(93)エルフと降車
電車が無事に港の駅、花火大会の会場に到着。扉が開くと同時に、人の波が一気に押し寄せてきた。押されないように足に力を入れつつ、扉の真ん前にいたフィリアを先に降ろす。
「フィリア、降りて!」
俺の声に頷き、小柄な体を人混みの中へ滑り込ませるように降りていくフィリア。その後を俺も慌てて追い、最後に勢いよく夏菜が降りてきた。
「ほんっと、満員電車って辛いよねっ!」
息を切らせながら、夏菜が不満げに言葉を続ける。「東京とかだとこれが毎日なんだって!そんな生活、絶対無理だわ~。」
いつもの調子で肩をすくめて笑うその様子が、浴衣姿のせいかやけに華やかに見えた。
「フィリアちゃん、大丈夫だった?」
夏菜がフィリアを気遣う声をかけると、フィリアは控えめに頷きながら答える。
「だ、大丈夫でしたわ…。ありがとうございます。」
その声は少し震えていて、混雑にかなり緊張していたのが伝わってくる。
そんな空気を読まない夏菜が、急に声を張り上げた。
「ま、まさか痴漢!?どさくさに紛れて女子に手を出す奴とかいたら、絶対許さないんだから!」
「ちょっ、違うって!」
慌てて否定する俺を横目に、フィリアが夏菜に向き直り、静かに言った。
「そ、そんなことはありませんわ。ただ、少し押されて息がしづらかっただけですの…お気遣い、ありがとうございます。」
丁寧に頭を下げるフィリアの仕草に、夏菜は一瞬きょとんとした後、どこか納得したように頷いた。
このまま余計な話題を引っ張られたらたまらない。俺は咄嗟に夏菜の手を掴み、声を張り上げた。
「は、早く行こうか!もう花火始まるぞ!」
勢いに任せて前へ進むと、驚いた夏菜が背後から声を上げた。
「え、ちょっ、ちょっと!…な、何よ急に手なんか繋いで!」
振り返る余裕はなかったが、彼女の声には動揺が混じっている。恥ずかしいのか、それとも嫌なのか…。ただ、手を振りほどくわけでもなく、そのまま引っ張られるように歩いてくる。
その後ろから、静かにフィリアの足音がついてくるのが分かった。特に何も言わない彼女の気配が気になりつつも、俺はそのまま歩を進めた。
改札を抜けると、夜の空気がひんやりと肌に触れた。同時に、花火会場特有の熱気と賑わいが押し寄せてくる。遠くからはすでに花火の音が聞こえ始めていて、微かな振動が地面を通じて足元に伝わってきた。そのたびに胸が高鳴る。
ふいに、夏菜が足を止めて俺を睨むように見上げた。
「ちょっと、いつまで手を握ってんのよ!」
頬を赤らめた彼女の表情には、照れと苛立ちが混じっている。慌てて手を離した俺は、苦笑いを浮かべる。
「あ、ごめんごめん!」
手を引っ込めた瞬間、汗ばんだ手のひらに気づいてしまい、自分がどれだけ同様していたかを悟る。
(うわ…これ絶対バレたやつだ…)
心の中で頭を抱えつつ、必死で平静を装うが、どうにもぎこちなさが拭えない。
夏菜はじっと俺を見ていたが、ふいにぷいっと顔をそらした。
「…まあ、別にいいけど。」
その小さな声の中に含まれる照れが、妙に胸に刺さる。俺は胸がざわつくのを感じながらも、それ以上言葉が出てこなかった。
その時、後ろからフィリアが近づいてきて、心配そうに問いかけてきた。
「ユウトさん、何かあったのですか?」
「いや、なんでもない!ほら、行こう、花火始まっちゃうぞ!」
声が上ずっているのを感じつつ、その場を切り抜けるように早足で歩き出す。
背後から二人の視線が刺さるようだった。フィリアの無邪気な首かしげと、夏菜の何かを言いたげな気配。そのどちらも、どうしようもなく気になって仕方がなかった。
(頼むから、これ以上変な空気にならないでくれ…)
心の中でそう願いながら、俺たちは花火会場へ向かって歩を進めた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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