表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラリスとクラーラ ~魔王を倒した勇者に導かれて旅をしていたら大魔王になっていました~  作者: 哀飢え男
第九章 あ、やっと治った/これ、どういう状況ですか?
122/125

9-14

「クラリスちゃん。どうしてこんな状況になってるのか、そろそろ聞いても良い?」

「良いけど、どっち? トウキョウに行く羽目になったこと? それとも、こっち?」

「そっち。どうしてその子……シノちゃんだっけ? が、クラリスちゃんにメロメロになってるの? わっちとハチロウくんがキャバクラでバイトしてる間に何が会ったの?」

「え~っと、一言で言うと、わからせた……かな」


 イチハラからトウキョウへの道中、いつも通りハチロウくんが魔術で作った馬まで木製の馬車の荷台で景色を眺めていたら、思い出したようにヤナギちゃんがあたしの右腕にしがみ付いているシノさんのことを聞いてきた。

 咄嗟に「わからせた」と答えたけれど、実を言うとそう言うしかなかった。

 だってあたし自身、シノさんがこうなるとは思っていなかったんだから。


「いや、意味がわかんないんだけど? わっちには、クラリスちゃんがシノちゃんを手籠めにしたようにしか見えないんだけど?」

「まあ、そう言うことよ。だってこの子、自分のことを男だと思い込んでたのよ? だから……」

「女の悦び……と、言うよりは快感を、そんなになるまで味合わせたってこと? 自分を男だと思い込んでいたシノちゃんが、発情しっぱなしなるほど徹底的に? 一晩かけて?」

「う、うん……」


 どうしてだろう。

 何故かヤナギちゃんの機嫌が悪い。

 あたしとシノさん、そして膝の上のマタタビちゃんの対面で両手を組んだまま胡坐をかいて睨んでいる。


「クラリスお姉さま。お困りですか? あの幽霊がお姉さまを困らせているのなら、このシノが斬り捨てて差し上げますが」

「いやいや、ダメよ? 絶対にダメよ? ヤナギちゃんは大切な仲間なんだから、斬っちゃダメ。って言うか、斬れるの? ヤナギちゃんは幽霊だよ?」

「アタシが父、バンサクから継承したこのムラサメには退魔の力もあります。幽霊どころか怨霊ですら、容易く斬り裂いて見せます。やりますか?」

「だから、やっちゃダメって言ったでしょ? あたしの言うことがきけないの?」

「も、申し訳ありません! 謝りますから、嫌いにならないでください! 今宵もアタシの意識がなくなるまで、徹底的に弄ってください!」


 さすがにやり過ぎた。とは、正直思ってるし反省もしてる。

 まさか自分が女だと自覚するにとどまらずあたしに依存するようになるとは思ってなかったし、一人称がオレからアタシに変るほど自覚するとも思っていなかった。

 そりゃあ、徹底的にやったわよ?

 あたしの個人的な趣味と、さらにはストレスと欲求の発散も兼て徹底的にシノさんの体をいじくりまわして開発し、あたし自身も楽しんだ。

 その結果も、けっして悪いモノじゃない。

 シノさんがあたしに従順になったおかげで、ソフィアからの依頼を達成するのに大いに役立つ……はず。

 しかもシノさんは神具(レガリア)の継承者で、本人曰く、そこらの三流転生者には負けないくらい強いらしい。


「ところでクラリスお姉さま。そちらで眠っていらっしゃるシスターはどなたですか? 見たところ、オオヤシマ人のようですが……」

「かれこれ一ヶ月ほどぶっ壊れてるけど、クラーラはあたしの相棒でブリタニカ人よ」

「ですが、髪や肌色がオオヤシマ人そのものですよ?」

「意外に思うかもしれないけど、べつに珍しい髪と肌色じゃないよ。むしろ、あたしみたいな金髪碧眼の方が珍しかったりするかな」

「そうなのですか? てっきりアタシ、ブリタニカ人と言うより西欧人は、お姉さまのような金髪碧眼ばかりだと思っていました」

「貴族に限定するなら、あたしみたいな髪と瞳の人は多いよ」

「へぇ、そうなんですね。勉強になりました」


 貴族は血筋に拘る。

 それを最もわかりやすく示す手段が身体的特徴。その最たるものが、あたしみたいな金髪碧眼。

 噂でしか聞いたことがないけど、侯爵以上は金髪碧眼以外は親族とは認めず、男の場合は生まれてすぐに里子に出されたりするし、女の場合は政略結婚の道具としてしか扱われないそうよ。

 そんな理由もあって、あたしはもちろんお姉さまも、どっかの御貴族様の身内。もしくは、先の理由で里子に出されたり嫁がされたりした人が生んだものの、何かしらの理由があって捨てられたんだと噂された。

 お姉さまに至っては、路地裏育ちとは思えないほどの美貌と気品、そして威厳のせいで、現ブリタニカ国王の不義の子なんて噂まであったわ。


「勉強になったはいいんだけどさ。そろそろ、トウキョウのどこを目指すのか教えてくれない? トウキョウのどこかに、フセって人がいるんでしょ?」

「幽霊風情がフセ姫様を呼び捨てにするなど言語道断。たたっ斬るぞ」

「はいはい。わかったよ。って言うかさ、どうしてこの子、わっちに対してこんなに辺りがキツイの? わっち、何かした? わっちがソフィアさんを見つけなきゃ助からなかったんだから、むしろ感謝して敬ってほしいんだけど?」


 言われてみるとたしかに、シノさんはヤナギちゃんを敵視しているようにも見える。

 もしかして似てるから?

 犬士と敵対しているタマヅサって人が赤い髪のエルフだって噂はヤナギちゃんから聞いたけど、それだけじゃなく顔まで似てたりするのかしら。と、するなら、タマヅサって人がヤナギちゃんのお姉さんとイコールってことになる。


「ねえ、シノさん。違ってたら違うって言ってくれていいんだけど、もしかしてヤナギちゃんとタマヅサって人が似てたりする?」

「似てるどころではありません、お姉さま。瓜二つです。ほんの二週間前にトミヤマに手勢を率いて現れ、フセ姫様をかどわかしたタマヅサとその幽霊はそっくりです」

「ああ、やっぱりそうなんだ……」

 

 これは面倒なことになった。 

 タマヅサがヤナギちゃんのお姉さんだとほぼ確定したのは喜ばしいけれど、シノさんを連れたままだと敵対することになってしまう。

 もちろん、フセ姫さんを救出してもそれは同じ。

 だからあたしは視線でヤナギちゃんに「どうしよう?」と伝えたけど、ヤナギちゃんは肩をすくめてそっぽを向いてしまった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ