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「とっくの昔に死んでる人間に嫉妬するなんて、相変わらず馬鹿な子ね。まあ、らしいっちゃらしいけど」
劇場に戻ると、シーラが誰にともなくそう呟いていた。
呆れているような口調だが、微笑ましそうに観客席ではないどこかを見ている。
「あら、戻ってたのね。で、どうだった? クラリスは相変わらずだしクラーラはぶっ壊れたままだしで、先行きが不安になるような話だったでしょ?」
うんざりしたようなしぐさと口調だが、シーラの機嫌は良いようで顔だけはにこやかにしているが、笑顔が徐々に邪悪に歪んでいる。
もしかしたら、この先に起こるトラブルを楽しみにしているのかもしれない。
「さて、次回の舞台はカナガワ県をスルーしてチバ県へと移ります。そこでヤナギの姉を探すことになるのですが……。何故か現地民同士の争いに巻き込まれるばかりか、カントー地方全域を巻き込んだクーデターに関わってしまいます」
言い終えると、シーラの表情が完全に邪悪なものに変った。
どうやら次回の話は、今までにない規模のトラブルは起こるがシーラの機嫌が悪くなるような事態にはならないようだ。
「それでは、本日はここまでにいたしましょう。お客様方のまたのご来場をこのシーラ、心よりお待ちしております」
シーラがお辞儀をすると、劇場が暗転し始めた。
完全に暗くなる前に見えたシーラの口元は、変わらず邪悪に歪んでいた。




