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すっかり見慣れた円卓の間。
そこで母と四天王たちが、いつものように会議をしていますが、今回の会議はいつもと雰囲気が違います。
どこか達観したような笑顔を浮かべたウィロウを、他の三人が神妙な顔で見つめています。
「ソフィアの体をを乗っ取る? ソフィアってたしか、勇者パーティーの僧侶よね?」
「そうそう、そのソフィア。体を乗っ取って、しばらくはオオヤシマあたりに潜伏し解こうかなって思ってるの」
「なるほど、有りと言えば有りね。みんなはどう思う?」
何が「有り」なのかは直前の会話を聞いていないのでわかりませんが、表情を見る限り他の三人は母と違う考えのようです。
「う、うちは嫌ニャ。ウィロウが人間になっちゃうなんて、うちが死んだ後だとしても絶対に嫌ニャ」
「僕も反対です。法術は未知の部分が多すぎます。いくらウィロウが聖人レベルの法術を扱えると言っても、相手も聖女と呼ばれている人間です。乗っ取ろうとして逆に消滅させられる可能性だってあります」
シルバーバインは感情的に、エイトゥスは理論的に反対しました。
なるほど。
今回の夢は以前見た、ソフィア様の体をウィロウが乗っ取ったエピソードの前段階。
その案を、母と他の四天王に提案した時の夢みたいです。
「姉さんはどう? 二人と同じで反対?」
「計画自体には賛成する。でも、リスクが高すぎる。本当に聖女の魂だけを消滅させて、体を乗っ取れるのかい?」
「さあ?」
「さあってあんた……。そこがあんたの計画の要じゃないのか?」
「そうだけど、べつにできなかった時は同化でも良いかなって思ってるんだよ」
「同化? つまり、聖女の魂と同化するって事かい? あんた、そんなこともできたのか?」
「さあ? やったことはないけど、何とかなるんじゃないかなって思ってる」
あっけらかんとしたウィロウの答えに呆れ果てたのか、フローリストは両手で頭を抱えてしまいました。
ウィロウの計画がどんなものなのかはまだわかりませんが、少なくともソフィア様の体を乗っ取る手段がしっかりとしたものならフローリストが賛成するほどの計画。
わたしはすでに、乗っ取ったのかどうかしたのかは不明ですが、ウィロウがソフィア様の体とともにどこかへ転移したことは知っています
ウィロウはソフィア様の体を使って何をするつもりなのでしょう?
いえ、何ができるのでしょう?
ブリタニカ王国でソフィア様は聖女として崇められ、さらに史上最高の法術使いとされていますし、ブリタニカ正教会は公式に認めてはいませんが、神に最も近い人間として庶民からは敬われています。
仮に、ソフィア様の体を得たウィロウの転移先にメシア教が浸透していれば、聖人レベルが扱える法術、『奇蹟』に分類されている上級法術を一つか二つ見せるだけで大量の配下を得られるでしょう。
ですが、それはおそらく成されていません。
その理由は簡単。
ソフィア様が今でも、魔王軍との決戦時に死亡したとされたままだからです。
それに加えてブリタニカ正教会が公開している聖人のリストは、ソフィア様を最後に更新されていません。
仮に名と姿を偽ったとしても、奇蹟レベル法術を扱える人が現れれば瞬く間に知れ渡すほどメシア教は広まっているのですぐにバレてしまいます。
「乗っ取るか、それとも同化するかはひとまず置いといて、転移先はどうするの?」
「オオヤシマが良いかなって思ってる。あの国はメシア教がほとんど広まっていないはずだし、新興の宗教にも寛容。オマケに東の果てで西欧とは距離があるから、潜伏するにはもってこいだよ。十年くらいはシスターの恰好で歩きまわってもバレないと思う」
そこは変装なりするべきでは?
とも思いましたが、おそらくはそれも計画の内。
もしかしてオオヤシマで信者を増やし、その人たちを使って何かをするつもりなのでしょうか。
でも、どうして決戦の後に?
ウィロウの計画は決戦中に始まり、決戦後に何かを成すためのものだと予想できましたが、その目的がわかりません。
わからないまま、母の夢は次のエピソードへと移ってしまいました。