味だから、さっさとウジがわいてそうなこの頭を潰してトンズラしようと考えたけれど……。


「動くな! そのお方を解放して投降しろ!」

「誰よ、アンタら」


 灰色の迷彩服を来た集団が、フロアに突入してきた。ハチロウくんが「し、下にもいっぱい……」と、言っているから、塔自体が包囲されていると考えた方が良さそうね。


「ハッッハッハッハ! 形勢逆転だなクソアマ! オレを助けに来た自衛軍に殺されたくなけりゃあ、さっさとこの手を離せ!」

「形勢逆転? おかしなことを言うのね」


 あたしにとって、自衛軍の装備は初めて見る物ばかりだから性能などは検討もつかない。

 動きを見る限り、よく訓練されていて連携も取れていることもわかる。

 それでも、脅威だとは思えないけれど、あたしだけならゴリ押しで突破できてもマタタビちゃんたちがいる現状でそれは悪手。

 守りながら包囲を突破できる保証はない。 


「アンタらこそ動くな。少しでも動けば、コイツの頭をザクロにする」


 だからあたしは、ナリヒラを人質にした。

 こんなときにクラーラがまともならな。とも思ったけど、故障中のクラーラを当てにしてもしょうがない……って、あら?

 ハチロウくんの木偶人形に抱えられたクラーラが……。


「ふぁ~……ぁ。ああ、良く寝ました」

「あ、やっと治った」


 タイミングを見計らっていたように、クラーラが目を覚ました。

 だけどクラーラは状況が理解できてないようで、今も半開きの瞳を頭ごとキョロキョロさせて……。


「これ、どういう状況ですか?」


 と、呑気にあたしに質問した。


 

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