(90)エルフとトライアングル
フィリアが帰るまで、あと4日。
土曜日の午後、銀さんが軽快な足音とともに銭湯に現れた。金髪に無数のシルバーアクセサリー、派手なアロハシャツ。その独特の存在感とテンションは今日も健在だ。
「明日は一大イベント、花火大会やな!闇夜に散る火花、煌めく浴衣、香ばしい屋台、燃え上がる恋!これぞ日本の夏や!いやー、あんちゃん、楽しみやのぉ!」
相変わらずの銀さん節。思わず苦笑いしてしまう。
「そ、そうですね…」と曖昧に返す俺を見て、銀さんの目が怪しく光った。
「なんや?元気そうやないな?まさか花火大会、行かんのか?」
「ちょ、ちょっと花火大会は、色々あるっていうか…」
銀さんには前に相談したものの、フィリアと夏菜の二人と行くことになったとは言いにくい。なんだか恥ずかしさが勝ってしまい、口をつぐんでしまう。
「ほぉ、色々ねぇ!花火大会も行かんと銭湯の営業するつもりか!仕事熱心で感心やのお!夏を忘れ、日本の風物詩を忘れ、目の前の仕事しか目に入らん小さな男に成り下がりよったか!」
「い、行きますよ!」
思わずムキになって返してしまうと、銀さんの顔にはさらに深い笑みが浮かんだ。ああ、また釣られた…。
「ほぉ、誰とや。爛漫娘、献身娘、どっち選んだんや。」
「爛漫娘?献身娘?」
一瞬何を言っているのかわからなかったが、銀さんの視線が俺とフィリア、さらには夏菜の存在を暗示していることに気づき、すべてを理解した。いつの間にそんな隠語を作ったんだ、銀さん…。
隠し通すのは無理だと観念して口を開いた。
「ど、どっちとも、です…。」
「両手に花っちゅうわけやな!羨ましいのお!」
銀さんは腹を抱えて笑いながら続ける。「全高校男児が君の敵に回るで!闇討ちに注意しいや!」
苦笑しつつも、胸にじわりと気まずさが広がる。そんな俺を見た銀さんの表情が突然引き締まった。
「ただな、ユウトくん。」
その真剣な声に、自然と背筋が伸びる。
「繰り返すけど、決断はせなあかん。優柔不断が一番ダメや。決めないと、どっちも失うことになる。忘れんようにな。」
その言葉には、銀さん自身の経験がにじんでいるような重みがあった。けれども、銀さんは肩をすくめてすぐにいつもの飄々とした態度に戻った。
「ま、せいぜい楽しんできぃや!青春を謳歌するんやで!」
飄々とした背中を見送りながら、俺の胸の中で銀さんの言葉がぐるぐると反響する。
「決断しないと、どっちも失う…か。」
妙に胸に刺さったその一言は、ただの軽口ではなく、銀さんが本気で伝えようとしていたからだろう。頭の中には、フィリアの笑顔と夏菜の表情が交互に浮かび、消える。そのたびに、どうしてもモヤモヤが晴れない。
翌日に迫る花火大会。そして、フィリアが帰る日も刻一刻と近づいている。答えを出さなければならない気がして、焦燥感が胸を締めつける。けれど、心の整理は一向につかないまま番台に座り、営業を続けていた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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