(88)エルフと予想
フィリアが帰るまで、あと5日。
金曜日の朝。昨日のお姉さんの突然の来訪で慌ただしかった一日が終わり、今日は特に予定もない。俺とフィリアは早めに銭湯の掃除と準備を終わらせ、余った時間を使って河川敷で拾った石を並べる作業に取り掛かることにした。
倉庫前の日陰に石を並べると、フィリアはその前にしゃがみ込み、眉を寄せながら真剣な表情で石を見つめている。麦わら帽子の下で揺れる銀髪が夏の日差しを受けて淡く輝き、まるで夏の風景に溶け込んでいるようだ。彼女は小声でぶつぶつと呟きながら、何やら考え込んでいる。
「月の力を借りるとなると、カーバンクルさんを呼び出す術式を反転させて応用して…でも逆召喚となると、重ね合わせるべき術式が異なるはずで…」
何を言っているのかはさっぱり分からないが、フィリアの真剣な様子に圧倒され、俺は声をかけるタイミングを見失った。彼女が石を手に取っては配置を変えるその姿は、まるで難解なパズルを解こうとしているようで、俺まで手元の作業が遅くなる。
それにしても、今日の暑さは容赦ない。フィリアは麦わら帽子をかぶっているものの、じりじりとした日差しが彼女の小さな体を直撃している。
「フィリア、水分補給、ちゃんとしろよ。」
軽く声をかけてみたが、彼女は一心不乱に石を並べ直していて、返事がない。仕方なく、俺は麦茶を冷やしてタオルも準備しようと、銭湯の中へ戻ることにした。
キッチンで冷やしておいた麦茶を水筒に注いでいると、つけっぱなしのテレビからニュースの声が聞こえてきた。
「百年に一度の超大型台風が接近しています。予想進路では─」
画面に映る予測ルートに目を留めた瞬間、俺は手を止めた。花火大会の翌々日──つまり満月の夜に、台風が直撃する予報だ。
「うそだろ…フィリアの帰る日じゃんか…!」
満月の力を借りて召喚を行うと言っていたフィリア。もし満月が台風で雲に隠れてしまえば、魔法は発動しないのかもしれない。そうなったらどうなる?フィリアは帰れないんじゃないか?
胸がざわざわと騒ぎ出す。けれど、すぐに彼女に伝えるわけにはいかない。不安にさせたら、せっかくの準備にも影響が出るだろう。それに、台風の進路なんて予報が外れることだってある。
「大丈夫、大丈夫。まだ決まったわけじゃない。」
自分にそう言い聞かせながら、冷たい麦茶を水筒に詰め終え、タオルを手にして深呼吸をした。
「よし、何事もなかったように振る舞おう。」
そう心を決め、急いで倉庫前へ戻る。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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