(99)エルフと雨音
フィリアが帰るまで、あと2日。
花火大会の翌日、月曜日の朝。目が覚めると、部屋全体がいつもとは違う重苦しい暗さに包まれていた。窓を叩きつける雨音と風の唸り声が、まだぼんやりしていた頭を一気に覚醒させる。時計を見ると、朝の6時を少し過ぎたところ。普段なら柔らかな朝日が差し込むはずの時間帯なのに、今日はその気配すら感じられない。
布団から抜け出し、窓の外を覗くと、銭湯の暖簾が激しい風に煽られ、今にもちぎれそうになっていた。道路沿いの木々は大きく揺れ、時折、枝が折れる音がかすかに聞こえる。その光景に、台風が本格的に近づいていることを実感し、胸の奥にじわじわと不安が広がった。
「昨夜の花火は奇跡的に何もなかったけど、これじゃ外に出るのも危険だな…」
誰に言うでもなく呟きながら、窓を叩く雨粒の音に耳を傾けた。昨日まではただのニュースの話題だった台風が、こんなにも近くに迫っているなんて、現実味が湧かない。
リビングに降りると、ばあちゃんがすでに起きていて、湯呑み片手にテレビのニュースを見ていた。画面には、台風の進路図とすでに出ている被害状況が映し出されている。
「おはよう悠斗。今日は危ないから外に出ちゃダメだよ。こんな日に無理して怪我でもしたら元も子もないからね。」
ばあちゃんの穏やかな口調には、いつも以上に心配がにじんでいた。
「うん、分かってる。でも…銭湯の暖簾とか、外のものが心配だよ。飛ばされてなきゃいいけど。」
窓の外で翻る暖簾の姿を思い浮かべながらそう言うと、ばあちゃんは肩をすくめて笑った。
「暖簾なんてまた作ればいいさ。無事かどうか見に行った人が怪我したり、もっとひどいことになったりすることもあるからね。まずは安全第一だよ。」
その言葉に頷いたものの、窓を叩く雨音が心のざわつきをさらに掻き立てる。その時、フィリアがふらふらと部屋から現れた。まだ寝ぼけているのか、瞼をぱちぱちと瞬かせながらリビングに入ってくる。
外の雨風の音に気づいたのか、彼女は窓の方を振り向き、驚きの声を上げた。「おはようございます…すごい音ですわね…。何が起こっているんですの?」
その声には、驚きと好奇心が入り混じっている。
「えーっとね、台風って言うんだ。雨と一緒にやってくる、巨大な風の竜巻みたいなものかな。外は危ないから、今日は家の中で大人しくしておこうな。」
俺は少し笑いながら答えたが、窓の外を見つめるフィリアの横顔が目に留まる。
窓越しに揺れる木々を見つめる彼女の瞳には、自然の脅威を初めて目の当たりにした驚きと不安が浮かんでいた。その表情に、俺は彼女の心に寄り添いたい気持ちが湧き上がった。
「それが台風というものなのですね。はい、分かりましたわ。でも…ユウトさん、何か私にできることがあれば、どうぞおっしゃってくださいませ。」
真剣な表情でそう言うフィリアを見て、俺は安心感と少しの感謝が胸に広がる。
「ありがとな。でも今は大丈夫だよ。この嵐が落ち着くのを待とう。」
外では暴風雨がますます激しさを増し、家全体が揺れるような感覚がする。その音を聞きながら、俺たちは銭湯の中で嵐が過ぎ去るのを静かに待った。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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