(94)エルフと消失
駅から離れ、花火会場が近づくにつれて、夏の夜の熱気が一層まとわりつく。道端には色とりどりの屋台が立ち並び、浴衣姿の人々が楽しげに行き交っている。灯された提灯の温かな光が夜道を包み込み、雰囲気を一層盛り上げていた。その光景はこれぞ夏の風物詩という感じで、見ているだけで心が浮き立つ。
フィリアは目を輝かせながら辺りを見渡していた。何を見ても新鮮で仕方がないようだ。
「まぁ…あれはなんですの?焼きそば…?すごい香りですわ!」
そんな彼女の嬉しそうな声に、自然と笑みがこぼれる。
「いいから早く行かないと打ち上がっちゃうよー!」
夏菜がやや苛立った声で俺たちを急かす。そのいつもの調子に、逆に安心感すら覚える。
けれど、その瞬間――ドーン、パラパラパラ……と夜空に響く音が聞こえ、最初の花火が打ち上がった。
「あちゃー、間に合わなかったか…」
苦笑する俺に、夏菜が肩をすくめて「仕方ないか。歩きながらゆっくり見ようよ」と軽く言った。
ふと隣を見ると、フィリアが花火の光を受けて輝くエメラルドグリーンの瞳で夜空を見上げている。その瞳はまるで夢でも見ているかのようにキラキラと輝いていた。
「きれいですわ…本当に」
そう小さく呟く彼女の横顔は、どこか神聖さすら感じさせるほど美しかった。その純粋な反応に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
夜空に次々と花火が打ち上がり、光と音のショーに俺たちはしばし夢中になっていた。フィリアが「本当に素晴らしいですわ…」と感嘆の声を漏らす隣で、夏菜も笑顔を浮かべながら花火を見上げている。
やがて夏菜が俺に顔を向けて話しかけてきた。
「ねえ、悠斗。こうやって歩きながら花火を見るのも悪くないけど、次はちゃんと座れる場所を確保しとこうよ。」
屋台で買ったリンゴ飴を軽く振りながらの仕草が、いかにも夏菜らしい。
「まあ、それもいいけど、席取りとか面倒じゃないか?」
適当に返事をしながら、フィリアの方をちらりと見る。彼女はまだ夢中で花火を見上げている。その姿があまりに微笑ましくて、つい視線が長くなってしまう。
「面倒だけど、それくらいの計画性は必要でしょ?」
夏菜が軽くため息をつきながら言う。「次はアタシが計画立ててあげるから、悠斗はそれに従ってよね。」
「はいはい。」
苦笑いしながら頷くものの、心の中では(なんで俺が指揮される側なんだよ…)とぼやいていた。
だが、その時ふと気づく。フィリアの姿が見当たらない。
「…あれ、フィリアは?」
胸がざわつく。人混みの中、さっきまで隣にいたはずの彼女が消えている。
「え、どこ行ったの?」
夏菜も驚いた様子で辺りを見渡すが、人の波に飲まれたフィリアの姿は見当たらない。
「ちょっと待って、さっきまでここにいたよな!」
焦りが胸に込み上げる。俺は夏菜とのやり取りに気を取られていた自分を激しく後悔した。
「悠斗、まずは分かれて探そう。見つけたらすぐに連絡するから!」
夏菜が真剣な表情で提案し、俺は強く頷く。
「頼む!」
その一言を残し、俺は人混みの中へと駆け出した。
夜空には次々と花火が打ち上がり、華やかな光が辺りを照らしている。だが、俺の視界には人の波と焦燥感しか映らない。
(フィリア、どこだ…!)
心の中で彼女の名前を何度も繰り返しながら、俺は必死に人混みをかき分けて探し続けた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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