(95)エルフと迷子
人混みをかき分けながら、必死にフィリアを探す俺。けれども、浴衣姿の人々で溢れかえったこの会場で、彼女の姿は見当たらない。汗がじっとりと滲み、息が上がる。それでも、止まるわけにはいかなかった。
「どこだよ…フィリア…」
独り言のように呟きながら、ふと夏菜との待ち合わせ場所に戻ると、彼女も同じように戻ってきていた。
「どうだった、見つけた?」
俺が声をかけると、夏菜は首を振った。
「いない…そっちは?」
「こっちもダメだ。もっと奥まで行ってみる。」
そう言って再び走り出そうとすると、突然背後から浴衣の袖を引っ張られた。
「ちょっと待って!」
振り返ると、夏菜が息を切らして俺を見上げている。その顔には焦りと、何か言いたげな複雑な表情が浮かんでいた。
「何だよ、夏菜!早くフィリアを──」
苛立ち混じりに言いかけると、夏菜が俺の言葉を遮った。
「待てってば!あんた一人で突っ走ったらどうするのよ!」
その声には、いつもの調子とは違う、微かな震えが混ざっていた。
「でも、フィリアが──」
なおも走り出そうとする俺を、夏菜はさらに強い声で制した。
「そんなにフィリアちゃんばっかり気にして、アタシのことはどうでもいいの?」
その一言に、俺は思わず足を止めた。
夏菜は息を整えながら続ける。
「ねえ、悠斗…なんでそんなにフィリアちゃんばっかり必死なのよ?」
その問いに一瞬言葉を失った。どうしてそんなことを聞くんだ?フィリアが迷子になったから探しているだけなのに。
「放っておけないだろ?迷子になってるんだから──」
「分かってる。それくらい分かるけどさ…」
夏菜は小さく息をつき、視線を逸らした。普段の軽口や強気な態度とは違う、どこかためらいを含んだ仕草だった。
「アタシのことは、どうでもいいわけ?」
「え…?」
突然の言葉に、胸が一瞬詰まった。どういう意味だ?
「アンタさ、フィリアちゃんを探すのにこんなに必死なくせに、アタシのことはどうでもいいんでしょ。」
夏菜の声には、苛立ちと寂しさが入り混じっていた。その瞳が俺を真っ直ぐ射抜く。
「そんなことないよ。ただ、今はフィリアが──」
「だったら!」
夏菜が俺の浴衣を強く引っ張り、再び俺を制した。その手は微かに震えているように見えた。
「だったら、アタシに教えてよ。ちゃんと、はっきり聞かせて!」
普段の明るさとはまるで違う、切迫した響きを帯びた声が耳に刺さる。
「教えるって…何を?」
夏菜は一瞬目を伏せ、そして再び俺を見上げる。その瞳には、普段見せることのない感情が浮かんでいた。
「悠斗…アンタ、アタシのこと、どう思ってるのか。」
浴衣の袖をさらに強く引っ張る彼女の手。その真剣な眼差しに、俺は息を呑んだ。胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われる。遠くでは、花火の音が響いているような気がするけれど、今はその音さえも聞こえなかった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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