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神の子達と、人の娘

冷たい風が吹き抜けた。


目を開けると、そこには見たことのない光景が広がっていた。


――いや、正確には「見たことがあるような光景」と言うべきかもしれない。


星空の下で夢を見たことがある。光に包まれた、神々が住む世界。

その夢の中の景色と、今目の前に広がる光景は、不思議なほど似ていた。


純白の石畳が続き、建物はすべて金と白で彩られている。

宙には光の粒が舞い、星のように瞬いていた。

遠くでは、空を舞う天使たちが、風に乗る鳥のように優雅に降りてくる。


(ここは……どこ?)


視界の端に広がる果てしない大空を見て、思わず息をのんだ。


白亜の大地の果て、そこから先はただ、雲海と星々が広がっている。

まるでこの大地そのものが、空へと溶け込んでいるかのようだった。


(私……空の上にいるの?)


思考が追いつかない。


直前の記憶を必死に思い出そうとする。

雪に埋もれた村。吹きすさぶ吹雪。そして、赤い髪の男――


(イグニス……)


彼の名前を思い出した瞬間、ふいに背後から声がした。


「お目覚めか、人間の娘」


驚いて振り向くと、そこには二人の少年が立っていた。


先頭に立つ少年の髪は、まぶしいほどのプラチナブロンド。

まるで天上の光をそのまま映したかのように輝き、まだ幼さの残る顔立ちは、

まるで芸術の神が丹精を込めて創り上げた彫像のように整っている。


だが、何よりも印象的なのは、その瞳だった。


夜明けの太陽がゆっくりと昇る光景を閉じ込めたような瞳。

深い青の奥に、金とオレンジが微妙に混ざり合い、

オパールのように複雑な輝きを放つ。


美しくも、不思議な瞳を持つ少年だった。


(……こんな綺麗な人がいるなんて)


その隣に立つもう一人の少年は、対照的だった。


蜂蜜のような金色の髪を軽く撫でながら、小さくため息をつく。

アンバー色の瞳はどこか冷静で、慎重に足元を確かめるように歩いている。


彼の雰囲気は穏やかだが、静かにあたりを観察するような目つきには、

どこか人を寄せ付けないものがあった。


「俺はファリオン、こっちは双子のエルディアス。俺たちはこの天界アルクィアを守る神の息子だ」


リリスは言葉を失った。


(神の……息子?)


「で、お前は誰なんだ?」


ファリオンが興味津々といった様子で、リリスを覗き込んでくる。

エルディアスは黙ったまま。だが、そのまなざしには静かな探るような色が浮かんでいる。


リリスは、自分の腕を見た。


指先がかすかに震えている。肌には、まだ冷たさが残っている。


(私……ここにいてもいいの?)


そんな不安が、言葉にならずに喉の奥でつかえた。


「お前、師匠に拾われたんだろ?」


ファリオンが悪戯っぽく笑いながら言った。


「師匠……?」


「イグニスのことさ!お前がここにいるってことは、師匠がそう決めたんだろ。だったら、別に気にすることないぜ!」


(イグニスが……私をここに?)


どういうことなのか分からない。


でも、彼が私をこの世界に連れてきたのなら――







天界の街を歩くと、目に映るものすべてが現実とは思えなかった。


白亜の塔がそびえ立ち、空を舞う天使たちの羽ばたきが光の軌跡を描いている。


道の両側には、空中に浮かぶ庭園が広がり、花々が風に乗って舞っていた。


そんな幻想的な世界に、活気ある声が響く。


「そっちの水瓶、少しずらしてくれ!」

「星晶石をここに運ぶぞ!」


神々の住人たちは、思った以上に普通の会話を交わしながら日々の営みを続けている。


(天界って、もっと静かで神聖な場所だと思ってた……)


驚きと戸惑いを抱えながら歩いていると、ふいにエルディアスが言った。


「お前はどうして、不安そうな顔をしている?」


「え……?」


エルディアスは真っ直ぐにこちらを見つめていた。

その静かな眼差しが、リリスの心を見透かすようで、思わず言葉に詰まる。


「……なんでもないよ」


自分が何者なのかも分からない。

人間の自分が、この場所にいていいのかも分からない。


――でも、イグニスに会えば、何か分かるかもしれない。


「よし、じゃあ行こうぜ!イグニスの鍛冶場はここから近いんだ!」


ファリオンがリリスの手を引いた。

エルディアスは無言のまま、それに続く。


彼らの後を追いながら、リリスは知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。


(私は……知りたい。なぜここにいるのかを)


この世界のことを。

イグニスのことを。

そして、自分自身のことを。


それが、この天界での "運命の始まり" だとも知らずに。

 


読んでいただきありがとうございます!

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