9-23
わたしがクラリスと一緒にオオヤシマまで来て探しているモノは、二つあります。
一つは遺体さえ残っていない聖女様を蘇らせる方法。
これに関しては、まだまだ煮詰める必要はありますが理論はほぼ完成しています。
もう一つは性転換の方法。
わたしの理論が完成すれば男性として聖女様を蘇らせれるので実はもう必要なかったりするのですが、男性になって聖女様を犯すことを目的にしているクラリスは納得しません。
なので母の夢で性転換のヒントになるようなエピソードがないかと少し期待していたのですが、今のところはありません。
代わりに、予想外のエピソードはありました。
それが、今回のエピソード。
どこかの荒野でどこかの国の兵士と思われる人たち、ざっと数えて百人ほどを木鎖拘束魔術で簀巻きにし、さらに下半身だけ丸裸にしてイチモツを晒させて目隠しと耳栓をし、一列に並べて魔術の実験台にしています。
「魔王様。本当に、あの魔術をお試しになるのですか?」
「あら、エイトゥスは反対?」
「反対と言うか、同情と言いますか……。魔王様が初めて創作された魔術ではありますが、あんな非人道的な魔術を使うのは賛成できかねます」
「非人道的は言い過ぎじゃない? この魔術が理論通りの効果を出せば、全女性の夢が叶うと言っても過言じゃないのよ?」
「男性器の大きさと形を変えるのが全女性の夢? すみません。ちょっと何言ってるかわかりません」
「それはあなたが男だからわかんないのよ。良い? 男はデカけりゃデカいほど女が悦ぶと思ってるんでしょうけど、まったくそんなことないから。人によって適したサイズと形があるの。それを叶えるのが今回実験する魔術。その名も、男性器改造魔術よ」
「ドヤ顔してふんぞり返っているところ申し訳ありませんが、一回で上級魔術一発分の魔力を要するそれを何の気兼ねもなく連発できるのは魔王様くらいですよ? その時点で欠陥魔術ですよ? 実用性が皆無です」
「はいはい。そこはその内良い感じに改善するから、まずは効果を確かめましょ。あなたのが大きいせいで痛いって嘆いてるあなたの今の彼女の悩みも、これで解決できるかもしれないし」
「ちょ、ちょっと待ってください。その話をもう少し詳しく。彼女はいつも満足してると……」
「あなたを喜ばせるための演技でしょうね。実際は、一度も気持ちよかったことなんてないかもよ」
「そ、そんな馬鹿な!」
虫でも払うかのように左手をひらひらと振ってエイトゥスを追い払いながら、母は右手を兵士たちへ向けました。
母の右手から空中へ滲むように描かれ始めた魔術陣が広がりきると、兵士たちの下半身が変化し始めました。
それは良いのですが、この魔術陣には見覚えがあります。
クラリスと出会う前、魔術院の禁書庫で発見したどうしようもないクソ魔術。
その効果は母が期待しているものとは程遠く、無駄としか思えない効果しかない上に無駄に複雑で高度で洗練されているのに無駄に消費魔力が多い無駄の塊。
実際に兵士たちの下半身は知っている通りの結果になったのですが、その反応は予想外でした。
「あれ? どうしてこうなったのかしら」
「どうもこうも、術式のどこかに致命的な欠陥があるとしか思えません」
「ええ? どこ? あたしの理論通りなら、好きなように大きさと形を変えられるはずなのに……」
「これは……。魔王様が色んな魔術や魔法の術式をごちゃ混ぜにしているせいで無駄に複雑化していて、僕でも解析に時間がかかりそうです」
「どれくらいかかる?」
「術式の複雑さだけなら神話級魔法並ですので、十年は軽くかかるかと。僕よりも、魔王様が解析した方が早いと思いますよ?」
「いや、無理無理。他の人が創った魔術とかなら一目でわかるんだけど、自分で創った魔術はさっぱりわかんないのよ」
「ああ、そうでしたね。魔王様は頭だけでなく、ギフトにも欠陥があったんでしたね。すっかり忘れていました」
母の魔道はギフトありきでしたか。
しかも聞いた限りだと、わたしのギフトと同性能。
それはつまり、わたしのギフトも母から与えられたことが確定したと言うこと。
わたしが母の記憶を夢として見るのはクラリスの魔力のせいではなく、そうなるように母がギフトに細工をしたからだったのでしょう。




