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8-18

「ヴィィィクトリィィィ!」


 と、タケミカヅチの下半身を文字通り消滅させるなりVサインにした右手を高らかに挙げて勝ちどきを上げたけれど、観衆の面々は「そこまでやるとは思ってなかった」と、言わんばかりに大口を開けていた。

 まあ、気持ちはわかるわ。

 やったあたしでさえ、タケミカズチの下半身どころかその後ろの岩山まで消滅するとは思ってなかったんだから。


「さて、終わったしお腹も良い感じにすいたから、町に戻ろっか」

「いやいや、アレ、大丈夫なの? タケミカヅチ様の下半身が無くなっちゃったよ? 山まで消えちゃったよ!?」

「大丈夫じゃない? 前にワダツミのおっちゃんの腕をぶった斬ったけど、ほっとけば生えるって言ってたもん」

「いやいやいやいや、腕ならまだ納得できるけど、下半身は無理でしょ。腰から下がまるっと無くってるんだよ? いくら龍王様でも、下半身は生やせないでしょ」


 と、言いながら、ヤナギちゃんがスサノオとタケミナカタに視線を移すと、二人は「まあ、死にゃあせんだろ」とか「ほっときゃ生えるしな」などと、軽い調子で言っていた。


「ね? 平気でしょ?」

「う、うん。そうみたいね。わっちが常識的に考えたのが、間違いだったみたい」


 それからあたしたちは、下半身を失った割に元気なタケミカヅチを回収して、町でクラーラの上の世話から下の世話まで甲斐甲斐しく続けていたハチロウくんと合流して一息ついた。

 ついた途端に、腹ごしらえも済んでないのにヤナギちゃんが話を切り出した。


「で? どうするの? タケミカズチ様と結婚するの?」

「う~ん……。どうしよ。あたし、弱い男に興味ないんだよね」

「いやいや、龍王さまだよ? 龍王さまより強い男なんて、世界中探してもそうはいないよ?」

「でも、あたしより弱いよ? あたしと結婚するなら、せめてあたしと同じくらい強くなくっちゃ話にならないよ」


 と、答えたら、上半身だけで壁にもたれかかっていたタケミカズチはわかりやすく落ち込んだ。

 ストレートに言い過ぎたかな? と、少しだけ反省したけれど、あたしは本当のことを言っただけだと開き直って、目の前で胡坐を組んでいるスサノオに視線を固定した。


「何か、聞きたそうな顔じゃな。なんじゃ? ワシにわかることであれば、何でも答えてやるぞ?」

「そう。じゃあ聞くんだけど……あたし、あの時何したの?」

「あの時? タケミカズチの下半身を消滅させたときか?」

「それ。ぶっちゃけあたし、どうしてああなったのかわかんないのよ」


 答えてやると言われたから遠慮なく質問したのに、スサノオは目も口も限界まで開いて固まった。

 スサノオだけじゃないわね。

 タケミカズチとタケミナカタも、似たような顔をしてあたしを凝視してる。


「あ、呆れたもんじゃな。アレを無自覚でやったんか?」

「無自覚って言うか、できそうなことをやっただけなんだけど……」

「お主があの時、魔力で造ったのは超小型の即席荷電粒子砲……と、言ってもわからんじゃろうな。お主らがシマネでルナⅡを破壊した術の縮小版とでも理解せぇ」

「え? あれって、そんなに凄かったの? 水の中に雷を流して固めただけだよ?」

「お主が魔力で造った水のリングは限りなく純水に近い。純水は電気伝導率が低い故、その内側を走る電流はほとんど減衰せずに内部の空気中を加速し続けるのじゃが……と、説明してもわからんよな?」

「うん、わかんない」

「まあ、とにかく凄くてとんでもない事をしでかしたと思えばええ」

「それ、答えになってなくない?」

「まともに答えても、お主では理解できんじゃろうが」


 そりゃあそうだ。

 と、納得したあたしは、代わりの質問をすることにした。

 けっして、クラーラじゃないと理解できなさそうな話から逃げたわけじゃない。

 

「じゃあさ、ヤナギちゃんのお姉さんの居場所を教えてよ。知龍王って名乗ってるくらいだから、知ってるでしょ?」

「そこの幽霊の姉か? 特徴がわかれば、探せんことはないぞ」

「だってさ、ヤナギちゃん。お姉さんって、どんな人? ヤナギちゃんに似てたりするの?」


 あたしの質問が意外だったのか、話を振られたヤナギちゃんは「え? 姉さん? どうしてそんな話に? え? え?」って言いながらあたふたしていたけれど、お姉さんの特徴をスサノオに説明し始めた。

 

「わっちと姉さんは双子だから、顔はそっくりなはずだよ。違うのは、瞳と髪の色だけ。わっちは青色だけど、姉さんは赤色なの」

「ふむ。珍しい特徴じゃから、生きておればすぐに見つけられそうじゃな。他にはあるか?」

「わっちと同じで先祖返りしてるから、耳が人間より長いかな。あ、でも、わっちは幽霊だから歳を取ってないけど、姉さんは歳相応に老けてると思う。わっちを三十代前半にしたような感じかな?」

「ふむふむ、なるほど。赤い髪と瞳の四半長寿族(エルフ・クォーター)で三十前半か。探してみるから、少し待っておれ」


 言い終えると、スサノオは目を閉じて押し黙ってしまった。

 少しと言っていたわりにけっこうな時間、それこそあたしのお腹が満腹になるまで待たされて、暗くなってきたしそろそろ寝ようかなと考え始めた頃になってようやく、スサノオは瞼を開いた。

 「実は寝てるんじゃない?」と、言いたいのを我慢していると、スサノオは「まあ、こ奴らならなんとかできるか」と、呟いてから本題に入った。


「このまま東海道を進んでカナガワに入ったら、海の道と呼ばれておる橋を通ってチバへ渡り、北上してイチカワを目指すとええじゃろう」

「そこに、ヤナギちゃんのお姉さんがいるの?」

「いいや、そこにはおらんが……。まあ、行けばわかる」


 それ以上のヒントを、スサノオはくれなかった。

 もったいぶらずに教えろ。と、言いたかったけれど、殴っても答えてくれなさそうだしタケミカズチよりも強いっぽいスサノオを相手に魔力が回復しきっていない状態で戦って勝てる気もしない。

 だからしかたなく、あたしたちはそのヒントにすがることにした。





 

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