9-12
オオヤシマには伝統的かつ最上級の謝罪ポーズ、ドゲザがある。
プロになるとそのポーズをするだけで揉め事のほとんどを解決し、場合によっては相手に罪悪感を植え付けてしまうそうよ。
「えっと、マタタビちゃん。これ、どういう状況?」
「うちにもわかんないニャ。このお姉さんが起きるなり、うちに土下座したんニャ」
孝の犬士と思われるベッドの上の少女のドゲザは、初めて見るあたしに「見事なドゲザね。あたしがあの域に達するには、軽く百年はかかりそう」だと思わせた。
でも、どうしてドゲザなんだろう。
だってタムマロは、ドゲザは謝罪ポーズだとあたしに教えた。
つまりこの少女は、何かを謝罪しているってことになるんだけど、あたしにはとんと心当たりがない。
「あなたが、マタタビ殿が言っていたクラリス殿ですね?」
「そ、そうだけど……。とりあえず頭を上げてくれない? なんだかその、いたたまれないと言うか申し訳ないと言うか、とにかく落ち着かないのよ」
「いえ、これは今できる精一杯の感謝の印。どうかお気になさらず」
「感謝? え? それってドゲザでしょ?」
意味がわからない。
ドゲザって謝罪の時だけじゃなくて、感謝してる時にもするものなの? と、疑問を込めてマタタビちゃんに視線を送ると、「本当に感謝してる時にも、土下座をすることがあるニャ」と、さりげなく耳打ちしてくれた。
「申し遅れました。オレの名はシノ。フセ姫様の家臣にして八犬士筆頭、イヌヅカ・シノと申します」
「あ、これはどうもご丁寧に。知ってるみたいだけど、一応名乗っとくね。あたしはクラリス。で、こっちがマタタビちゃん」
ドゲザしたまま名乗ったシノさんにつられたあたしは、ドゲザこそしなかったけどセイザして名乗った。
そこで少し冷静になるなり、シノさんの一人称が気になった。
オレとはたしか、オオヤシマの男性が使う一人称の一つ。
シノさんは紛れもなく女性なのに、どうして男の一人称を使ったんだろう。と、疑問い思ったあたしは素直に聞いてみることにした。
「ねえ、シノさんって女の子よね? それなのにどうして……」
「オレは男だ! 命の恩人とは言え、侮辱するならただでは済まさんぞ!」
「お? おお!?」
あたしの質問はどうやら地雷だったらしく、シノさんはドゲザをやめてあたしの胸ぐらを掴み上げて怒りに満ち溢れた顔を突き付けて来た。
いや、どっからどう見ても女の子でしょ。
顔もそうだけど、あたしは裸も見てるんだから間違いない。
大きくはないけど小さくもないサイズのオッパイがたしかにあったし、下には男特有のアレが生えていなかった。
だから間違いなく、シノさんは女の子。
と、言いたかったけれど、それはシノさんの怒りに油を注ぐだけだと思ってしなかった。
代わりにあたしは体内で魔力を循環させて筋力を底上げし、シノさんの手を力ずくで振り払ってベッドに押し倒した。
「な、何を……!」
「するつもりか? 今からあなたを徹底的に可愛がって、頭じゃなくて体に自分は女だとわからせるのよ」
「わかっ……はぁ? あなたはいったい、何を言っ……むぐ!」
今のシノさんとの会話は無駄。
だから強引にキスして無理矢理黙らせた。
頭の片隅で「そういえば、タムマロに体は許しても唇は許してなかったな」と考えながら、シノさんが痛がらない程度の力で自由を奪って服も下着も剥ぎ取り、女将さん仕込みの性技で愛撫し始めた。
どれだけシノさんが果てても、何度も「もうやめて」と懇願しされも、気絶しても叩き起こして調教を続けた。
マタタビちゃんが寝落ちしても、あたしはやめなかった。
あたしがやめたのは明け方。
疲れたし満足したし、マタタビちゃんとシノさんも起きてるのが限界みたいだからそろそろやめようかなと考え始めた頃に、ソフィアが来たからよ。
「うわぁ、派手にヤったもんだね。教会の一室でこれほど淫靡な行為をするなんて罰当たりな。と、言いたいところだけど、自分の性別がわからなくなるほど歪んだ躾をされてたその子を救ったってことにしてあげる」
「そりゃあどうも。ついでにお風呂もかしてくれない? 御覧の通り、あたしもシノさんも汗だくだから」
「汗だけじゃないよね? 別の汁も混じってるよね? むしろ、そっちの方が多いよね?」
「どうでも良いじゃない、そんなこと。で? 貸してくれるの?」
「奥にあるから、好きに使って良いよ。ちなみに、お金はいらない」
「あら、銭ゲバシスターのクセに太っ腹じゃない。拾い食いでもした?」
「クラリスちゃんじゃあるまいに、そんなことはしないよ。単に、お金以外の報酬を貰うってこと。いや、お願いを聞いて貰うって言った方が良いかな」
「お金以外のお願い? 何? もしかして、抱かせろとでも言うつもり?」
「あいにくとワタシ、男にしか興味ないの」
「じゃあ、何よ」
嫌な予感しかしない。
いや、予感どころじゃない。
ソフィアのお願いを聞いたら絶対にろくなことにならないと確信してる。
だって笑顔が邪悪だもの。
実はシスターじゃなくて悪魔なんじゃない? とか、ウィロウが混ざったからそうなったの? と、ツッコみたくなるような笑顔を浮かべたソフィアはベッドの上でカエルのような恰好で仰向けになってるシノさんを指さしながら、「その子を手籠めにしたなら丁度良いわ。ちょっくらトウキョウまで行って、フセって子を探して保護してちょうだい」と、本当の目的はそれじゃないと丸わかりなお願いをした。