(97)エルフと綿菓子
「すみません…ユウトさん、カナさん。」
フィリアの小さな声が静かに届いた瞬間、その響きに込められた申し訳なさと安堵が心に染み渡り、張り詰めていた胸が一気に緩むのを感じた。小さく肩をすぼめた彼女の仕草には、自分の行動を悔やむ気持ちと、救われたことへの感謝が滲んでいて、その姿に何とも言えない胸の痛みが広がった。
「綿菓子を見つけたんですの。それが何の魔法…いえ、どういう仕組みなのか気になって…つい立ち止まってしまいました。それで、元の場所に戻ろうとしたのですが、人の流れがすごくて…」
潤んだエメラルドグリーンの瞳が俺たちを見上げる。その瞳に宿る不安と困惑は鮮やかで、まるでその感情が直接胸の中に流れ込んでくるようだった。こんなにも心細い思いをさせてしまったことに、申し訳なさが押し寄せる。それでも、何を言えばいいのか言葉が見つからず、自分の無力さに悔しさすら感じた。
「そんなとき、お姉さんが声をかけてくださったんですの。」
フィリアは小さな手に握ったふわふわの綿菓子を見せた。その仕草はどこか恥じらいがちで、それでも助けてもらえたことへの感謝がにじみ出ていた。
お姉さんが柔らかい笑みを浮かべながら話を補足する。「フィリアちゃん、綿菓子屋さんの前で、一人でしょんぼりしてたのよ。見るからに迷子って感じで、可哀想でね。それで、彼女が気になっていた綿菓子を買ってあげて、一緒に歩いていたら、ちょうど前の方に悠斗くんが見えたの。」
その説明に、心の中でお姉さんに深く感謝しながら俺は軽く頭を下げた。けれど、ふと隣にいた銀さんの存在が気になった。お姉さんと銀さんが一緒にいる光景が、どうにも自分の中の想像と噛み合わず、どこか胸の奥にざわつきが残る。
「でも…どうして一緒に?」
俺の問いに、銀さんは待ってましたと言わんばかりに胸を張り、得意げに笑いながら言った。「もちろん秘密や!前にも言ったやろ、男の魅力ってのは、ミステリアスさからくるんやで!」
その豪快な言葉に、場の空気が少しだけ和らいだように感じたが、隣のお姉さんがくすりと笑うのが見えた。そして、俺にそっと顔を近づけて静かに囁くように言う。
「お仕事のお付き合いよ。実はね、地域のイベントでいろいろ協力してもらってるの。この花火大会も地域の企業が協賛していて、私の信金もその一つなの。それでお礼も兼ねて、こうして一緒に回ってるの。」
その説明を聞き、胸の中の不安が少し和らいだものの、完全には消えなかった。もしもお姉さんと銀さんが特別な関係だと聞かされたら、自分の心がどうなるかなんて想像もつかなかった。
「立ち話もなんやし、ええ場所を知っとるで!花火がよく見える穴場に案内したる!」
銀さんが明るい声で場を仕切り直す。その声に促され、俺たちは再び歩き始めた。
フィリアは手に握った綿菓子をじっと見つめ、小さな笑顔を浮かべている。その表情がどこか無邪気で愛らしく、自然と頬が緩むのを感じた。
けれど、隣の夏菜は違っていた。彼女は無言のまま、俺と目を合わせることなく視線を外している。花火の光がその横顔を照らすたびに、どこか影が差しているように見えた。その様子が気になって仕方がなかったが、声をかける勇気が出なかった。
(夏菜は…今、何を考えているんだろう?)
そんな思いを抱えたまま、俺たちは夜空に咲く花火を背に静かに歩き続けた。せめて、この鮮やかな光景が、ぎこちなくなった空気を少しでも和らげてくれることを祈りながら。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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