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「性格、悪っ! どんな育ち方をしたら、あそこまで性格が捻くれるのよ! 捻くれすぎて五~六周してんじゃない!? 私も性格は良い方じゃないけど、あそこまで酷くないわよ!?」
場面が劇場に戻るなり、シーラはおぞましい物でも見たかのように顔を歪め、寒さから逃げるように両手で自身の身体を抱きしめて、誰にともなく文句を言った。
「あら、戻ってたのね。おかえり。で? どう? まだ見る? たぶんだけど、二人はずっとあんな感じよ? 不快でしょ? 聴く価値なんてないでしょ? だったら、はい。立ちましょう。立ったら回れ右して、ここから出て行きましょう。って、言うか出てけ。帰れ」
どうやらシーラは、これ以上仕事をしたくないらしい。
犬や猫を追い払うように「シッ! シッ!」と言いながら左手を振っている。
「はぁ……。帰んないか。帰ってくれないと、仕事しなきゃいけないのよ? って、言うか、何が悲しくて、あの二人の話を私がしなきゃいけないのよ。おかしくない?」
おかしくない。
何故なら、シーラはこの劇場の語り部。一人でも客がいるのなら、語って聞かせる義務がある。
それはシーラ自身よくわかっているようで、盛大に溜息を一つついてから顔を上げ、姿勢を正した。
シーラは、先ほどまでの砕けっぷりの方が演技だと思えてしまうような威厳と神々しさをまとい、接客モードへ移行した。
「先ほどは、大変失礼いたしました。あまりにも二人が予想の斜め上……いえ、下の育ち方をしていたので、取り乱してしまいました。ですので、先ほどの醜態は二人のせいです。私は悪くありません。クレームなら、馬鹿さ加減と性欲に磨きがかかったクラリスと、性格が捻じれまくったクラーラにお願いします」
シーラは謝罪しながらも、それはあくまでも二人のせいだと強調した。
その顔には一切の後ろめたさはなく、恥じるところはないとばかりに、観客席を見下している。「そうでしょ?」と、言っているような有無を言わせぬ威圧感まで放っている。
「さて、帰るつもりがないキチガ……もとい、奇特なお客様に、もう一つばかり、語ってお聞かせしましょう」
シーラは、まるでオペラ歌手のように、観客席を撫でるように大仰に両手を揺蕩わせて、語り始めた。
「場所は、シコク地方のコウチ県に移ります。トクシマ県で成果を得られなかった二人は、シコク地方を横断するようにそびえ立つシコク山脈を越えるくらいならコウチ県を経由しようと考え、当地の娼館街であるサカイを目指すことにしました。これからお話いたしますのは、その道中で遭遇した一件と、それを終えた先で訪れたエヒメ県、マツヤマで二人が起こした珍事の話でございます」
言い終えるなり、シーラの頬が歪にヒクついた。両肩も、小刻みに震えている。
怒っていると言うよりは呆れているように見えるシーラは、数十秒かけて営業スマイルを取り戻し、さらに続けた。
「この話を聞き終えたなら、お客様方はさらに、二人に幻滅することでしょう。タイトルはそう……『この変態!/変態はあなたです!』で、ございます」
シーラがタイトルを言い終えると、劇場が闇に包まれ始めた。
完全に闇に閉ざされる前に垣間見えたシーラは天を仰ぎ、「あの二人、色々と終わってない?」と、呟いていた。
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