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8-20

 ハチロウくんが魔術で作った馬車に乗ってあたしたちが進むこの道は、カナガワ県のカワサキとチバ県のキサラズを結ぶ『水の道』と呼ばれる巨大で長大な橋で、オオヤシマに現存している古代遺跡の一つ。

 人の往来だけでなく、交易路としても重宝されているらしい。

 あまりにも重要で便利だから、オオヤシマに統一される前はこの橋を巡った小競り合いが絶えなかったと、昨日一泊したカワサキ宿の旅館に訪ねて来たタムマロから聞かされた。


「タムマロさんって、本当に便利で都合が良い人だよね。しかもお金持ちでイケメン。超優良物件じゃん」

「急に何よ。って言うか、優良物件ってどういう意味? オオヤシマの女は、男を家として見てるの?」

「さあ? いつからそうなのかは知らないけど、昔から条件が良い男をそう呼んでるよ」

「そんな呼ばれ方して、男は怒らないの?」

「基本的に、男の前じゃ言わないからね。そうういう呼ばれ方があるとは知っていても、まさか自分が物件呼ばわりされてるとは思ってないんじゃない?」

「ふぅん、そうなんだ」

「あれ? しかめっ面なんかしてどうしたの? あ、もしかして恋人が馬鹿にされたと思って怒っちゃった?」

「ち、違うっ……! アイツはただのセフレだし! これはアレよ……。そう! ホリノウチ! アイツが来たせいで、ホリノウチの女の子を堪能できなかったから怒ってるの!」


 ホリノウチの女の子を楽しみにしていたのは本当だけど、苦しい。

 苦しすぎる言い訳だわ。

 実際、ヤナギちゃんにあたしの言い訳は通用していないようで、「はいはい。そう言うことにしといてあげる」と呆れ顔で言っている。


「それはともかく、この橋って本当に凄いね。昔の人は、どうやって造ったんだろ」

「あたしが知るわけないじゃん。今度また、タムマロが来た時に聞いてみたら?」

「しても良いけど……。わっちがタムマロさんと話したらクラリスちゃん、嫉妬するじゃない」

「しないわよ。好きなだけ話したらいいじゃない。なんなら、タムマロと一発ヤっといたら? 溜まってるんでしょ?」

「あのさぁ。『あたし、アイツのことは本当にセフレとしか思ってないから』って、暗に言ってるつもりなんだろうけど、顔が怖いよ。鬼の形相してるよ。そんな顔されて『ヤッとけば?』的な事を言われても、素直に『じゃあ、そうする♪』とは言えないよ」

「でも、溜まってるんでしょ?」

「溜まってるけど……。それは最悪、クラリスちゃんで発散すればいいかなって思ってる」

「あたしで? でもあたし、ついてないよ?」

「ついてなくても良いよ。わっちが生やすから」

「へ? 生やすって何を……」


 あたしが言い終えるよりも早くヤナギちゃんは着物の裾を盛大に捲り上げて、本来ならないはずのモノをあたしに見せつけた。

 ハチロウくんの子供チンチンしか見たことがないクラーラと違って、元娼婦のヤナギちゃんは飽きるほど色んな大きさや形を見ているからか、魔法で自分に生やしたモノはディテールが凄く精巧で本物にしか見えない。

 でも、あたしは遠慮したい。


「いや、デカい。そんなに長くて太いくて形がエグイの、入らないから」


 未経験の頃なら、興味津々に観察して期待に胸を膨らませていたと思う。

 でも経験したことで自分のキャパがわかっちゃったし、デカけりゃ良いってもんじゃないことも身をもって理解した今のあたしは、アレを受け入れられない。

 だって絶対に痛いもの。

 あんなのを入れられると考えただけで、恐怖で身の毛が弥立つわ。


「じゃあ、これくらいならどう?」

「細くはなったけど、相変わらず長くない?」

「だって、奥をグリグリされるの好きなんでしょ? 初めて会ったときに、そう言ってたよね?」

「好きだけど……。何て言うか、嫌だ」

「何が? タムマロさん以外のを入れるのが?」

「え、えっと……」


 その通り。とは言えない。

 欠片も信じてもらえない虚勢ではあるけれど、そう言っている内はいう訳にはいかない。

 素直にタムマロを愛していると言ってしまえばこんな葛藤をしなくても良くなると頭ではわかっているのに、タムマロがあたしを通してお姉さまを見ている内はそうすることができない。

 するわけにはいかない。

 お姉さまに嫉妬して対抗心を燃やすなんておこがましいとわかっていても、心が許してくれない。


「クラリスちゃんって、女の子には見境がないのに男には一途なんだね」

「べ、別にそんなんじゃない。ビッチじゃないってだけよ」

「はいはい、そういうことにしといてあげる」


 言い終えるとヤナギちゃんは着物の裾を直しながら、あたしの頭を撫でた。

 最初は恥ずかしかったけど、その感触が気に入ったあたしは大人しく、撫でられ続けることにした。

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