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クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第九章 あ、やっと治った/これ、どういう状況ですか?
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9-17

 母には愛妾が数多くいました。

 全て魔族の女性で、種族だけではなく年齢も下は10代の少女から上は60代の初老女性まで幅広く、平等に可愛がっていました。

 閨での情事を母目線で見せられた時は何とも複雑な気分になりました。

 その愛妾たちの中で最も寵愛を受けていたのが、他ならぬシルバーバイン。

 彼女との夜は壮絶と言うより凄惨で、こんなにも激しいプレイが存在するのかとわが目を疑いました。

 そんな激しい愛し合いが終わった翌朝。

 シーツがグチャグチャに乱れたベッドの上で仰向けになった母が、ウィロウにマッサージをされています。


「あぁ……そこそこ。腰のそのへんをもう少し強めでお願い」

「それはかまわないんだけどさ。もうちょっと大人しいプレイはできないの? 魔王ちゃんとシルバーバインちゃんがこの部屋に入ったって聞いただけで、翌朝の部屋の片づけとマッサージのことを考えて頭が痛くなるんだよ」

「それはあたしに言われてもなぁ……」

「シルバーバインちゃんと一緒にヒートアップしちゃうもんね? 楽しんじゃうもんね? お互いに失神するまで悦びを与え合っちゃうもんね? そこまでしないと満足できないんだもんね?」

「ちょ、ちょっとウィロウさん? 強めでとは言ったけど、さすがにそれは痛いかなぁ……。指がめり込むどころか食い込んでるから、もうちょっと弱めてほしいなぁ……」

「弱めてほしかったら、次からはプレイ内容を改めて。じゃないと、このまま魔王ちゃんの体の中に両手を突っ込んで死なない程度に内臓をかき回しちゃうから」


 凍えそうなほど冷たい声で脅されて、母は生唾を飲み込みました。

 それを承諾と受け取ったのかウィロウはそれ以上何も言わず、黙ってマッサージを続けました。

 これまで見聞きしてきた母の記憶と照らし合わせると、シルバーバインが恋人とするならウィロウは差し詰め親友と言ったところでしょうか。

 

「ねぇ、魔王ちゃん。こっちに来てからの20年で何度も言ったけど……」

「新しい恋をしろ。でしょ? 耳タコだからやめてくれないかしら」

「やめたいけど、やめれないよ。だって魔王ちゃん、寂しいんでしょ? 体の疼きはシルバーバインちゃんたちで誤魔化しせても、寂しさまでは誤魔化せてないんでしょ? だから、魔王なんて損な役回りを続けてるんでしょ?」

「あたしは魔族と人間が共存できる世界を目指してるだけ。と、言ってもウィロウには通じないよね?」

「うん。それこそ耳タコだからね。姉さんたちは騙せても、魔王ちゃんのお姉ちゃん兼メイドのわっちは騙せないよ」

「べつに、騙すつもりはないんだけどなぁ……」

「魔王ちゃんがいくら頑張っても、そんな世界は実現しない。それを知ってるのに目指してるって言ってる時点で嘘じゃない。まさか、死ぬ気でやれば運命が帰られるなんて思ってるほど、子供じゃないよね?」

「子供だ。と、言ったらどうする? 怒る? それとも殺す?」

「どっちかと言うと、殺しちゃうかな。だってそっちの方が、魔王ちゃんが頑張るよりも確実に運命を変えられそうだもん」

「そうね。あたしがここで死んだほうが、この先に待ち受けてる運命に干渉できそう。でも、この時点でそうなってないってことは……」

「わっちは魔王ちゃんを殺してない。80年後の勇者との決戦まで魔王ちゃんが生きてる証拠だね」

「未来を知ってるのも、中々辛いものがあるわね。変えようと努力してるけど、下手に変えちゃったらあたしたちの存在自体消えちゃうんだから」

「だね。特にあの子は、生まれなかったことになっちゃいそうだもん」


 前々からそうなんじゃないかと思っていましたが、今の会話でハッキリと確信しました。

 どのような方法でそれを成したのかはまだわかりませんが、母と四天王たちは何処かの時代、もしかしたらわたしが生きている今とそう違わない時代から百年前へ遡ったタイムトラベラーです。

 そうだとするならば、わたしが知る母のすべての行動に説明がつきます。


「いっそ、アレを使っちゃおうかな。そうすれば、少なくともあの子が生まれなくなることは防ぎつつ未来を変えれそうな気がする」

「アレって、もしかして|悲惨な結末を確定させる魔法カッサンドラ? それこそダメだよ。魔王ちゃんが今死ぬよりダメ。だってアレは、術者にとって最も悲惨な未来を決定する魔法だよ? 彼を愛して子供まで生んだのに利用され尽くして捨てられた魔王ちゃんがそれ以上に悲惨だと思う未来はどんなこと? あの子に関することしか無いよね? 死に方が決まってる魔王ちゃんの代わりに、あの子が悲惨な目に遭っちゃうかも知れないよ?」

「わかってるわよ。あたしだってそう考えたから使ってないんじゃない」

「だったら金輪際、カッサンドラを使うなんて言わないで。じゃないと、本気で怒るからね」


 母がカッサンドラを使っていないのは、およそ80年前時点では確定。

 もしかしたら、わたしの身を案じて本当に生涯使わなかったのかもしれません。

 ですが、今だ見ていない母の記憶の中に使った記憶がないとも限りません。

 なぜなら母は、「はいはい。わかったわよ。わかったから、腰を揉む手の力を緩めてちょうだい」と、言ったあとで「あたしが正気を保ってる内は……ね」と、呟いたのですから。





 

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