(92)エルフと満員
花火大会に向かうため、満員電車に乗り込む。案の定、車内はぎゅうぎゅう詰め。
「これ、フィリアにとっては初めての満員電車だろうな」と思いながら、彼女が押しつぶされないようにしなくちゃと必死で策を考える。
先に勢いよく乗り込んだカナは問題なさそうだったので、次に俺がスペースを確保しようと車内に入り、最後にフィリアを誘導して扉付近の位置を確保。これで万全――のはずだった。
ところが、電車が動き出した瞬間、大きく揺れて俺の体勢が崩れる。支えようと両手を扉に伸ばしたはずが、ズルリと手が滑り、気づけば俺の手はフィリアの顔のすぐ横に。姿勢が完全に崩れ、俺の顔はフィリアの顔に異常なほど近づいてしまった。
一瞬、時間が止まる。近い、いや近すぎる。彼女の瞳が俺を捉え、その視線に胸がバクバクと暴れ出す。
「ご、ごめん!」
慌てて顔を真っ赤にして謝ると、フィリアも同じように顔を赤く染めながら、か細い声で返してきた。
「だ、大丈夫ですわ…」
麦わら帽子の影に隠れた彼女の頬の赤みが妙に目につき、目を逸らそうにも、狭い空間では逃げ場がない。俺の心臓は今にも破裂しそうだった。
幸い、フィリアが被っている大きな麦わら帽子のおかげで、この距離感の異常さや俺たちの顔の赤さは、ほかの乗客に気づかれていない――と思う。でも、それがわかったところでこの気まずさが消えるわけでもなく、逆に意識しすぎて頭がぐるぐるしてしまう。
「えっと…満員電車って、降りるの大変そうだよな…」
どうにかこの空気を誤魔化そうと話題を振るが、声が裏返りそうになる自分が情けない。
「あ、あの…私、こういうの初めてですので…」
フィリアも小さく答えるが、声が震えていて、その横顔から覗く真っ赤な頬がさらに俺を動揺させる。
電車が次の駅に停まるまでの数分間、俺たちはお互いに顔をそらしながらも、時折視線が交差し、そのたびにさらに顔が熱くなる。まるで空間全体が二人だけのものになったような、変に静かな時間だった。
「あとちょっと、あとちょっと…」
そう自分に言い聞かせながらも、なぜかこの時間が名残惜しく感じる自分がいて、胸の中に複雑な思いが広がっていった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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